第一章 29 食い気より眠気
龍くんと湊さんの演奏が終わった後、夜は深まり、気付けばボックス席を除いて満席となっていた。
普段ならばこのまま帰宅するところだが、なんとなく働きたい気分になり、店に残りながらお客さんと談笑しつつ深夜まで働いたのだった。
その為に今日は朝から寝不足で、授業中意識を失いかけては教師に注意を受け、またウトウトしては、丸めた教科書で頭をはたかれて起きるといったことを繰り返して、クラスメイトに笑われていた。
小休憩の合間に春乃がすごく眠そーだねと心配そうに話しかけていたが、あまりの瞼の重さに空返事をして机に突っ伏していた。
俺は4限目の終わりのチャイムが鳴ると、パソ室のゆったりしたオフィスチェアーで仮眠を取ろうと席を立った。
「あ、七海くん。今日もお弁当作ってきたんだけど……」
春乃は立ち上がった俺に焦った様子で声をかけてくる。
「わりー眠気ヤバすぎて食欲ないわ。折角作ってくれたのにごめんね」
「…………んーん、気にしないでーわたしが勝手に作ってきてるだけだから」
俺の言葉で見るからにしょんぼりした春乃に可哀想な気持ちが多少わいたが、流石に眠気には勝てない。
「あー放課後とか残ってたら食わしてもらえる?」
「……ありがと。気を使わなくて大丈夫だよーそんなに沢山作ってきたわけじゃないから」
「なんか悪いな」
「こっちこそだよ。呼び止めちゃってごめんねー」
春乃は笑いながら手を顔の前でパタパタさせつつ、鞄を持って席を立った。
俺は珍しくどこかへ行く春乃の後ろ姿を尻目に、パソ室へ急いだ。
PC室に入ると林先輩が相変わらずパソコンの画面を凝視しながらキーボードをカタカタしている姿が目に入った。
俺はウッスと軽く会釈をして、林先輩と対角線の反対側に陣取り、念のためもってきたアイマスクを装着してオフィスチェアーに深く腰を預けた。
そういえばアラームもかけておこうと、一旦アイマスクを取り外してからスマホをデスクの上に伏せておき、肘掛けに手を置いた。
静かなパソ室に、遠まきに聞こえる学生の声と規則正しいリズムで叩かれるキーボードの音はなかなかに心地よく、寝不足の俺を一瞬にして夢の世界へと誘った。
アラームと予鈴が同じタイミングで鳴り響き、寝起きの気だるさの中、嫌々目を覚ます。
俺はアイマスクを外して涎を拭うと、目の前に立っている林先輩に気付いた。
「起きたか。鍵を閉めたいからさっさと出ろ」
「……………へい」
俺は抑えきれぬあくびをそのままに、先輩と連れ立ってパソ室を出た。
教室に戻ると、既に着席している紗希が涎の後残ってるわよと言いながら除菌ペーパーを渡してきたので、感謝を述べつつささっと顔を拭いてゴミ箱に投げ、自席へ戻る。
春乃はおかえりーと言いながら、次は英語だよと声をかけてきた。
春乃の目は少し赤みがかっていた。




