鏡の中の雪だるま
月の光が踊る庭の片隅に、ひっそりと佇む雪だるま。
壁にかけた鏡に映ったそれを見て、笑みがこぼれる。
子供が遊びにでも来たのだろうか。
生垣に隠れるように作られた雪だるま。この部屋の窓からでないと見えないところが、まるで真雪の心のように思えた。
「どうしたの?」
急に微笑んだ僕に、真雪が静かな瞳で問いかける。
なんでもないよ、と答えて、僕は真雪を背中から抱きしめた。
すっかり冷えたその体に、僕の温もりの全てを与えたくて、強く強く抱きしめた。真雪が喘ぐように息をつき、僕の手を緩めようと自分の手を重ねた。
「苦しい……」
「冷たいね。寒かった?」
首筋に唇を這わせると、小さく震えて吐息を漏らす。頰に唇を当てると、恐る恐る振り向いて、僕の唇に唇を重ねる。
「すごく、寒かった」
「寒いのは苦手?」
「苦手。夏の方が好き」
「真雪、て名前なのに?」
「名前負けしてるの」
いつもツンと澄ましている顔がほころんでいた。潤んだ瞳で僕を見つめ、熱い吐息とともに僕の唇を軽く噛んできた。
真雪の服のボタンを外し、そっと手を入れる。
「手、温かい……」
「君が冷たいんだよ」
「雪の中、歩いて来たんだもの」
「じゃ、温めてあげる」
一つ、また一つとボタンを外す。
ふと壁の鏡に気づいて、真雪が恥ずかしそうに身じろぎする。
「カーテン……ないの?」
「日の出と共に起きる主義なんだ。でも……そうだね、明日、買いに行こうか」
これからは、君も一緒だから。
僕の言葉に、真雪は潤んだ瞳で笑顔を浮かべ、安心したように僕に身を委ねた。
「真雪、愛してる」
「ふふ……知ってる。あなた、私が大好きよね」
「真雪も、僕が大好きだよね」
真雪は無言で、僕の背中に手を回した。
僕たちは肌を重ね、温め合った。
真雪の体が温まり、次第に熱を帯びていく。
その熱に溶かされて。
ツンと澄ました顔がほころんだように、真雪の心は、僕の腕の中でほぐれていった。
◇ ◇ ◇
目が覚めたのは、随分と日が高くなってからだった。
ぐっすりと眠る真雪。
その穏やかな寝顔に、僕は自然と笑みを浮かべた。
「何も心配はいらないよ……真雪は、僕が守るからね」
真雪の頭を撫でながら、壁にかかった鏡に目を向けると、半分以上溶けた雪だるまが見えた。
「……明日には、溶けてしまうかな」
青空を見て、僕は笑う。
溶けたところで大丈夫。
真雪の心は、もう僕の腕の中にあるのだから。




