第一章 61 クラブでのナンパはデフォルト
「何飲む?」
会場の雰囲気にのまれている春乃はメニュー表を眺めてはいるが、頭に入ってこないようで、えーあーと間伸びした声を発していた。
「初アルコールにチャレンジしてみる?」
「ううん。お、お酒は大丈夫かなー」
「そうだぞ。こんなところで酔っても碌なことねーからな」
今別府さんは後ろからジュースにしとけジュースにと、見た目からは想像つかない真っ当な助言をしてくれる。
「んじゃ、コーラでいっか。春乃もそれでいい?」
「うん」
俺はバーテンダーにコーラ二つでとお金を払うと、瓶コーラの栓を抜いて渡してくれた。
コップに注がれたコーラじゃない瓶コーラは持ちやすいし旨いので、とてもありがたい。
しかし今別府さんはそれを不満そうに眺めていた。
「どうしたんですか?」
「客に瓶を持たせると凶器になるからやめてくれって言ってんだけどな。オーナーのこだわりか、ハイネケンとかコーラの瓶提供をやめなくて面倒くさいんだよ」
「なるほど」
色々な状況を想定するセキュリティの仕事は神経を使いそうだなと思った瞬間、少し離れたところで大きな怒声が聞こえた。
騒ぎが起こった方に目をやると、体格のいい男達が数人で胸ぐらを掴み合いながら怒鳴り合っている。
「ちっ」
今別府さんはトランシーバーで場所と人数を端的に伝えながら頭を掻いた。
「あれの対処してくるから、待っててくれ」
動くなよと言いながら人を掻き分け、騒ぎの方向に歩いていった。
「七海くん……」
「ん?」
「やっぱり帰ろ。こ、こんな危ない所にいちゃ駄目だよ」
俺の服の裾を引っ張りながら、固い笑顔で帰宅を促す春乃。
「気持ちはわからないでもないけど、龍くんとかに挨拶しときたいし。なんなら春乃だけ先に帰ってもいいよ」
俺の言葉に悩んでいる様子だったが、やはりメアリのことが気になるのだろう、七海くんと一緒にいる、と覇気のない声でそう言った。
俺達は今別府さんが騒ぎを収めにいった人集りを眺めつつコーラを飲んでいると、見るからにチャラそうな、タトゥーを顔に入れている二人組の男達が歩み寄ってきた。
「あれれ?何?めっちゃ可愛い子おるやん」
「お、マジだ。可愛い子ちゃんヤッポ〜イ。俺達芸能人の知り合い多くてさ、紹介するから一緒に遊ぼうよ」
俺のことなど眼中にないようで、春乃に声をかける二人。
「な、ななみくん……」
「うん?」
「やっぱり帰りたいよぉ……」
涙目になりながら前言を撤回した。




