第一章 38 快楽の種子
俺は直感的に、ここが人生の分岐点になることを悟った。
一度、俺は彼女から離れようと考えた。
何故なら、彼女を巻き込むには友達として強い好意を持ってしまったからである。
紗希や丸、龍くん達と同じ友情、というよりは寂しさを紛らわしてくれる魂の血肉。
それと同じくらい離れ難いものになるかもしれないという予感。
紗希や丸は構わない。
きっとあいつらは俺の歩んでいく無軌道な堕落に巻き込まれたとしても問題はないだろう。
むしろ、あいつらの方が俺に迷惑をかけているくらいだ。
しかし春乃は?
この少女はただ、自分を見てくれる人間を渇望しているだけで、たまたま俺がタイミングよく居合わせたに過ぎない。
俺という人間が過ぎ去れば、いつか春乃を本当に愛してくれる人間と出会うことだろう。
理性がそう俺に告げている……が、この女の軌跡をとことんまでしゃぶり尽くして、どのような産声を上げるか見てみたい、人生が狂っていく姿をこの目に焼き付けたい。愛した者に裏切られる様を観察したい。殺してほしい。
そして、もし叶うならば、この俺のちんけな欲望を超えた〝何か〟を見せてほしい。
これ以上意図して春乃に関わるということ、それは俺を後戻りできない、人の道に外れた醜悪な道へと誘うだろう。
…………いや、今更か。
俺は口の端に上った笑いを噛み殺して、春乃を抱き寄せた。
「…………あ」
なんてあどけない顔をするのだろうか、俺は春乃の唇を奪った。
熱い肉の感触とほのかに香る甘い匂い。
俺は春乃の口腔に舌を侵入させ、愛撫する。
初めは驚いた春乃も徐々に舌を絡ませて、ぎこちない様子で俺の舌に動きを合わせていた。
熱い吐息が交ざり合う。
しばらくして顔を離すと、唾液が糸を引いた。
「春乃」
俺の胸に顔をうずめていた春乃は、上気し、潤んだ瞳で見上げた。
「付き合おうか」
驚きのためか瞳孔が小刻みに揺れたが、目をつむり、溢れて出る涙をそのままにしっかりと頷いたのだった。




