表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

#3 《神外神技》

何とかここまで書けた…………戦闘シーンはこれからの課題ですね。

「やっと森から出られたぁぁ!!」

『亜精霊の森』の出入口で両腕を上げ叫んでいるのは、腰まで伸びたプラチナブロンドの髪に整った顔立ちそして、返り血で少し汚れた、白いワンピース調のドレスに身を包んだフォルティナと、隣で辺りを物珍しそうにキョロキョロしている女性。


傍から見たら面白い光景だろうが、本人達は途轍(とてつ)も無い疲労に見舞われていた。何故そうなったかと、それは今から(およ)そ五時間程遡る──。


◇◇◇◇◇


転生後、女神『ステラフィール』との状況把握の為の雑談が終わり、いざ森の外へと意気込んで湖を後にしたフォルティナは、一時間森を彷徨(さまよ)い、森に住んでいると思われる魔物と不運な出会い(エンカウント)していた。


「うあー。何この魔物……熊……いや、ライオン………?兎に角危険そうだと言うことは分かる………」

「グルルォォォ!!!」

熊とライオンが混じった様な魔物はフォルティナに向かって威嚇をした。

見た目も相まって、人によっては狂気に呑まれかねない様な咆哮は、『LEO』の『ハヤト』と同じステータスのフォルティナには効いていなかった。


「んー。一応『鑑定』はしてみたけどLv103かー。『ハヤト』の時(今の自分)ならなんて事はないか」

そう言い、フォルティナは恐るでもなく何も無い空間(・・・・・・)から愛刀を取り出し、構えた。


「久しぶり〈八神魂之神(ヤツカミタマノカミ)〉。また宜しくね」

少し暗めの紫色をした刀身の刀に声を掛けると、〈八神魂之神〉と呼ばれた刀はその言葉に、答えるかのようにオーラの様なものを纏った。


そして、熊とライオンを足した様な魔物は再度咆哮すると、フォルティナに向かって接近し、その太く大きな腕を振り下ろした。


「──ふっ!」

が、しかしその攻撃はフォルティナには届くことは無かった。

振り下ろされる腕の力にフォルティナはタイミングを合わせ、あっさりとその腕を切り落とした。


「グォぁぁ!!?」

勿論魔物も油断をしていた訳ではなく、この『亜精霊の森』で多くの魔物と縄張り争い等で培った実力を以ての攻撃だった。

それをいとも容易く切断され、血飛沫を吹き出しながら苦しみ、憎々しげにフォルティナを睨む魔物。


「ん、身体構造とか色々変わってるから違和感が無いわけじゃないけど、戦えないって程じゃ無いわね(無いな)」

そう呟いたフォルティナは追撃する様に魔物に急接近し、愛刀を振り下ろし、魔物に攻撃する。

「グ、グルォぉぉ…………」


頭蓋を綺麗に両断し、魔物はその重い図体を倒れさせ、絶命する。


「よっ……と……あ、この魔物、『フォレストグリズリー』って名前だったのね……ライオン要素どこ行った」

倒してから名前に気付いたフォルティナは、『フォレストグリズリー』の名前にライオン要素が無いことにツッコミながらも、アイテムボックスに死体を仕舞う。


仕舞い終え、再び歩みを進めたフォルティナだったが、先程歩いていた道が完全に消えていることに気が付いた。


「え……さっきこっちから来たよね………見覚えのない道に変わってるんだけど……」

こうして、フォルティナは更に一時間半の間彷徨い続けたのだった。


「ふぅ、この道でいいのかな……?流石に疲れてきたけど、さっきみたいに魔物が出てこないとも限らないし、『フォレストグリズリー』よりも高位の魔物が出てきたらまた更に時間を食っちゃう」

一刻でも早く『亜精霊の森』から出たいフォルティナは、休憩もそこそこに歩みを早めた。


『ステラフィール』との別れから凡そ二時間半を過ぎようとしたその時、草木の奥から重々しい足音や剣を硬い何か(・・)にぶつける様な音と共に、鉄臭い──否、血生臭い匂いが充満して来て、急ぎ且つ、音を立てないように草場の陰から様子を伺うと、そこには豪華な装飾をした馬車とそれを護るように巨大な魔物と戦う騎士達がいた。


騎士や巨大な魔物の足元には既に十数人の死体が転がっており、戦っている騎士も満身創痍で今にも事切れそうな者までいる。


(あれは……『鑑定』)

フォルティナは魔物に対して『鑑定』を使った。すると、その魔物はドラゴンだった。

「──っ!!?」

(グランド!?しかもLv274!!?)


しかも、ドラゴンはドラゴンでも、名前が『グランド・ブラックドラゴン』と言う、通称黒龍と呼ばれる魔物で、『冠位(グランド)種』に分類される種族だった。


冠位(グランド)種』とは、魔物にのみ進化可能とされるその種族の最高位から一つ下の位の種族を指す。進化条件はそれぞれ違うが、共通しているのはどの種族の『冠位(グランド)種』も途轍もなく強力であるという事だ。


そんな唯の『ブラックドラゴン』ですらも、超人と呼ばれる者等が束になって戦って多くの犠牲を出しながらもなんとか撃退できる程なのに、『グランド・ブラックドラゴン』と言うさらに上の、神にも近しい力を持つ龍が今、フォルティナの目の前で人間に牙を向いている。


死んでは元も子も無いとは分かっていても、そこは同じ人間、無視することが出来ないフォルティナは愛刀の〈八神魂之神〉を出し、全力で『グランド・ブラックドラゴン』に斬りかかった。


「──シッ!!」

突然現れた少女に驚く騎士達。

一方、自身の肉体に傷を付けられた事に対して怒る黒龍は途轍(とてつ)もなく大きな咆哮を上げる。


本来、通常の武器では傷すらも付けられない様なほど硬い鱗を持つ『ブラックドラゴン』だが、更にそこに『冠位(グランド)種』としての能力値がプラスされ、滅茶苦茶なDEF(防御力)となった『グランド・ブラックドラゴン』は、久しく感じることのなかった痛みに、『最強の龍』と言う誇りにも傷付けられ、怒り狂っていた。


『ギャオォォォォォ!!!!!』

「あらら、激おこですか……」

(正直〈八神魂之神(愛刀)〉で両断出来るかなーなんて思ってたけど流石、そこは『冠位(グランド)種』ってとこか)


フォルティナは一撃で仕留められず、警戒レベルを更に上げて、再度ドラゴンをターゲットに愛刀を構え直す。

「あ、貴女はいったい…………?」


そこで、後ろの馬車がある方から、突然飛び出して来たと思いきや、途轍もなく頑丈な黒龍の鱗に傷を付けたフォルティナに対して質問を投げ掛ける声が聞こえた。


「自己紹介等は後にしましょう?今は兎に角目の前の黒龍をどうにかすることを──っ!?」

取り敢えずの案を提案しようとしたその時『グランド・ブラックドラゴン』が、その巨体の尻尾を周りの木々を巻き込みながら横薙ぎにして攻撃してきた。


「チッ……」

(自分だけなら避けるなりできるけど……この人達もいるとなると防がないと………こうなったらアレ(・・)をやってみるか……?いや、考えてる時間は無いか………一か八かだ!)

「あの、コレの攻撃にどれくらい耐えれそうですか?」


フォルティナが後ろにいる騎士達に問いかける。すると、突然現れた少女と黒龍の先頭に呆然としていた騎士は驚いた様子ではあったものの、はっきりと答えた。


「ブレス以外でしたら、もって二、三分くらいです。申し訳ありませんが、ブレスは保ちそうにありません……」

「では、一分の間だけコレの相手をお願いできますか?」

フォルティナはその騎士達の答えに頷きながら、スキル発動の準備(・・・・・・・・)をする。


「な、何だか分かりませんが、分かりました!皆、動けるものは剣を持て!勇敢な少女の為に時間を稼ぐぞ!!」

「「「「はっ!!」」」」

リーダーの様な者は、周りの動ける騎士達にどんどん指示を飛ばしていた。


(よし、これなら……)

その様子にフォルティナも詠唱を始める。すると、フォルティナの足元には複雑な文様の魔法陣が浮かび、周囲には金の粒子の様なものが漂い始める。


「九つの尾を持つ神霊よ、汝に捧ぐは我が祈り、我が力。今我が前に立ち塞がる障害を其の力を持って蹂躙せよ!──《神外神技(デウス)》、〈九尾召喚〉!!」


フォルティナが最後まで唱えると、周囲に舞っていた粒子が一際大きく光り、一点に集まる。暫くすると集まっていた光は、人の形を取り獣耳の美女になった(・・・・・・・・・)


「……ん、んむ?おお、何じゃ主様か。久しいのぉ……新しい身体も妾の要望通りじゃな!」

神外神技(デウス)》によって呼ばれた美女は、フォルティナを見るとそう言った。


「やっぱり『ステラフィール』様にお願いしてたのは貴女だったのね(お前だったのかよ)…………!?」

「カッカッカッ!そうじゃよ、彼奴(あやつ)には昔の貸しがあるのでな。主様が魔神王を喰らい、(・・・・・・・・)狂った龍如き(・・・・・・)に殺されて、転生させると聞いた時はこの期を逃す手は無いと思ってな。借りを返す機会を作ってやると言う名目で、主様の『器』を女子(おなご)にしろと言ってやったわ!」


コロコロと笑う九尾に呆れた表情でフォルティナは睨む。

「はぁ、もう過ぎた事は言ってもしょうがないし、今は目の前の状況に集中したいんだけど……九尾。アレ、倒すの手伝って貰える?」

「ふむ、『冠位(グランド)』の名持ちか……まあ、黒龍程度(・・・・)なら問題は無かろう」


溜息を吐きながら黒龍に指を指し訊ねるフォルティナに、まるで『冠位(グランド)種』の黒龍を雑魚とでも言わんとしているかの様に答える九尾。

「しかし、幾ら雑魚の相手だとしても名持ちを相手にする事に変わりはないしのぉ……あー、我に主様が『名付け』をしてくれれば幾分かはやる気が湧くんじゃがのぉ……なのにあの四天王だかには全員に名があったのじゃがのぉ……主様?」


しかし、黒い笑顔を浮かべた九尾はチラチラとフォルティナを見ながら拗ねた様な態度で対価を求めた。フォルティナはその綺麗な顔を顰めながら、溜息を吐きながら言った。


「分かったから!倒した後にちゃんと『名付け』するから!九尾だって適当な名前付けられたくないでしょ!だから協力して頂戴?!」

「ククク、言質は取ったぞ?確かに戦闘に集中し過ぎて『名付け』を雑にされても困るしのぅ…………あいわかった。『|グランド・ブラックドラゴン《あの蜥蜴》』は妾に任せよ──来い〈反魂剣(はんごんけん)・リバースオブライフ〉」


九尾は『名付け』をすると言う約束の言質を取れたことに愉快そうに笑うと、自信が持つ数多くある武器の一つを顕現(けんげん)させた。


「主様!陽動を頼む!」

「了解!!」

フォルティナはそう返事するや否や、黒龍の足元へ駆けたかと思いきや一瞬にしてその場から消えた(・・・・・・・・)


黒龍は突然消えた少女を探そうとすると、視界の端に映った九尾へと意識を切り替えた何故なら、九尾も〈反魂剣・リバースオブライフ〉を構え此方に駆けて来たからだ。

九尾に対応しようとすると視界の外からフォルティナが、フォルティナに対応しようとすると九尾が攻撃を仕掛けてくる。


そのコンビネーションに苛立ちを覚えた黒龍はその大きな翼を羽ばたかせ、空へと退避すると首を下の森へと向け(・・・・・・・・・)、ブレスを吐いた。

そのブレスは森をあっという間に火の海に──する筈だった。

何故ならブレス(それ)は突然現れた魔法陣に完全に防がれたからだ。


『グルルォオ?!』

完全に消し炭にしたと慢心していた黒龍はブレスを無効化されたことに驚き、暫しの間動きを止めた。


しかし、それが仇となった。いつの間にやら飛んでいる黒龍に接近していたフォルティナは、〈八神魂之神〉で黒龍の立派な二対の翼を斬り裂いた。

『グル、グゴアアァァァァ!!!!』


翼を斬られ、地面に落ちた黒龍は三度も同じ少女に自身の誇りを貶され、怒りが最大に達していた。

一度目は自身の龍鱗の硬さに因る無敵の防御に傷を付けられた事による苦痛に。

二度目は苦痛を与えられた事に『最強の龍』だと言う自負、及びそれに伴う自信や誇り。

そして、三度目は龍が龍である為に必須(・・・・・・・・・・)な大きな二対の翼を斬られ、地面に叩き落とされた事に因る屈辱。


それ等を短時間で同じ少女に味合わされたのだ。無理も無いだろう。

しかし、黒龍が憎しみに我を忘れていると、視界の端っこに何か、着物を着た女性(・・・・・・・・・・)が此方に接近していることに気付いた。


しかし、気づくのが遅く、黒龍は九尾に逆鱗を全て斬られ、心臓をその手に携えられた〈反魂剣・リバースオブライフ〉で一突きされた。


『グオアァア……ァァ…………!!?』

しかし、気付いても遅く、黒龍は地面に沈みこむ様に、先程まで鋭く光っていた瞳からは光が失われ、倒れた。


「大したこと無かったのう」

「……あのレベルの魔物をそんな風に言えるの貴女だけですからね?」

九尾が言うと、それに対してフォルティナが呆れながらそう言った。


「…………」

「すげぇ……」

「何なんだ、あの少女とあの獣人は………ひぃ!?」

後ろで馬車を護る様に立っていた騎士達は、唖然としたり、純粋に思った事を言ったりしていた。……最後に喋っていた騎士は獣人と言ったタイミングで九尾に睨まれ萎縮していたが。


「ほれ、倒したんじゃから、約束の『名付け』頼むぞ?妾としては威厳が感じられる且つ、美しい名が良いのう?」

九尾は先程の戦い因りも『名付け』の方が大事だと言わんばかりにフォルティナへ視線を移し、言った。


「ん、覚えてるわ。待ってて……今から考えるから……九尾………九……久……九重(ここのえ)……?いやでも……」


「さて、『名付け』は主様に任せて……黒龍よ。『冠位(グランド)』を賜っておきながらこのありざまとは………情けないのぅ……?」

フォルティナが『名付け』の為にぶつぶつと呟いていると、九尾がまだ戻していない〈反魂剣・リバースオブライフ〉で(おもむろ)に黒龍のその外殻を切断し始めた。


「魔石は………んむ?これか?」

九尾は外殻を容易く斬り、剥がしを繰り返し、黒龍の中から一つの小さな『魔石』と呼ばれた石の様なモノを取り出した。そして『魔石』をまじまじと見つめた後、突然ソレを喰らった(・・・・・・・)


「ふむ……流石に『冠位(グランド)』だけあって魔力量はそこそこじゃな……」


ゴリゴリと音を立てながら『魔石』を食う九尾。すると九尾の身体から紫紺の、禍々しいオーラの様なモノが出始めていた。しかし、それを気にしていないかの様に、フォルティナは「よし」と一言呟き、九尾に声をかけた。


「名前なんだけど………何してるんです……?」

名前を考え終わってそれを九尾に言おうと後ろを振り返り、『魔石』をゴリゴリと音を立てて咀嚼(そしゃく)している姿を見て、溜め息を吐きながら聞いた。


「んぬ?おお主様、妾の名前は決まったのかのぅ?」

「え?ええ、決まったわ。で、貴女は何故『魔石』を食べているんです?」

呆れた様子でフォルティナが九尾に問う。


「なに、『冠位(グランド)』程の魔物の『魔石』じゃ、折角だし妾が喰らってその内に秘められておる魔力を取り込んでおこうと思ってのう。そんな事よりも『名付け』じゃ!決まったのじゃろう?早う聞かせておくれ」

「はぁ、まあ良いか。じゃあ、『名付け』をするわね。貴女の名は──」

急かすように返してくる九尾にフォルティナは一息置き、その名を紡ぐ。


「『久遠(クオン)』それが貴女のこれからの名よ」

「──っ!!その名、(しか)と賜った。妾の名は久遠じゃ!」


九尾……久遠がそう呟くとフォルティナは軽い立ち眩みの様なものを覚える。


〈──マスターの契約神格、九尾。及び個体名:久遠の存在が世界に固定されました。これに依り、《神外神技(デウス)》の内容が変質致しました〉

すると、誰のモノでもない、女性とも男性とも取れる声と機械音声を複合した様な声が突然フォルティナの脳内に響いた。


「──っ誰!?」

「──」

フォルティナは直ぐに警戒をし、気配を探った。久遠にもその声は聞こえていた様で、無言で〈反魂剣・リバースオブライフ〉を構えた。しかし、どれだけ警戒しようとも気配が現れることも無く、敵意なども一切無かった。


〈驚かせてしまい申し訳ありません。ワタクシは女神『ステラフィール』依り、マスター……個体名:フォルティナに付与された《神外神技(デウス)》の『エア』と申します。これから、フォルティナ(マスター)のサポート等を(おこな)って行きますので、宜しくお願いします〉

『エア』と名乗った声のみの存在はフォルティナにそう語った。


「ふーん?で、《神外神技(デウス)》の内容が変わったってどう変わったの?」

〈今迄の《神外神技(デウス)》は召喚体でしたが、現在は個体名:久遠関連のスキルが『名付け』に依り、存在が世界に結び付けられた為、召喚体では無くなり一つの『人物』としての具現化に成功しました。但し、代わりに〈九尾召喚〉は使用不可となりました〉


(……つまり、今の久遠は一人の人間と同じ扱いって事か……正直一々召喚の度に魔力消費するの面倒くさかったし結果オーライかな?)

『エア』の説明を聞き、フォルティナは一人で納得しながら頷いた。


「まあ、元の力はそのままじゃし、このままでいいかのう」

久遠も何か呟きながら頷いていた。


「兎に角、色々あったけどたぶんもうすぐ外の筈だし、急ぎましょうか」

「む?おお、外に出ようとしてたんじゃったか。うむ、そうじゃなこんな場所に用はないからのう。早うするか」

一緒に久遠と頷き、再び森の外へと歩み始めたフォルティナと久遠だった。


◆◆◆◆◆


俺はガイル、ティアノート王国の近衛騎士だ。

今日は隣国、シェアトラ公国との貿易の交渉の為にティアノート王国の国王、グラノイア・ヴァン・ティアノート陛下と第一王女、アイリス・ウル・ティアノート様の護衛として、周囲を警戒しながら移動していた。


結果としては、シェアトラ公国との交渉は無事終わり、帰路についていた。しかし、帰りに問題が発生した。ティアノート王国からシェアトラ公国までは少し遠回りとはいえ、安全な道を来たのだが、その道が魔物、それも準Sランクの魔物が居座ってしまったと報告を受け、グラノイア陛下と相談した結果、多少のリスクは病むなしとし高ランクの魔物が多く住まうという『亜精霊の森』に入っていた。


この森は別名『迷いの森』と呼ばれ、正しい順序(・・・・・)で通らなければいけないと言う魔法が掛かっている。しかし、一応順序を書き記した地図は、高額ではあるが出回っているので、迷うことはほぼ無い。

のだが、流石は『亜精霊の森』出てくる魔物は最低でもAランク以上の魔物で、少なくない犠牲を出しながらも出口へと向かっていた。


そして、森へ入ってから早一時間。中間地点だとされる、大きく開かれた場所に着き、一休憩入れようとの話になり、見張りと護衛を順番で交代し辺りを警戒していた。


「お、おい!ドラゴンが出たぞ!!陛下と王女様を御護りするぞ!!」

一人の騎士が周りの様子に気がついたようで大声で警戒に回っていた騎士たちに声をかけていく。


「──っな!?」

急いで馬車に向かうと、馬車の前に闇をも呑む様な程黒い龍が居た。


馬車はほぼ無事だったが、念の為の安否確認と時間稼ぎの為の人員に分かれた。


「グルぉぉおアア!!」

黒龍は大きく咆哮すると、それだけで勝ち目がない事が分かる。

(……だが、引く訳にはいかない!!)

俺は剣を構え直し、黒龍に立ち向かう。


……あれからどれ程時間が経っただろうか。応戦していた四十人の騎士は残り八人となってしまっていた。

黒龍は未だに傷一つ付いておらず、その口を大きく開き此方に止めを刺そうとしていた──その時、草むらから突然飛び出してきた白いドレスの様な服(・・・・・・・・・)を身に纏った少女が、黒い刀身の剣で黒龍に斬り掛かった。


『ギャオォォォォォ!!!!!』

何度攻撃してもビクともしていなかった黒龍が、少女が攻撃した途端、苦しみと憎しみを混ぜたような視線を向けながら声を上げた。

そんな英雄の物語を見ているかの様に美しい光景に見蕩れていると、騎士の一人がポツリと呟いた。

「あ、貴女は一体…………?」


しかし、その問いに対する答えは出ず、代わりに少女は、此方に問いかけてきた。

「あの、コレの攻撃にどれくらい耐えれそうですか?」


その質問に俺は怪訝な表情を浮かべた。そして、隣にいた騎士団長のグレン団長が代わりに答えた。


「ブレス以外でしたら、もって二、三分くらいです。申し訳ありませんが、ブレスは保ちそうにありません……」

「では、一分の間だけコレの相手をお願いできますか?」

騎士団長の答えに少女はそう返し、グレン団長もそれに頷いた。そして、周りの騎士たちに聞こえる様に声を上げた。


「な、何だか分かりませんが、分かりました!皆、動けるものは剣を持て!勇敢な少女の為に時間を稼ぐぞ!!」

「「「「はっ!!」」」」

それに、俺を含めた騎士たちは声を上げた。

チラと、少女の方を見てみると、目を閉じ、何かの詠唱をしている様子だった。だが、普通の魔法とは違うのが、少女の周りに不思議な光が舞っていたのだ。


それを美しいと思いつつも、黒龍の足止めをする為に向かい打つ。

そして、一分経つか経たないかで少女が魔法かスキルの名前を呼ぶと、光が収束していき、一人のとても見目麗しい獣人の女性となっていった。


そこからの出来事は圧巻の一言に尽きた。両者共に途轍もなく強く、黒龍もやられっぱなしだったのだ。

その後、危な気も無く黒龍を討伐してしまった。安否確認に行っていた騎士も陛下、王女殿下共に軽傷で済み、今は回復魔法で治療が終わったとの報を受けた。


「…………」

「すげぇ……」

「何なんだ、あの少女とあの獣人は………ひぃ!?」

仲間の一人が獣人と言った途端、獣人の女性から殺気が放たれたが、一瞬にして殺気が霧散していた。


(だが……本当に何者なんだ……あれ程強ければ有名になっていてもおかしくは無いのだが……?)

強さに反して、噂の一つも無いようななんとも不思議な少女に対して少し興味が湧いてくる。


「陛下!?念の為まだ外には……!」

騎士の一人が馬車から出ようとしていた陛下を止める声が響いた。

全員が其方に意識を向ける。その後もう一度少女達が居た場所を見ると、誰も居なくなっていた。


「さっきまでそこに居たのに……何処へ…………?」

騎士の一人がそう呟いた。すると、馬車の方から扉を開ける音が聞こえてくる。


「我等の危機を救った英雄に礼の一つもせんなど、気が済まんのだ!」

陛下が先程の彼女達に礼をしようと出てきたみたいだった。念の為周囲に意識を集中し、索敵をするが付近には人一人、魔物一匹も存在していなかった。


「……?何処にも居らんでは無いか。どの様な者だったのだ……?」

陛下がそう騎士達に聞くと、グレン団長が直ぐ近くへ行き答えた。


「はっ、プラチナブロンドの髪を腰辺りまで伸ばした、白いドレスの様な物を身に纏った女性でした。最初はその女性だけで応戦していたものの、少しした後、不思議な衣装に身を包んだ獣人の女性と連携し、瞬く間に『ブラックドラゴン』を討伐されましたが、いつの間にか何処かへ行ってしまった様で…………」

グレン団長が申し訳なさそうにしながら説明をすると、陛下は少しした後一人頷いた。


「ふむ……突然現れ、瞬く間に『ブラックドラゴン』を仕留める女か………城に帰ったら調べさせよう」

その後、直ぐに馬車の確認や馬の怪我などを治し、俺達はティアノート王国への帰路へと再び戻るのだった。


◆◆◆◆◆


「……危なかったぁ」

「何故逃げたんじゃ?あのまま中におった者と話すれば良かったでは無いか」

必死に気配を消し、茂みに隠れている女性二。勿論フォルティナと九尾の久遠だ。


『グランド・ブラックドラゴン』を討伐した後、豪華な馬車から人が出てこようとしていた事に気づいたフォルティナは久遠の腕を引っ張り、気配を完全に消し、茂みに隠れたのだった。


「だって、あの馬車?凄い豪華だったでしょ?絶対貴族やら王族やらが居たに決まってるわ。面倒事の気配しかしなかったからね」

直感で動いたフォルティナはそう説明した。まあ、実際中に居たのは国のトップだったので勘違いではなかったが。


「んむ?まあ、良かろう。それより森の外に出るんじゃろ?早う行動せねば日が暮れるんじゃないか?」

「あ、そうね。行きましょ」

こうして二人は森の外へと再び戻るのだった。その更に後二時間彷徨い、(ようや)く森の隙間から光が見えてきた。


「あ!あれ!外じゃない!?」

「む?うむ、外の様じゃのう………流石に疲れたわい」

もう直ぐ外に出られるとテンションが上がるフォルティナと腰を軽く抑え、疲れを訴える久遠。

フォルティナは駆け出すと、遂長く彷徨っていた森の外へ出れたのだった。


◇◇◇◇◇


そして、冒頭のシーンへと戻る。

「ふむ、流石に日が暮れてきておるのう。どうするんじゃ?」

「そうねえ、出来れば近くに街でもあれば良かったんだけど……流石に無いわよね」

久遠の問に対して、溜め息を吐きながら答える。


〈此処から凡そ半径三kmに中規模の街が有りますが、如何致しますか、マスター?〉

突然『エア』がそう質問をする。

「んー、時間掛かりそうだし今日は野営かなぁ。こうゆうの、やってみたかったんだよね!」

『エア』の質問に対し、テンションを上げそう答えるフォルティナ。


「別にそれでも良いが、飯の方はどうするんじゃ?妾は食わんでも良いが人間の身だとそうもいかんじゃろうて」

久遠がフォルティナにそう問う。それに、何故かドヤ顔で答えるフォルティナ。


「ふふふ、元の世界でお父さんから教わったサバイバル術があるから何とかなるわ!それに、ご飯ならさっき森で倒した熊肉があるから大丈夫よ!」

そう言いながらアイテムボックスから『フォレストグリズリー』の肉を取り出すフォルティナが魔法で肉焼き始める。


「まあ、妾や『エア』とやらがおるし一晩くらいなら平気じゃろ。それよりもその肉は妾も食っていいのかのう!」

少し考え、平気だと判断した久遠は切り替え、フォルティナに肉を要求した。


「さっき食べなくても良いとか言ってなかった?」

「それとこれとは別じゃ」

何が違うんだと思いつつも肉を切り分け二人で肉を食べ、暫く鍛錬をした後、そのまま程よい疲労に委ね明日の為に眠りに着くのだった……。

どうも、朧月です。予定の一日遅れで投稿することになってしまいました(汗)今月はあと24日か末に投稿したいと考えています。

遅れる際はまた、Twitter、活動報告でお知らせしますので、そちらも確認していただけると幸いです。あ、あとBDSP発売しましたね(激遅)用事を済ませながら、進めたりしてました(笑)

タツベイ厳選だったりミニリュウ厳選だったり………今作も中々にバグが多くて、巷では「BDSP」が「B(バグ)D(だらけ)SP(スペシャル)」と呼ばれてるとか何とか……それ聞いた時は思わず外であるにもかかわらず笑ってしまいました(笑)

雑談はこのくらいにして、評価やブクマ登録ありがとうございます。まだまだな作品では有りますが、これからも評価やブクマ登録してくださると、モチベが上がりますので宜しければ、お願いします。

アルファポリスの方にも投稿してありますので、其方もよろしくお願い致します。

では、また次回にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ