第一章 6 ヘッドフォンはノイズキャンセラー
入学式の当日は春霞の空、穏やかな日和となった。
俺と紗希は中学生の時と変わらず通学路を並んで歩いていった。
道中、昨日のことを思い出したのか気分はどう?と聞かれたので、新しい出会いに胸が躍っていると返し、失笑を買った。
学校に着くと壁掛けの掲示板にクラス表が掲載されていて、各箇所に立っている腕章をつけた学生が、新入生を誘導している。
紗希と俺は同じクラスだった。
教室内に入ると、既に小集団がちらほら見え、担任が教室にやってきてからも喧騒はしばし続いていた。
入学式が終わって教室に戻ると、レクリエーションということで担任から簡単な自己紹介と学校説明が終わったあと、一人ずつ自己紹介をすることになった。
大体がつつがなく自己紹介をこなしていく中、やはりと言うべきか、宇宙人や未来人を探していたり、邪眼を持っていたり、彼氏彼女を募集している鼻息の荒い連中もいたのはご愛嬌だろう。
ふと、中学生の時に丸が「俺に逆らうやつは全員殺す」と息巻いて自己紹介をしたところ、それを聞いた同級生が番格の先輩にチクッて、顔がパンパンになるまでボゴボコにされたことを思い出し、ニヤニヤと笑みがこぼれた。
一通りの流れが終わり、騒ぎ過ぎないよう注意を促されながらもチャイムが鳴るまで自由時間と担任に言われ、俺は早速後ろを向いた。
後部座席に座っているのは、千枝 春乃と一言呟いて自己紹介を終えた、黒いヘッドフォンをつけて虚空を見つめているセミロングボブの女の子。
見た目も可愛いかったが、それ以上にクラスメイトとのコミュニケーションを投げ捨てて、音楽の世界に没入している子が、どんな音楽を聴いているのか気になり、声をかけることにした。
「あのー千枝さん、はじめまして。伊達七海って言うんだけど…………声聞こえてるかな?」
「………………………」
「なんか結構いいヘッドフォンしてるから、音楽好きなのかなーって思って」
「………………………」
「俺も音楽聴くの結構好きで、よかったら音楽トークしたいなぁーって…………」
「………………………」
「……………ちえださーん」
俺は千枝さんの前で手を振りながら、話しかけているよアピールをしてみる。
無反応だった千枝さんも流石に気づいたようで、虚ろな目が俺に向いた。
「お、千枝さん反応してくれた」
俺は再度手を振って、ヘッドフォンを外すジェスチャーをすると、千枝さんは気怠げにヘッドフォンを外した。
「………………なーに?」
「あーごめん。千枝さん、何の曲を聴いてるのかなーって思って」
「…………………曲?」
首をゆっくり傾げながら、不思議そうに尋ね返される。
「あれ、音楽とかじゃなくて、なんかラジオ的なのを聞いてた感じ?」
「……………………?」
「…………でもないのかな?…………なんかいきなりでごめんね」
俺は邪魔をしてしまったかと思い、前を向こうとした。
「ねぇ、もしかして音楽すきなひと?」
「…………うん」
どうやら俺の意図は全く伝わってなかったらしい。千枝さんは俺の意図に気付いてくれたようだった。
「明日」
千枝さんは殊更億劫そうに単語を発した。
「明日?」
「今日は」
「今日?」
「モチベがない。また明日」
「…………おっけー」
千枝さんはその言葉を最後にヘッドフォンを装着し、一人の世界へ帰っていった。
俺はひそかに、千枝さんの音楽趣味を解明しようと明日も話しかけることを心に誓ったのだった。




