第一章 34 父さんのコーヒー
明日は長めに更新しやっす
翌朝、目が覚めてリビングに下りると、手挽きのコーヒーミルをクルクル回しながらコーヒー豆を挽いてる父さんがいた。
サングラスにねじり鉢巻のいつものスタイル、咥え煙草からは紫煙が揺蕩い、取手を握る際に現れる前腕筋のスジは力強さを誇張していた。
ゴリゴリと豆が挽かれていく音を楽しんでいるのか上機嫌に鼻歌を歌っている。
「おかえり。仕事は落ち着いたん?」
俺は殆ど車中泊だったであろう父さんがやっと家に帰ってきたので、繁忙期を乗り切ったのかと思った。
「ただいマドモアゼル!いや、5月半ばまで休みがねーな」
「あれ、いつもならゴールデンウイークは休みなのに」
「人手不足でなぁ。今日と明日休んで、そっからぶっ通しよ」
「相変わらずの大変さだな……」
休みを取らず、身を粉にして働いている父さんに頭が下がる思いである。
「ハッハッ!何ガキが一端の口きいてんだ。ほら、コーヒー入れてやるから座れ」
父さんはフィルターを敷いたドリッパーに挽き終わったコーヒー豆をサラサラと入れていく。
沸騰したやかんから少量のお湯を注いで蒸らし、時間を置いて再度お湯を注いでいった。
サーバーにコーヒーが充分に落とされると、コーヒーカップを二つ用意して俺の分を渡してくれる。
俺は朝一のコーヒーを堪能しながら首を軽く回した。
「どうだ?学校は楽しいか?」
父さんは小学生の頃から変わらず聞いてくる質問を俺に投げかけてくる。
「うーん、ボチボチだなぁ。勉強してバイトしてって感じ」
「そうか。ボチボチなら何よりだ」
父さんはテーブルの上に置いてあったスポーツ新聞を広げた。
新聞の表紙は野球選手のホームランを讃えている内容だった。
「あ、今日は飯いらないかも」
「ん?紗希ちゃんと飯でも食べるのか?」
父さんは新聞から顔を上げる。
サングラスが一瞬キラリと光ったように思えた。
「いや、高校の友だちと。もしかしたらだけど」
「女か?」
「うーん、まぁ…….」
「ほう」
コーヒーを一口すすり、新聞に視線を戻した。
「七海。女の子には優しく接しろよ」
「……あぁ」
俺はなんだか反論したい気持ちがムズムズと沸き起こってきたが、どうせ埒があかないのだろうとそれをグッと飲み込んだ。
「父さんこそ、行きつけのスナックのママとは上手くいってんのかよ」
俺は意趣返しに父さんがハマっているママさんの話を切り出す。
「…‥大人の関係に口出しすんな。今日も顔出してご機嫌取りだよ」
へんっと鼻を鳴らして足を組む父さん。
俺は溜飲が下がり、コーヒーを飲み干した。
「お前朝飯は?」
リビングから出て、風呂に入ろうとする俺を呼び止める父さん。
「あー今日はいらないわ」
時刻は10時を過ぎているので、春乃の家に着く頃にはお昼時だろうから、その時腹が減っていれば何かしら食べればいいだろう。
俺は風呂に入って身嗜みを整えると、自転車に乗って春乃の家へ向かった。




