はじまりの日の終わり
レミはギルドからのクエストに書いてあった盗賊の隠れ家に来ていた。
「次のクエストは盗賊の討伐ですか〜そろそろリアルタイムで0時回りますけどこのままやります?」
魔剣の言う通り現実世界ではもうすぐ0時を回ってしまう頃だろうがゲーム内ではまだ夕焼けが見える。
ゲーム内は現実世界の2倍の速さで時間を進めているらしくだいたい6時を境に日付が切り替わるらしい。
明日は夏休み前最後の学校があるのであまり夜更かしをするのは良くないのだが中途半端に終わらせるのは嫌な様子のレミ。
「まぁこのレベルのクエストならすぐ終わりますしこれ終わらせてからログアウトしましょうか〜」
軽く頷くとレミは盗賊の隠れ家へ乗り込んだ。
「なんだが薄暗いですね〜MP消費しますけどあたり一帯の暗闇を反転させて明るくします?」
それでは盗賊にバレてしまうと思ったレミは首を横に振る。
「えー私の能力もっと使ってくださいよーというか名前をですね……」
魔剣のおしゃべりが相変わらず止まらない中なにかの足音が聞こえ物陰に隠れるレミ。
「ん? どうしました? もしかして足音でも聞こえたんですか? 私には聞こえませんけど……」
どうやら獣人のレミは五感が研ぎ澄まされているのか通常よりも感知範囲が広いようだ。
「どっちにしろ倒すんですから隠れなくていいじゃないですか〜そもそもこのクエストのクリア条件は盗賊を全員倒すことですよー?」
魔剣に指摘され物陰に潜むのをやめたレミ。
不意打ちをしてもいいのだが向かってくるのは1人だけなのでタイマンでもなんとかなると判断したようだ。
「ん? なんだおまえ! まさかギルドの! お〜い! おまえら敵が……」
盗賊が仲間を呼ぶ前に倒そうとしたがギリギリ間に合わなかったレミ。
隠れ家の奥から複数の足音が迫ってくる。
「これまずいですよ! 流石にこの数を相手にするのはいくら優秀な魔剣ちゃんでも難しいです〜!」
逃げ出そうとするも既に周りを盗賊に囲まれてしまったようだ。
「ギルドにも舐められたもんだなぁ? こんな子供1人だけ送り込んでくるとか馬鹿なのか? おいおまえら! こいつを倒して俺らの恐ろしさをわからせてやろうぜ!」
「おー!」
盗賊たちに囲まれているが相変わらず無表情なレミは剣を構える。
「レミさん! 流石に今のレベルじゃこの数を倒すのは無理です! ここは反転を使って逃げた方が……」
魔剣がそこまで言いかけた時突如後ろから声が聞こえた。
「避けて!」
咄嗟に床に伏せるレミ。
その直後盗賊たちを一つの矢が貫いていた。
「な、なんだ!?」
「全くハルさんに言われて様子を見に来たらなんで盗賊に囲まれてやられそうになってるの? 世話がやける後輩ね〜」
暗闇から次々と矢が放たれ一瞬で盗賊が全滅する。
「あなたがレミちゃんね? 私はクロネ。
言っとくけどNPCじゃないから!」
暗闇から現れたのは黒髪ロングの吸血鬼だった。
「なんですか〜? この偉そうなの? というかレミさんのこと後輩とか言ってますけどこのゲームのリリース日なんですからたいした違いないじゃないですか〜!」
「え! 剣が喋った!? どうなってるのその剣!?」
「私はレミさんの性格を反転させて擬似人格を形成しそれを利用して話しているだけです! そんなことよりもうここに用がないなら早く帰りましょ〜」
魔剣の提案に静かに頷くレミ。
「それもそうね……とりあえずギルドに戻りましょうか!」
「大丈夫でしたか! レミちゃん!」
ギルドに戻るなりハルがレミに駆け寄ってくる。
「あとちょっと私が遅れてたらやられてたね」
「そんなことないですよ〜! この有能な魔剣ちゃんがいれば盗賊なんて一撃でしたから!」
なぜか対抗する魔剣を放置してハルから報酬を受け取るレミ。
「ごめんなさい! 私がもっとちゃんとクエストを選んで渡していれば……」
責任を感じているハルだが特に気にする様子のないレミは部屋に戻る。
「どうやら気にしてないようね……あの子かなり図太い精神の持ち主っぽい?」
「それならいいんですが……今度何かお詫びの品を持っていきます!」
「真面目だねハル。」
部屋に戻るとレミは疲れたのかベッドにダイブする。
部屋に置いていったマクラに頭を乗せてくつろぐレミ。
「レミさん! そろそろログアウトしますか〜?」
レミはログアウトしようと思ったがログアウトした後のNPCはどうなるのか気になる様子だ。
「ログアウトした後のNPCについては問題ないですよ〜NPC側はプレイヤーを異世界の人として認識してるのでいなくなっても問題ないです! それではレミさん! また明日〜」
魔剣の説明を聞き終えるとレミはログアウトした。
目を覚ましベッドギアを外すレミ。
「……」
まだ遊び足りない様子のレミだが流石に眠気には勝てず布団に潜り込み眠りにつく。
「ふぅ〜1日目は特に問題ありませんでしたね!」
開発チームのメンバーが一息つく。
「この調子ならAIに任せて問題なさそうですね!」
「いやしばらくは様子を見よう。 まだ安定しきっているか判断するには早すぎる。」
余裕な様子の副リーダーと慎重なリーダー。
「この計画には失敗はありえない……とりあえず交代でメンバーは休むこと! このまま一週間ほど様子を見て上の判断を受け今後の方針を決める以上解散」
こうしてSDOリリース初日が終わった。
「それにしてもあの猫耳……可愛いかった」
「そうでしょう! クロネさんもあの良さがわかりますか! 今度来たらあの耳触ってみたいです!」
「そ、そうね」
大丈夫かなこのAI……と思いつつクロネはハルに別れを告げてログアウトした。