第一章 40 テンション高めなオッサンだったな
俺はどこか寄り道をしていきたい気分になり丸へ電話する。
応答はなかったが、多分ゲームでもやっているのだろうと思い、直接訪ねることにした。
朝来た道のりを引き返し、自宅に自転車を戻して丸の家へ向かう。
住んでいるアパートに着くとドアノブを引いてみたが開いていない。
インターホンを押してみるも反応がなく、不在のようだった。
俺は仕事かなと考えているところに丸から返信が来る。
どうやら泊まり込みで地方の仕事へ行っているらしい。
俺はそのまま当てもなく歩き始めた。
しばらくすると近所で一番大きい公園があり、自動販売機で飲み物を買ってなんとなくベンチに腰掛けた。
園内には、遊具がある区画に数組の家族連れ、ベンチの目の前にあるバスケットコートでは同年代の学生だろう、数人の男子が遊んでいた。
俺はボンヤリとバスケの3on3を眺めていると、自転車に乗った年嵩の男がコート内のゴミ箱付近で停車し、中を漁り始めた。
自転車の荷台には缶をパンパンに詰めたゴミ袋を括り付けている。
乱れ放題の蓬髪に不精ひげ、顔は土色に襤褸をまとっていた。
学生達の攻防はヒートアップし、シュートをブロックした時に弾かれたバスケットボールが缶を集めている男の前で止まった。
男はバスケットボールに見向きもせず、黙々と缶を回収している。
学生はヤベッと言いながら、バスケットボールを拾ってコートに戻った。
その拍子に学生のポケットに入っていた二つ折りの財布が男の目の前に落ちた。
男は財布に気付くとそれを拾う。
俺は興味をそそられて男を注視した。
「おーい!!!財布!!!さ!い!ふ!」
しゃがれた大声で財布を持った手を振りながら学生達に呼びかける。
バスケットボールを持っていた学生はポケットに手を当て、落としたことに気付いたのかボールをほっぽり、男の元まで走っていく。
「すいません!ありがとうございます!!」
「おう。金は命より大切だから気をつけろよ!!!!」
「はい!」
男は学生を見送ると、視線に気付いたのかこちらに顔を向けた。
目が合うと、男はゴミ袋を置いて俺の方へ近寄ってくる。
目の前まで来ると悪臭が鼻をついた。
「おめぇ、俺が財布をちょろまかすって思ったか?」
「まぁ、そうですね」
男はニタニタと笑いながら俺にぐっと顔を寄せる。
「俺はなぁ、人から物は取らねぇんだよ。俺はなぁ、人から奪わねぇんだよ」
「はぁ」
「お前は俺が金のないやつだと思ったか?金はねぇぞ!全部取られたからなぁ!!!!!でも俺は人様からは取らないんだよ!!!!分かったか!!!?」
「はい」
「俺はとらねぇんだよ!取られたんだよ!!阿弥陀如来が俺を迎えに来るんだぞ。えぇ?」
「よかったっすね」
「よくねぇぇぇぇぇえええええええええええええ!!!!」
男は絶叫しながらベンチの周りを歩き始めた。
「でも確かゴミ箱の缶って、勝手に取っちゃいけなかったと思うんですが」
俺の言葉にピタリと動きを止め、へつらうような笑みを浮かべると、先ほどの興奮が嘘のように無言で自転車の元へ戻って、その場を去っていく。
鼻腔に残る悪臭にくしゃみをして、俺もその場を後にした。




