第一章 43 紗希と春乃、お友達になる
「どうやらご納得いただけたようね」
紗希は澄ました顔で水を一口飲んだ。
「……七海くんと雨倉さんって変な関係だよねー」
一旦冷静になったのか、怒りはある程度収まったようで、純粋な疑問といった風に小首を傾げた。
「変っていうか、紗希が俺のストーカーなだけだよ」
「ス、ストーカー……それって警察に相談した方がいいような……」
「失礼ね。ストーカーじゃなくて母親代わりよ」
「な?言ってることがおかしいだろ?」
春乃は若干引きつって、苦笑いする。
「だからね、千枝さんも私に敵意を抱くのは通り越し苦労というものよ。何度も伝えているように私と七海がどうこうなることは現状ないのだから」
「えー……うーん?」
微妙な顔をしながら唸る春乃。
「私を警戒するより、他の女が近づかないか気をつけたい方がいいわよ、七海はモテるから」
「それは……気をつけるよー」
「特にうちの学年にいる村田メアリという女には気をつけた方がいいわね」
腕組みしながら何度も頷く紗希。
「村田メアリさん?」
「私達と同じ中学でうちの学校に何故かいるクソビッチよ」
「いや、言い方」
「事実だから問題ないわ」
「同じ中学……」
春乃はふむふむと紗希の言葉に耳を傾け始めている。
徐々に警戒心は解けているようだった。
「あのビッチはかなり手強いから、もし千枝さん……春乃さんを困らせるようなことがあれば是非言って頂戴。絶対協力するから」
「……ありがとう雨倉さん」
「紗希でいいわよ」
「え、でも」
「私は春乃さんと仲良くなりたいと思っているわ。名前で呼んでくれたら嬉しいのだけれど」
満面の笑みで差し出された握手を求める手に、逡巡する春乃だったが、結局その手を握って、よろしく紗希さんと応えた。
「ありがとう。私が七海の家で料理するのは七海のお父様に昔から頼まれているからであって、他意はないから安心してね」
「……わかったよー」
どうやら上手く言い包められてしまったようだ。
春乃は仲良くなりたい、友達になりたいという言葉に弱いのかもしれない。
「お待たせしました!天ぷら御膳、ふわとろオムライス、クラブサンドでございます」
カートを押しながら店員が料理を運んできた。
料理をそれぞれ配膳されると、俺達は無言で飯を食べたのだった。
食事を終えてファミレスを出ると、春乃はタクシーで来たからとそのままに、俺と紗希は二人で帰路につく。
「お前、マジで春乃と友達になりたかったん?」
俺は紗希の行動を読みあぐねて直接聞いてみた。
「えぇ、勿論。今日話して確信に変わったから」
「なんの話しだ?」
「春乃さんが私の敵になり得ないってことよ」
「……?」
紗希はその話を打ち切って話頭を転じる。
俺も深くは追求せず、紗希と雑談に興じながら夜道を歩いていった。




