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いずれ来るもの

「……いらっしゃい」


 ドアを開けた先は店をやっているとは思えないような薄暗い空間が広がっていた。

 壁や床には所狭しと武器が置かれカウンター前の僅かなスペース以外を埋め尽くしている。


「……凄いことになってますね〜Fさんの部屋でももう少し整理されてますよー」


「ちょっと失礼でしょ!」


「……構わんただの事実だ」


 Rの発言を気にせずカウンターの奥に座りこちらに目をやる事もなく武器の手入れを続ける店主。

 そんな店主が手入れをしていた武器をいつのまにか店内に入っていたベルが目を輝かせて見ていた。


「こ、この武器! ど、どんな素材を使ってるんですか? こんな光沢を放つ金属は見たことないです……」


「……ただの合金だ……素材自体は特別なものじゃない」


「ほえー……一体何を混ざったらこんな風に……あう!」


「こら〜武器観察は後でやりなさいよ」


 完全に目的を忘れ武器を観察するベルに軽くチョップを喰らわせるクロネ。


「にゃはは店主さんごめんにゃ〜今日は武器を買いに来たんじゃなくて人探しに来たんだにゃー」


「……そうか」


 手入れをしていた手を止め武器を横に置き静かにミケの方を見る店主。

 店主の鋭い眼光にベルが気圧されたのか細かく身を震わせている。

 妙な緊張感が店内に漂い少しの沈黙が続いた後、一瞬店主の瞳にノイズが走ったようにブレると色が深い青色から赤に変わりすぐに元に戻った。


「今瞳の色が変わったように見えたけど……」


「ふむ……瞳タイプのデザイアウェポンですか〜なかなか興味深いものを見ましたねー」


「………」


 クロネとRの好奇の眼差しを無視しながら店主が店の奥に消える。


「ど、どうしたんでしょうか?」


「まぁ気長に待つにゃ〜」


 ミケの言う通りにしばらく待とうとクロネが店内を見回すと台座に刺さった剣が目に止まった。

 剣の刺さった台座には欲の否定と書かれその下に剣の名前を掘るためのスペースが空いている。


「何このザ・伝説の剣って感じの剣は……」


「おーほんとですねー……試しに抜いてみてはどうですかー?」


「そうねー私剣はあまり使わないけどこういう演出はテンション上がるわね!」


 クロネが剣に手をかけ引き抜こうと力を込める……しかし剣は微動だにしない。

 もう一度抜こうと今度は顔が真っ赤になる程力を込めるがやはり剣は微動だにしない。


「はぁはぁ……無理ね……動かないわ」


「でしょうねーそれ本当に封印されてるみたいですしー」


「はぁ……知ってたなら……教えてよね……」


「だ、大丈夫ですかクロネさん……」


「ちょっと外で涼んでくるわ……」


「わ、私も行きます!」


 剣を抜くためにちゃっかり吸血鬼の力を使っていたのかかなり疲れた様子のクロネにベルが肩を貸しながら武器屋の外に出た。


「Rはやらないのかにゃー?」


「そうですねーやってみますかー」


 2人の様子を見ていたミケに声をかけられ次はRが剣を抜こうとするもののやはり先程と同じように剣は微動だにしない。


「ダメみたいですねー……おそらく自身の持つ欲の否定がこの剣を抜く条件なんでしょうけどデザイアウェポンなんて欲を糧にする武器を持ってる時点でこの条件を満たすのは無理そうですねー」


「そうだにゃー自身の欲を否定するって事は自分自身を否定するようなものだしにゃー」


 ミケも試しに剣を抜こうとするがやはり同じよう結果に終わった。


「そうですね〜……クロネさんの様子見てきますねー」


 Rがなかなか戻ってこないクロネの様子を見に武器屋を出るのとほぼ同時に奥から印のついた地図を持って店主が出てきた。


「……」


「ありがとうにゃーお礼は」


「いらん」


 店主から差し出された地図を受け取り地図に目線を落とすと東の森の中央付近に赤い印がつけられている。


「……そこがお前の探している人物の居場所だ」


「やっぱり便利だにゃーその能力……可能性とはルートが見えるのは羨ましいにゃー」


「……化け猫が……思ってもいないだろう」


「にゃははー」


 ミケは棒読みの笑い声を出しながら地図をしまうと先程抜こうと試した剣の方に近づいた。


「この剣もその目で見た通りに作ったのかにゃー?」


「……それは師匠が最後に残したものを再現しただけだ……無心の一刀……最後の技にして誰も辿り着く事がないもの」


「辿り着かないねーにゃはは」


 さっきは微動だにしなかった剣を軽々と引き抜き店主に向かって剣を振るう。

 剣は店主に当たる直前で止められたが店主は凍りついたように動くことができなかった。


「ありえん……」


「有り得ないことはないにゃーどんなに遅くとも進み続ければいずれは目的地に辿り着く……当然の摂理だにゃー」


「貴様は……」


「まぁ多分その師匠とやらが求めたのはこれじゃないと思うけど……この程度ならできて当たり前だにゃ〜」


 歪んだ笑みを浮かべながらミケは引き抜いた剣を再び元の台座に戻す。

 店主が剣に近づき抜こうとするがやはり剣は微動だにしない。


「それじゃあそろそろ行くにゃー色々面白いものが見えて楽しかったにゃー」


「……何を目指そうと興味はないが……狂気そのものを目指すとは……」


「人としては狂気だとしても猫としては正気だと思うけどにゃー」


 その言葉を最後にミケが店を後にし店内に再び静寂が訪れる。


「……何が猫だ、貴様の言う猫とやらは致命的にズレている」


 吐き捨てるようにそう言い再び武器の手入れに戻ろうとした店主だったがカウンターに置かれた異物に目が止まった。


「これは……」


 そこには金色の縁取りにチェスのクイーンのマークが書かれたカードが残されていた。


 ミケ達が店を後にした頃。


「……ここからは俺1人で行く……灯花はそいつに家まで送ってもらえ」


「……私も行く」


「ダメだ! ……後は頼んだ」


「先輩……」


 手紙を読み終えた壊田は灯花達を置いて1人で次の目的地に向かっていた。

 手紙にはSDO計画について調べに行った事が書かれていただけで具体的な場所など何も書かれていないのだが心当たりがあるのか迷わずに目的地に向かって進む。


「1週間も行方不明だと……クソ! なんでもっと早く気づけなかった!」


 どれほど後悔しても過ぎた時は戻らず例え気づけたとしてもいずれその時は訪れる。

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