第一章 59 紗希の得意技は空気入れ
「明日のボディーガードは春乃に任せたわ」
紗希と春乃が作ったご飯を頂いて、リビングでまったりしていたところ、紗希は今日の昼にあった出来事を思い出したのか真剣な目つきで口を開いた。
「うん!七海くんの周りに女の子が近づかないように守りきるよー」
腕捲りをして細腕を出しながらフンスと気合いを入れる春乃。
全く攻撃性を感じない弱々しさに半笑いする。
「やっぱりお前は来ないんだな」
殆どの時間を一緒に過ごしているが、こういう催しや大人数で集まる場所までは、絶対に顔を出さない紗希。
誘う前からお断りとも取れる、春乃への丸投げ宣言だった。
「本当は羽虫が飛び回る状況を看過出来ないけれど……考えた結果、私が行かない方が予想通りの展開になってくれそうな気がするのよね」
含みのある紗希の言葉に、碌でもないことを画策しているのだろうと直観的に思った。
「何より春乃がついてるから、私が出しゃばる必要もないでしょう」
春乃にニッコリと微笑みながら、七海の彼女だしねと甘言を弄する紗希へ、心底嬉しそうに照れた様子で微笑んでいる。
春乃は完全に紗希の術中にハマっているが、俺もそちらの方が都合が良いので何も言わずに春乃の頭を撫でた。
春乃は顔を緩めながらも、メアリさんのいいようには絶対にしないもんと決意を固めている。
「わたし一人で少し不安だけど紗希ちゃんから色々アドバイスも聞いてるし、対処法も教わってるから大丈夫。もし最悪な事態になったら……その時は」
「?」
「春乃、今はそれを考えない方がいいわ。最後の手段は、その状況に陥った時に使うか使わないか、考えればいいのよ。何より七海を信じるんでしょ?」
「……ん、そうだね。わたしは七海くんを信じているから」
「なんの話をしてるんだ?」
女の子同士の秘密よ、と口元に人差し指を当てながらウィンクする紗希。
久々に怖気が立った。
「………どうしたのかしら?」
「………お前、ウィンク死ぬほど似合わないな」
「…………長い付き合いになるけれど、まだ私の魅力が十分伝わってなかったようね。今度、じっくり教えてあげるわ」
「…………遠慮しておく」
俺は恐ろしい誘いを跳ね除け、二人の密談を掘り下げるのを諦めた。
しかし、春乃が俺を信用しているとは意外だった。
「信用してるって、自分で言うのもなんだが何を信用しているんだ?」
春乃は俺の言葉に少し考えて口を開く。
「七海くんは、自分からエッチなことはあまりしないから、メアリさんの誘惑に負けないかなって……」
「あぁ……」
そりゃ勃たないしな。
「だから意地悪なところは沢山あるし、女の子とデートの約束とかしちゃうけど、わたし以外とは……そのキスとか、してないと思うし……」
「うーん?おぉ」
別にタイミングが無いだけなんだけどなという言葉は一応飲み込みんでおくことにする。
「それに、七海くんって本当に興味あることってあまりないでしょー?だから、受け身でいる分私がしっかりしてれば問題ないしねー」
春乃の言葉にうんうんと頷いている紗希。
俺は息巻いている春乃が予想以上の爆音と人の渦に酔い潰れて、グロッキーになる未来が見えた。
明日はむしろ俺が介抱する側に、なんならナンパされる春乃の虫除けにならなければいけない可能性を考え、面倒くさいことが起こらぬよう事前に龍くんへ話を通しておこうと思った。
まぁ龍くんのバンドにぶち込む予定でなければ、それもまた面白かっただろうけど。




