第一章 23 ベース
連日短めで申し訳なさす。
近日中に長めに更新します。
俺は店員を呼び、青椒肉絲のランチセットを二つ注文した。
「そういえば部活見学の時に軽音部の前にいたけど、入部しなかったんだね」
気になりつつも聞きそびれていたことを尋ねてみる。
「うん‥‥少し興味があっただけだから……」
「なるなる。確かに楽器できると楽しそうだもんなぁ。やっぱり弾くならギターとか?」
「んー、楽器はなんでもいいの。夢中になれる何かがあればいいなって……」
自宅で埃を被っている、龍くんに押し付けられたベースを思い出した。
「先輩に無理やり押し付けられたベースがあるんだけど、よかったらもってく?弾かないからずっと邪魔だったんだよね」
「そんな、もらえないよ……」
千枝さんは首を横に振った。
「いーっていーって。むしろ使われないで埃を被ってるよか、誰かに弾いてもらった方がベースも喜ぶよ」
「でも、一人で楽器をやっても……」
「大丈夫大丈夫。バンドとか組みたくなったらメンバー探すの手伝うしさ!マネージャーとして!」
「マネージャー……」
「そうそう!興味あるならチャレンジした方がいいよ!もらうのが嫌なら貸すってことでもいいしさ」
その内、龍くんのバンドにぶち込んでしまおうと思う。
ベースを練習してバンドに参加しろと五月蝿い龍くんに辟易していたので丁度いい。
音楽趣味も合いそうな千枝さんだったら龍くんも大歓迎だろう。
千枝さんは俺のそんな目論みなぞ露知らず、逡巡した後
「………わたし、ベース練習してみる。伊達くんありがとう。しばらく借りるね」
と言いながらぺこりと頭を下げた。
タイミングよく給仕のお姉さんが、料理を運んでくる。
湯気が立ち上る出来立ての青椒肉絲はとても美味しそうだ。
「おっけーそしたらベースの教本とかも買いに行こうか」
「うん」
「飯食べた後は、本屋とCD屋で決定だね。冷めない内に食べちゃお」
俺と千枝さんは青椒肉絲に舌鼓を打ち、腹拵えもそこそこに席を立った。
普段の昼飯がカロリーメイトなせいか、少し苦しそうな千枝さん。
俺は会計を早々に済ませて、一足先にお店を出た。
後から追ってきた千枝さんは慌てて財布からお金を取り出そうとしていた。
「今日は付き合わせてるお礼に俺が奢るよ」
千枝さんは今まで見たことがない勢いでダメだよっ!と声をあげる。
俺はそんな千枝さんを無視して、財布をバックに無理やり戻させた。
戸惑った様子で俺を見つめる千枝さんに少し吹き出してしまう。
「バイトしてるから任せてちょ」
「でも、そんな……奢ってもらうのは……」
「奢りたいから奢っただけ。そんなことより、はよ本屋にいこうぜい」
まだ納得いっていない様子の千枝さんの手を取って、エスカレーターに向かう。
俺は少し、千枝さんを振り回すことに楽しみを覚え始めたのかもしれない。




