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ドラゴンと僕~あらやだ!?ちょっと人間?こんな所で何してるのよ!?~

 "ドラゴン"

 それは鱗に覆われた爬虫類を思わせる体、鋭い爪と牙をそなえ、口から炎や毒の息、様々なブレスを吐く。


 典型的なドラゴンは有翼で空を飛ぶことができるが、地を這う大蛇のような怪物もドラゴンに分類され、伝説ではしばしば地下の洞穴をすみかとしている。


 体色は緑色、黄金色、真紅、漆黒、濃青色、白色などさまざまである。


 ドラゴンは様々なブレスを吐き、四大元素を体現する存在でもある。


 とはいえ、ドラゴンはつねに定まった形象をそなえているわけでない。


 この話は様々なドラゴンの中でも、一際特殊なドラゴンの物語である。



 ーーーーー



 ここはクリア ワールドと呼ばれる世界。

 モンスターと人間が共存する世界。


 その中でもドラゴンは最高位に位置し、神と崇められる個体もいた。


 海の近くにある小さな村の守り神もドラゴン。

 この村の特産品である葡萄酒の豊穣の神とされている。



 今日はこの村の豊穣祭。

 その年に取れた作物や酒を守り神に捧げる日だ。


 村人達は慌ただしく祭りの準備を行っていた。

 しかし村人の顔は元気がないようだ。


「今年は例年より出来が悪い、年々収穫量は減るばかり。

 やはり人柱を差し出さねばならぬのか…」

 行き交う村人を眺めながら、村長は頭を抱えていた。

 この村には言い伝えがあるそうだ。

『贄を捧げれば1000年の安寧と繁栄をもたらす』

 つまり1000年に一度、人柱を捧げ村の安寧を保つのだ。


 過去にも人柱が捧げれた様だがそれが何年前なのかは記述がなかった。

「村は一度火事になり、資料は全て燃えてしまた。その時に蒼きドラゴンが村人を救ってくださった。

 きっとあのドラゴンこそ、この村の守り神に違いない。だから…すまない…ネネ」

 村長はネネと呼んだ女性に涙を流しながら頭を下げる。


 ネネは黙って頷いた。

「いいえ、父上。村の外に捨てられ、身寄りの居なかった私を拾い育ててくれたこの村の為ですから。それに私は体が弱く、村の手伝いもろくに出来ず…それなのに、私を家族だと…言ってくれた皆の為なら…」

 ネネは瞳を潤ませた。

「父上…今までありがとうございました…。私は幸せでした…。ただ…彼には私が人柱になった事は伏せておいて下さい…」

 ネネには婚約者がいた。


 離れた場所にある村の青年だ。

 この村の特産品である葡萄酒を買い付けにきた時にネネに惚れ込み、その後も何度も何度もネネにアタックし続け、結婚の約束を交わしていた。



 この時は誰も知らなかった。

 ネネのお腹には新しい生命が宿っていた事に。




 ーーーーー



 その夜、ネネは人柱として捧げ物と一緒に山にあるドラゴンの祭壇に横たわっていた。

(蒼きドラゴンの神よ…あの村に繁栄を…)

 祈りを捧げるネネの瞳からは涙が零れた。



 しばらくするとドラゴンの鳴き声と共に地響きが鳴る。

 近ずいてくる足音と共に声が聞こえてきた。

「不作がつづいちゃったもんねー…ごめんなさいね村人達…。でも、嫌がらせをしてくるウェザードラゴンは懲らしめてきたから、これで村には安定した気候が続いて豊作になるわ♪︎」


 祭壇に横たわるネネは死を覚悟した。

(これで…)

 祭壇にドラゴンが近ずき捧げ物を覗き込む。

「あらやだ、人間!?ちょっと貴女!こんな所で何してるのよ!」


 ネネは目を閉じたまま口を開いた。

「私はネネ。豊穣の神で在らせられる蒼きドラゴン様への贄として参りました。

 1000年の豊穣の人柱として安寧と繁栄を願い、身を捧げます。」

 ネネの言葉は力強く、村のことを強く考えているようだ。


「人柱?なんでそんな事をするのよ!?1000年の豊穣って何?ちょっと…貴女達ってどんな言い伝えを伝えてるのよ!私は人柱を要求した事なんで無いわよ!?」

 ドラゴンは尻尾をばたつかせている。

「人柱なんていいから村に帰りなさい?貴女の家族が心配するわよ?」


 ネネは不思議に思い目を開けてドラゴンを見た。

 巨大な体は硬そうな鱗で覆われ、鋭い牙や爪。

 鮮やかな蒼きドラゴン。

 伝承にある豊穣の神と一致する。

 しかし何故か体をくねらせている。


「でも…」

 ネネが不安気に手を組み合わせ祈りを捧げるポーズをしながらドラゴンの前に跪く。


「確かに私は豊穣の神と呼ばれているわ。

 でも別に特別何かをしてる訳じゃないのよ?

 縄張りに入ってくる別のドラゴン達を追い払っているだけよ。

 だって嫌じゃない?自分家に土足で勝手に入られたら♪︎」

 ドラゴンが体をくねらせ、翼を広げると風が巻き起こる。


 ネネはドラゴンを見つめた。

「しかし、このまま帰る訳には…私は既に人柱として村を出ました…ですから村にはもう帰れないのです…」

 ネネの瞳には決意を感じられた。

「もう…人間って弱っちいクセに頑固よね!

 分かったわ!気が済むまで話し相手位にはなってあげる♪︎

 私も人間を知りたいの♪︎」


 その後、暫くネネとドラゴンは捧げ物を食べながら談笑したり、互いの事を話していた。

 ネネは身寄りが居なく、自分が何者か分からないが、村には拾われた恩があると。


 ドラゴンの名前はラグーン。

 ラグーンは3000年以上を生きている古龍種の生き残りだと。

 体はオスのドラゴンだが心はメスであると。


 一人と1匹は意気投合し、友達になるのに時間は掛からなかった。


 ネネはラグーンと共に山で過ごしていた。


 それから数ヶ月が経ち、ネネのお腹が大きくなり臨月を迎えていた。


 しかし体の弱いネネには耐えられる余裕はないように見えた。

「ラグーン…ごめんね…私はもう耐えられないみたい…。この子の顔も見れないまま…なんて…貴女に無理を言ってるのは分かってる…けど私にはもう貴女しか居ないの…」

 ネネはラグーンの巣で横たわっていた。


「分かってるわ…ネネ…貴女の子供は私が責任を持って立派に育ててみせるわ!なんなら、魔王を倒す勇者に育ててみせるわ♪︎」

 ラグーンはネネを覗き込み微笑んだ。


「勇者かぁ…いいね…ありがとう…私の大切な友達…」

 ネネは涙を流しながら微笑んだ。



 それからネネは最後の力で出産したが、我が子を抱くことなく息絶えた。



 ラグーンは赤ん坊に"ルル"と名付けた。

 古龍種はドラゴンメイドやドラゴニュートの様に人型になる事が出来た。

 ラグーンは人に変化しては様々な村に向かい、知識や必要な物を集めながら子供を育てた。

 子育ての知識は今まで経験したことのない新鮮な物だった。

 初めは困惑し天変地異を起こしそうな勢いで悩んでいたが、次第に人間の子供に愛着が湧いてきたようだ。



「おしめの交換って難しいわね…ちょっと!今おしっこしないでよ!おしめ変えてる途中なんだから!!ちょっとルル!?」

 気持ち良さそうな表情を浮かべるルルにラグーンは自分にかかった水滴を拭きながら、苦笑いを浮かべた。


 ドラゴンとして3000年以上を生きるラグーンにも初めての事ばかりだ。


 今まで人間はラグーンを恐れ崇めていた。

 中には力試しとして挑んでくる者もいた。

 人間は好きだが仲良くは出来ないと思っていた。


 ネネに会うまでは…。


 四苦八苦しながらも何とかラグーンはルルを育てられていた。

 母として時には父として。

 ルルによってラグーンもまた成長していく。


 ルルが動き回る様になると目が離せなくなった。


 いくら自分の縄張りだとしても危険はある。


 少し目を離すとルルは巣から逃げ出し森の中に行ってしまった。

「もう!私のバカ!!ルルから目を離しちゃダメじゃない!ルルー!どこなのー!ルルー!!」

 ラグーンは森の中を飛び回りルルを探していた。


 モンスターの鳴き声が騒がしい。

 ラグーンは不安になり声のした方へ急いだ。


「いた!ルル!!あれは…フォレストグリズリー!」


 ルルは泥だらけになり泣きじゃくりながらモンスターの爪が届かない岩の切れ目に入り込んでいた。


 フォレストグリズリーは背後の気配に気付き振り返った。


「ちょっと…そこの熊…誰の子供に手を出してるか分かってる?ルルは私の子供だァァァァァァ!」

 ラグーンは口から冷気の息吹を漏らしながら咆哮をあげると、フォレストグリズリーは竦み上がり、脱兎のごとく逃げ出した。


 ラグーンは岩の切れ目を覗き込んだ。

「ルル?大丈夫?さぁでてらっしゃい♪︎」

 ラグーンが優しく語りかけるとルルは泣きながらはい出てきてラグーンに抱きつく。


「あうあ…!あう!あうあぁぁぁぁ!」

 ルルはラグーンに抱きかかえられながら泣きじゃくった。



 泣き疲れたルルを見詰めながらラグーンは優しく微笑んだ。

(ごめんねルル…怖かったわよね…貴方は私が護るからね…)


 ーーーーー



 そんなある日の事。


 一人の人間がラグーンの祭壇にやってきた。



「守り神よ…」

 人間は祭壇に跪き祈りを捧げた。


 ラグーンは上空から声を掛けた。

『人間よ、我が地に何用だ』


 祈りを捧げたまま人間は答えた。

「人柱として身を捧げたネネを…私の…婚約者を…どうされたのか…せめて亡骸だけでも…」

 人間はネネの婚約者だった。


『…彼女は、我に身を捧げ供物となった。

 亡骸は我が喰らった。彼女の魂が祈りとなり、村への豊穣の恵となり降り注ぐ』


 青年はその場に崩れ落ち泣き喚いた。



 ラグーンは何かを考え寂しそうに巣に戻って行った。



「あうあ!あう♪︎」

 ルルは帰ってきたラグーンに飛び付く。


「ただいま♪︎いい子にしてたかしら?」

 ラグーンは指先でルルの頭を撫でると抱きかかえた。


 ルルはお腹が減っているのをうったえた。

「はいはい♪︎ご飯にしましょう♪︎」

(やっぱりルルの為を考えると…)





 ルルが寝静まるとラグーンは人に変化して祭壇に向かった。


 祭壇にはまだ青年が蹲っていた。



「貴方がネネの婚約者ね…?」

 ラグーンが声を掛けると青年の肩がピクリと跳ねる。


「ネネ…を知っているのですか?貴方は…?」

 青年は腫れた虚ろな目でラグーンを見つめた。


「私はラグーン。ネネの最後の友達よ…。」


「ネネの…最後の?」


「そう…貴方に会わせたい子がいるの…」

 ラグーンが青年に話しかけると青年は虚ろな瞳をしたまま黙ってラグーンの後を着いてきた。




 寝ているルルの傍による。

「この子はルル…ネネの…ネネと貴方の子供…ネネは守り神の贄になった時、既にこの子を身篭っていたの」

「そんな…ネネ…」

 青年はルルの傍に崩れ落ち声を押し殺し泣いた。


「貴方はルルの父親なのよ…ネネの最後の頼みよ…ルルを立派な大人に育ててちょうだい」

 ラグーンは目を伏せ二人を残して巣を出た。



「寂しくなるわね…でもルルの為を思えば本当の父親と居た方がいいに決まってる…私と居たらいつか危険にさらされる…」

 ラグーンは膝を抱え月を見上げた。



 しばらくすると青年はルルを大切に抱きしめ巣から出てきた。

「貴方は…守り神の蒼きドラゴンですね…」


 青年の方を振り向きラグーンが微笑むと風が吹きラグーンの体が宙に浮いた。


『私はラグーン。

 ネネの最後の友達であり、この地の守り神。

 青年よ、ソナタはルルを護ると誓えるか?』

 ラグーンの体が歪み鮮やかな蒼きドラゴンの体が月明かりに照らされた。



「守り神ラグーンよ。私はネネを愛した者として、ルルの父親としてルルを護ってみせます!」

 青年の瞳には決意が感じられた。

 力強く真っ直ぐラグーンの目を見た。



『そう…ルルを頼んだわよ…さよなら…ルル』

 ラグーンは飛び去って行った。




 ーーーーー



 ルルが居なくなりどれだけの時間が流れただろう。

 ラグーンは守り神として村の豊穣に繋がるように侵入者を阻み、大地に恵を与えた。

 寂しさを紛らわす為と、ネネと約束した村の繁栄の為に。


 そんな時、ラグーンがいつもの様に祭壇に向かうとローブを被る少年が祈りを捧げていた。


『人間よ、何用でここへ来た』

 ラグーンが上空から声を掛けると少年は立ち上がりラグーンを真っ直ぐ見た。



「まさか…」

 ラグーンは少年の瞳には見覚えがあった。


「母さん…僕はやっぱり母さんと居たいよ…」

 少年はローブを脱ぎ捨て祭壇からラグーンに向かって飛んだ。


「ルル!」

 ラグーンは急降下してルルを抱きとめる。

「貴方…なんで?」


 ルルは微笑んだ。

「父さんには許可をちゃんと貰ったよ!僕は母さんの元で修行してくるって!」


 ラグーンの瞳から涙が溢れる。

「でも私は…ドラゴンだし…オスだけど中身はメスだし…いつかルルに危険が迫るかもしれないし…」


 ルルはラグーンを抱きしめた。

「ラグーンは僕の母さんであって父さんでもあるんだ。僕には母さんが二人いて、父さんも二人いるんだ。

 母さんが僕を護ってくれる。それに、僕だって母さんを護ってみせる!」

 ルルは泣きじゃくるラグーンの顔に触れ微笑んだ。




「ただいま!母さん!」






 その後、ルルはラグーンにより立派な青年に成長し世界を股に掛ける冒険者になるのは、また別のお話し…。


ご覧頂きありがとうございます!

お気に召しましたら感想やブクマ、評価を宜しく御願い致します。


次作や創作にあたってのモチベーションになりますので(切実

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