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2. 家族を紹介してもよろしくて?


「エレノア!おかえり!噂のアップルパイはどうだったんだ?変な奴に声をかけられたり、おかしなことに巻き込まれたりしなかったか?」


 今日は親友のシアーラと、巷で人気のアップルパイを()()()()()()()で楽しんできました。

 シアーラは伯爵令嬢で、時々二人でドレスではなく庶民のようなワンピースを着てお出掛けするのを楽しみにしているのです。


 邸に帰るなり家令のジョゼフよりも先に飛び出してきたエドガーお兄様は、黒髪に紫目という私と同じ色味ながらも騎士らしく程よい筋肉質な身体で、私の身体を抱きしめながら無事を確かめるように言葉をかけました。


「エドガーお兄様。大丈夫よ。シアーラも一緒だったし、少しの時間でしたもの。」

「せっかく今日は騎士団の勤務が休みだったというのに、やはり俺もついて行けばよかったと後悔していたところだったんだ!」


 私より六つ年上のエドガーお兄様は、小さな頃から歳の離れた私をとても可愛がってくださっていて、少しばかり過保護で困ったところもあるけれど……それでも私にとっては大好きなお兄様。


「ふふっ……お兄様つきのお出かけなど、シアーラが驚いてしまいますわ。お土産にアップルパイを買ってきたからお父様やディーンお兄様がお帰りになったら食べましょうよ。」

「ああ!やはり俺の妹は可愛い!優しい!お土産まで買ってきてくれるなんて……。なあジョゼフ、そう思わないか?」


 いつもオーバーリアクション気味のエドガーお兄様は、近くに控えた家令のジョゼフに声をかけたのです。

 同意を求められたジョゼフは、いつも通りの決まり文句で答えました。


「はい、エレノアお嬢様はこのシュバリエ王国一の美貌と優しさを兼ね備えた素晴らしい御令嬢でございます。」

「そうだろう?本当にこんなに可愛らしい妹が、あと数年もすればあのボンクラと結婚してしまうなどと考えたくもない!」


 あのボンクラとは、国王陛下からの王命により私の婚約者であるジョシュア・リー・ウィリアムズ公爵令息のことでございます。


 エドガーお兄様は幼い頃から何故かジョシュア様のことを毛嫌いしてらして、ジョシュア様の方も昔から腕っぷしの強いエドガーお兄様のことを避けていらっしゃるのです。


「エドガーお兄様、私少し疲れたので着替えて少しばかり休みます。また晩餐で。」




 我が家の晩餐はなるべく家族全員で食べるという決まりがありまして、仕事で不在の時以外は揃って食べることが多いのです。


 その日は久々に家族全員が揃いましたので会話も弾みました。


「今日の食後に、街で人気のアップルパイを出してもらいますから楽しみにしていてくださいね。」

「エレノア、またお忍びで出かけたのか?護衛騎士はつけて行ったんだろうね?」

「お父様、きちんと少し離れた所で控えていただきました。お店で食べたものは出来立てで、とても美味しくて。是非皆にも食べてもらいたくて買って帰ったんですのよ。」

「しかし護衛がついていようが悪い輩はいるものだ。拐かされたりしてもいけないし、お転婆もほどほどにね。」


 優しく嗜めるのはお父様。

 若い頃には艶やかな黒髪でしたのが今では美しい白髪となり、アルウィン家の特徴である紫目を持つお父様は、私にとても甘いのです。

 そして普段は柔和な表情でございますが、この国の敏腕宰相であり、笑顔で恐ろしく容赦のないことをするとの噂です。

 そのことについて官僚であるディーンお兄様から話を聞いても、私にとっては(にわか)には信じられないほどです。


「騎士団でも市井の見回りや取り締まりは厳しくしているんだが、どこに穴があるか分からんからな。エレノア、普段からきちんと気をつけるんだぞ!」


 エドガーお兄様は帰って早々私の無事を確認するほど心配症で、見た目の良さに加えて騎士という職業もあり女性にも人気があると聞いたことがあるけれど、『うちの妹より可愛い女はいない』という口癖のせいで、最近では近寄る御令嬢も減ったとか減っていないとか。


「確かに。我が家の天使エレノアがお忍びで出かけたとしても、隠しきれないオーラは滲み出てしまうでしょうね。」


 そう言ってエドガーお兄様に負けず劣らず妹に甘いのは、ディーンお兄様。

 お母様と同じプラチナブロンドの髪に我が家の血筋である紫目という色合い、頭脳明晰で顔立ちも整ったお兄様はエリート官僚として国を支えている。


「そうねえ。エレノアの魅力は並大抵の変装では隠しきれませんからね。」


 最後にお母様がのんびりと呟くと、その場の皆が一同に頷くといういつもの光景は他人から見たら確かに滑稽かも知れないですけれど、私はこの穏やかな雰囲気が好きなのです。


 過保護なお父様と二人のお兄様たち、それにおっとりとしたお母様という私の家族は、私にとって何より大切なかけがえのないものなのですから。

 



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