現実逃避
「ん〜変なところでミスしちゃったにゃ〜もったいない事したにゃ〜」
夏休み明けにあったテストが返却され様々な声がする教室。
夏休み明けのテストはいつものテストと違い一定の点数が取れないと面倒な再テストがある事もあってか普段よりも騒がしい友人たちをミケはやや冷めた目で観察していると端の方でテストをじっと見つめるレミの姿が目に入った。
うるさいのが苦手なせいかやや不満そうな顔をしたレミが気になり近くに寄るミケ。
「レミ〜テストどうだったのかにゃ〜?」
ミケが声をかけるとササっとテストを後ろに隠すレミ。
「…………」
「レミまさか……ちょっとテスト見せるにゃ……」
もう逃げられないと思ったのか諦めたようにミケにテストを渡すレミ。
「あーレミさんこれはやっちゃってますにゃ〜……」
渡されたテストの点数は軒並み低く全て再テストの対象になっていた。
たしかに夏休み中のレミは極端にログイン時間が長かったがいくらなんでもこれはひどい。
「……学校やめる」
「ダメにゃ〜! ちゃんと再テストの勉強するにゃ〜!」
あからさまに嫌そうな顔をするレミをジト目で見ながらもう一度レミのテストを見るが見間違いでもなんでもなく点数は悪い。
「……めんどくさい」
「何か言ったかにゃ〜?」
「…………」
夏休み明けのテストは成績に結構響くので割とピンチな状況なのだがめんどくさそうにするレミに圧をかけるミケだが実際にこの量の再テストの対策を1人で考えるのはかなりめんどくさそうだ。
「んーどうしたもんかにゃ〜……あ、そうにゃ!」
「…………?」
何か思いついた様子のミケを首を傾げながら見つめるレミだった。
そして今。
「というわけで! 第一回レミの再テスト対策会議を始めるにゃー!」
レミの再テスト対策会議がここ冒険者ギルドの受付で開かれようとしていた。
「いやどういうわけか全く把握できてないんですけど〜? 私のレミさんが再テスト対象者なんかになるわけないじゃないですかー! あんまり適当なこと言ってるとぶっ飛ばしますよー! レミさんも何か言ってやってくださいー!」
「…………」
「あれ? レミさん?」
気まずそうに魔剣から目を逸らし俯くレミ。
「へー意外ね、レミはそこそこ勉強できそうに見えたけど」
「多分夏休み明けのテストの存在を忘れてたんだろうにゃ〜……地味にそういうところあるからにゃレミ」
恥ずかしそうに目を逸らすレミをジト目でじっと見るクロネとミケ。
「だ、誰にでもミスはありますからね! つ、次頑張れば大丈夫です!」
「……うん」
「まぁ取り返しのつかないことも人生ではありますけどね〜」
「…………」
せっかくベルが元気付けたレミの目が一瞬にして死んだ魚のような目になった。
「それにしてもすごいメンツですね〜クソボッチとポンコツ悪魔はわかりますけど胡散臭いRさんまでいるのはなんなんですかー?」
「私は別の用事で来た帰りですよ〜面白そうなのでお邪魔しただけですので〜」
「来たなら手伝ってもらうにゃー! 本当はミャー1人でなんとかしたかったんだけどにゃ〜……流石に今回は数が多いから手伝ってもらうにゃ」
ミケが声をかけたことで集まったクロネとベル、そして近くをうろうろしてたRの3人。
ミケが勝手に暇人認定したプレイヤーを集めテスト対策に協力してもらうようだ。
「別に協力するのはいいんだけどミケは大丈夫なの? どっちかというとミケのが再テスト危うそうなイメージなんだけど」
「たしかにそうですね〜ミケさんのがバカ……失礼天才タイプだと思うのでテストのようなものは苦手そうに見えますね〜」
「しれっと酷いこと言うにゃー……」
普段の行いのせいでレミよりもミケのが心配される。
普段の頭のおかしい行動を見ていれば当然の結果なのだが不服そうに頬を膨らませるミケを見てレミが口を開いた。
「……ミケは頭いいよ」
「んにゃ!? レミ! ミャーのテストを勝手に出すにゃー! と言うかいつの間にコピー取ってたんだにゃ!」
「す、すごいです!」
「おお〜これはこれは〜」
机の上に広げられたミケのテストのコピーは軒並み90点以上の点数がつけられている。
家の都合もありミケはテストの上位常連にいる事が多くレミも何回かテスト勉強を手伝ってもらっている。
「凄いわね……」
「まぁ点数なんて意味ないけどにゃ〜……」
「この状況でそれは嫌味にしかならないんですけど〜! レミさん気にしなくていいですからね〜! 可愛さと音楽の才能ではレミさんのが圧倒的に上ですからー!」
「…………うるさい」
とりあえずで魔剣を放り投げミケのテストのコピーを仕舞おうとするもミケにガッシリと手を抑えられ阻止された。
「これは回収させてもらうにゃー! どうせレミの事だから丸暗記して次の再テストに利用するつもりなんだろうけどそうはさせないにゃ〜! ちゃんと理解しないと勉強の意味がないにゃー!」
「……めんどい」
ものを覚えることはそれなりに出来るが理解するとなると途端にめんどくさくなるのか露骨に嫌そうな顔をするレミ。
「なんでしょうね〜ミケさんがマトモなことを言うこの違和感は……」
「確かに凄い違和感ね……あなた本当にミケ?」
「え! も、もしかしてアカウントの乗っ取り!?」
「正真正銘ミケだにゃー! そんな事より早くレミのテスト対策を始めるにゃー! レミもいつまでも遊んでないで準備するにゃー……あれ? レミは?」
レミのいた方を見るとそこにはギルドの前に置かれている木箱が置いてあるだけでレミの姿が消えて無くなっていた。
「いないわね……」
「完全に逃げられましたね〜まぁゲーム内でテストの勉強をしようとしている時点でこうなるのはわかりきっていたようなものですけどー」
「ど、どうしよう……」
あたふたとするベルと呆れたようにため息をつくクロネとRが呆然と立ち尽くすミケに視線を向ける。
「……レ〜ミー!」
ギルドの中からミケの叫び声が響き渡る。
ギルドの外に反転で抜け出したレミの背筋がその声で一瞬凍りつく。
「いや〜怖いですね〜これ捕まったらただじゃすみませんよー? 遠隔での反転を使った時は驚きましたけどもう反転使えませんし逃げ切るの難しいのではー?」
「……全力疾走する」
「超原始的な方法ですけどいいんじゃないですかね〜私もあのクソネコにレミさんを独占されるのは嫌ですし逃走ルートはバッチリナビゲートしますよー! 全力で逃げましょうレミさん!」
「うん」
珍しく意見のあったレミと魔剣が即座に行動を開始する。
「じゃあ勉強を教える対象がいなくなったと言うことで私はそろそろお暇しましょうかね〜」
「私もなんか適当にクエストやろうかしら……ベルも来る?」
「い、いいんですか!」
「よくないにゃー! 今すぐレミを捕まえに行くにゃー!」
「えーめんどくさ」
「いーくーのーにゃ!」
「……わかりましたよ〜まぁこれはこれで楽しそうですしね〜」
「クロネとベルもいくにゃ!」
「はぁ〜わかったわ、とっとと捕まえて終わらせるわよ!」
「は、はい!」
こうして再テストという名の現実から逃げるレミと魔剣の逃走劇が幕を上げるのだった。
「…………はぁもうここには来ないつもりだったんだがな」
「ここに魔王様……シージュさんがいるんですか?」
これは消えた光を追う話。
長い話のほんの瞬き。




