失くしたもの
思えば最初から誰1人として救えていなかったのかもしれない。
2年前のあの時も、今も同じ二択を突きつけられている。
変わっていない、何一つとして変わっていない。
全てを1人で救うことなど出来るはずがない、だから。
(だから俺は……せめて四季だけでも)
最悪の決断を下そうとした時ふと部屋のモニターが目に入る。
「…………!」
(ああ、そうか……)
それは忘れてはいけないもの、確実性のかけらも無くただの賭けに等しいがそれでも今の壊田の決断を変えるには充分すぎるものだ。
「……いったいなんのつもりですかねー?」
人質を取られ動こうにも動けていなかった壊田が銃を構えたのを見て自身の予測と違う現実に少しだけ不快感を示す夢野。
今ここで夢野を撃って四季を救うにしても確実に救える保証はなく、人質を助けることもできない。
逆に撃たない場合、夢野の実験が終わり人質の2人は解放されるが精神が入れ替わり過剰な負荷がかかった四季の人格は確実に崩壊する。
どちらを選ぼうとも壊田は何かを失うことになる。
そして過去の経験から壊田なら確実に救えるものを救うと踏んでいた夢野にとって壊田の行動は切り捨てた可能性そのものだ。
だが切り捨てた可能性とはいえ予想外のものではなく対処できないものではない。
故に夢野が不快感を示したのはそこではない。
「…………」
中年と呼ばれる歳の壊田の行動理念がそう簡単に変わる事はない。
積み上げた年月の重みが先入観を作り在り方を決める、いわばそれは呪いの類いで変えようと思っても簡単には変えられないものだ。
変えられるとしたらそれは強い感情、怒り、憎しみ、悲しみなどの強い感情による自暴自棄からくるものなら夢野が不快感を示すこともなかっただろう、それならばまだ理解できる代物だ。
だが目の前の男はどうだ?
そんな感情で全てを諦めた者の目とはかけ離れた決意に満ちた目。
「……わかりませんねー」
根拠も何もないはずだ、助けられる算段など用意しているわけが無い、そもそも1人で救う事自体不可能だ、なのに目の前の男は絶望ではなく希望を持って銃を構えている。
それは夢野には到底理解できないものだ。
合理性のかけらも無く、確実性もなく、自暴自棄によるヤケでもないそれは信頼、何かを信じた故の行動だがこの場で信じられるものなどないはずだ。
「だろうな」
引き金に手をかけたまま壊田が笑みを浮かべる。
決して余裕があるわけではないものの先程までの無力感はどこにもない。
「一体何が見えている! 何をそこまで信頼しているというのかね!」
「何も見えてなんていねぇよ……ただ忘れてたことを思い出しただけだ」
確かな覚悟と意思を持って……引き金は今2度引かれた。
「くっ……流石に強いですね……」
向かってくる炎を切り払いながら距離を詰めようとする黒騎士だが絶え間なく繰り出される炎によって思うように動けず距離を詰められない。
「あの炎の火力どうなってるんですか! 地面に触れただけで真っ黒に焦げるとかまともに近づけませんよ!」
少し距離をとった位置にいてもはっきりと熱さを感じ明確に遺跡内の温度が上がっているのがわかる。
「熱すぎるにゃ〜……」
「体力的にも時間をかけるのはしんどいわね……」
無差別に飛んでくる炎を避けていくミケ達だが熱さも相まって体力を一気に持っていかれ動きが鈍っていく。
「ぼっち以外全員近距離武器ですしぼっちの夜は届く前に燃え尽きてて完全に戦力外ですからねー」
「悪かったわね役立たずで! 血の攻撃も矢も炎と相性悪いんだから仕方ないでしょ!」
「そもそもあの熱量を操ってる相手に攻撃を当てようとする方が無理あるにゃ!」
汗を拭いながら少女の動きを観察するミケがため息を吐く。
どう攻撃を仕掛けるにも周りの炎が邪魔で当てようがない。
明らかに苦しそうな声をあげがらより炎を強くしていく少女。
「このままだとレミさんの精神が持ちませんよ! なんとかしないと!」
「こうなったら火傷覚悟で突っ込んでやるにゃ!」
(……あまりこの手は使いたくありませんがこのままだとレミさんもミケさん達も持ちませんし……もうアレしかありませんかね)
ミケが炎の少女に向かって突っ込もうと距離を詰めようとするが黒騎士によって阻まれる。
「何するんだにゃ!」
「そんな事をしても意味ありませんよ! 冷静になってください」
「でももう時間がないにゃ!」
視界が揺らぐほど温度が上がるなか言い争いをする2人。
焦りによって冷静さを失っているミケを止めようとする黒騎士だが時間がないのは事実だ。
「何やってんのよ! そんな言い争いして場合じゃ……!?」
ミケ達を止めようとした瞬間背筋が凍りつく。
凍てつくような異様な気配、思わず唾を飲み込み冷や汗が流れる。
その気配の主が誰か分かってはいるもののあまりの変わりように思わず恐怖を覚える。
炎の少女も何かを察知したのか攻撃をやめ暗闇を睨みつけているようだ。
「……やっと来たようですね」
炎の熱が引くと同時にあたりの暗闇が色濃くなる。
「いやいやいやいくら何でも変わりすぎじゃないですか! あれじゃあまるで」
「別人……とでも言いたいのでしょうがそれは違います……あれが本来の彼女が失くした本能そのものですので」
それは混沌、終わりを告げる槌の音。




