第一章 2 ピザ追加で3枚!!
家に帰る途中、丸が酒を補充してくると返事をする間もなく大股でコンビニへ入っていった。臼に手足が生えたような丸の後ろ姿を見送り、今日の晩飯に思いを馳せる。
紗希は料理が上手いので、どんな献立を用意しているのか想像するだけでテンションが上がっていくのだ。
紗希の定番料理、ハンバーグとカツカレーの献立対決に涎が溢れてきた頃、袋にパンパンの酒を買い込んだ丸がえびす顔で出てきた。
「お前凄い量……てか、よくコンビニで買えたな」
「あぁ。この時間帯は外国人のやる気のねぇアンちゃんしかいないから、いちいち年確されねぇんだわ」
「へぇ」
「ここがダメなら反対の酒屋でも買えるし、作業着でいつも買いに行ってるから顔パスってもんなんよ」
丸は袋からビール缶を取り出すとカシュっと気が抜ける音と共に口へ運んだ。
「お前も飲むか?」
「いや、今はいいわ」
丸の半歩前を歩きながら真っ直ぐに歩いていく。このコンビニを過ぎれば家まであともう数分だ。
家の前に着くと二階建ての我が家に明かりが点いている。紗希が既に調理を始めているのだろう、玄関を跨いだ時に香るご飯の匂いに期待を膨らませながらドアを開けた。
「お帰り」
リビングから紗希が顔を出した。
「ただいま。あれ…………?まだ飯作ってない?」
「今日の夕飯はあともう少しで届くよ」
「‥‥…もう少しで届く?」
俺は紗希の言葉に首を傾げながら家に上がり、続いてサンダルをほっぽりながら丸も続いた。
「……豚。その大量に買い込んでるものは何?」
吊り目気味の目を更に吊り上げて、眉間に皺を寄せている。
「ああ?どう見ても酒だろ」
「…………七海に飲ませてないでしょうね?」
「今日は七海くん、飲んでないですねぇ〜〜〜」
「…………ハァ」
紗希は軽蔑しきった表情で半眼にため息をついた。
「まぁいいわ。丸、4000円」
「……………うん?4000円だと?」
「そうよ、夕食代4000円」
「4000円って、ステーキでも焼いたのかお前」
丸は訝しげに財布から4000円を取り出すと紗希はそれをひったくるように取り上げた。その瞬間、まるで見計らったように原付の排気音が近づき、うちの前で止まったと思うやいなや、インターホンが鳴った。
「来たようね」
紗希が玄関を開けると、そこにはピザを2枚抱えたお兄さんが元気よく挨拶をしながら直立していた。
「おませっしたー!!!ご注文のチーズデラックスファンタジーピザLサイズ2枚、4100円です!!!」
「あ、クーポンあります」
「ありがとうございます!!!100円引きクーポンで4000円になります!!!」
「4000円で」
「4000円丁度頂きます!ありがとうございましたー!!」
ぶおおぉぉおという排気音と共に去っていく配達のお兄さんを見送ると、2枚のピザを抱えた紗希はそのままリビングへ。
「おい、待てコラ、ガキコラ」
「何?気安く触らないでくれる?」
「くそアマてめぇ、なに人の金でLサイズのピザたのんでんだコラ」
「?ちゃんと言ったわよね、全額払うなら夕飯を用意するって」
「おい、根暗眼鏡。てめぇな、用意するってのは飯を作るって意味なんだよ。どこのどいつが、家でも頼めるピザをわざわざ金払ってまで人の家で食うんだ?あぁん?」
「これだから豚は……勝手に言葉の意味を曲解しないでくれる?」
「こんんのあまぁぁああああああ!!!七海、テメェもなんか言えや!!!」
「お?あぁ……あのさ紗希、俺、今日ハンバーグがよかった」
「あ、ごめん七海。明日作ってあげるから今日はピザで我慢してもらえるかな……」
「うーん、まぁしゃーないか。明日楽しみにしてるわ」
「ふふ、わかったわ」
「……………………………やっぱり三次元ってクソだわ」
丸は携帯を取り出し、追加でピザを3枚頼んだのだった。
*




