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夏の終わりに

「すー…………すー…………」


「レミさん寝ちゃいましたね〜……クソボッチの方は……音も立てずに寝てますね〜トーカさんは船の修復をした後すぐに操縦しに行くほどなので特にダメージもなさそうですが〜……魔王のあなたがそんなんで大丈夫ですかー?」


「…………」


 カリン達との戦いで疲れたのかすぐに寝ついてしまったレミとクロネとは対称的にずっと何かを考えているのか魔王は一言も喋らずに端の方に縮こまっていた。

 レミ達が寝るまではいつもとあまり変わらなかったのだが音が消えた途端にこの調子だ。


「トラウマだかなんだか知りませんけどあなたがそんな調子だといつかレミさんがあなたを倒す時に箔がつかなくなっちゃうので勘弁して欲しいんですけど〜……聞いてますー?」


「…………」


 そんな魔王の事を少し心配しているのか魔剣が話しかけもするが魔王は全く応えようとしない。

 ラルガによって呼び起こされた過去の記憶が余程精神的ダメージを与えたようだ。


「……めんどくさいですね〜まぁ今回の件に関しては私正確には私の上司ですが多少は責任がありますし話ぐらいは聞きますよー?」


「?……よくわからぬが今は放っておいて欲しいのじゃ」


「ふーんそうですか〜……」


 どうしても話をしたくない様子の魔王は魔剣を避けるように船室から出ようとドアに手をかけた。


「余程のトラウマのようですがひとつだけアドバイスでもしましょうか〜」


「…………」


「あなたが何について気にしているかは分かりませんがあまり気にしすぎない方がいいと思いますよ〜? 過去に呑まれると碌なことになりませんしね〜……」


「……わかっておるのじゃ」


「あとその水晶の時計は大切に保管しておいた方がいいと思いますよー!」


 魔剣が言い終わるより前に船室の扉が閉められ静寂が訪れる。

 少しばかり残念そうにため息をつく魔剣はレミ達が落ちてないか確認すると合図のように2回ほどコツンコツンと地面を突いた。


「……なんのようだ」


「おーほんとに来ましたねクソ上司! なんかこれで呼び出すとちょっと偉くなったみたいで気分いいですねー」


「用がないなら帰るぞ……」


 何もないところから聞こえてきた声をからかう魔剣だがその声には怒りの感情が混じっている。


「用ならありますよー? 今回の件について弁明して貰いたいんですけど〜?」


「……ラルガが勝手にやった事だ私は指示を出してはいない」


「でも接触するように仕向けたのはあなたですよねー? あの水晶の時計……内部情報の解析が出来ませんでしたけどなんですかあれ〜? 一応指示通りに持っとくように言いましたけどねー?」


 レミが持っているのとは少しだけ違う水晶の時計。

 レミの持ってるものの方もそうだが魔剣の持っている権限では内部情報の閲覧ができないようだ。


「……お前に答える義理はない……あの時計についてはいずれわかる……」


 あやふやな返答をする声に苛立ちを募らせる魔剣から黒いオーラが滲み出る。

 あの黒い笛に似たようなオーラを出す魔剣のせいでレミが少しうめき声を上げた。


「……魔王の様子は?」


「……当分はダメだと思いますよー? 何があったかはわかりませんがアレ……かなり心にダメージ負ってますので〜……」


「……そうか……その点は私の落ち度だ」


「!? え? 今謝りました!? あなたが!? ちょっともう一度お願いしますー! 今度はバッチリ録音しますので!」


 上から目線で偉そうだった管理側のAIの謝罪に驚き一気にいつもの調子に戻る魔剣。


「……知らん……魔王については無意識化で制限している力を使わせるために必要な事だったが事を急ぎすぎた……だがラルガのあの行動に関しては私の指示にはない」


「……わかりましたその点に関しては信用しますよー……ところであの3人はなんなんですかー?」


 このAIの性格上他人を頼るような事特に人間を頼るようなことはしないと考えていた魔剣が疑問をぶつける。


「…………」


「言えないなら別にいいですよー! でもそっちが勝手にするなら私も勝手にしますからねー!」


「……アレはただの協力者だ……」


「協力者〜?」


「……あいつらはアポカリプスを追っている……私はそれに手を貸しているだけだ」


 アポカリプス……この世界を侵食するコンピュータウイルスだがその性質には謎が多く今わかっているのはAIを暴走させると言うことだけだ。

 以前の戦争の際はそれでレミに危害が及びそうになった事からか少しだけ不安そうな魔剣は眠っているレミの方を少しだけ見た。


「アポカリプスの方はどうなっているんですか?」


「侵食速度は低下しているが脅威であることに変わりはない……最近は人間にも悪影響を及ぼしているようだ……」


「人間にですか?」


 ただのコンピュータウイルスなら人間に対して直接影響を与えるわけない……そうなるとこのウイルスはそもそもコンピュータウイルスですらないと言う事だ。


「……人間に感染した場合は特定の感情を強くし暴走を引き起こすようだ……」


「そんな……じゃああのウイルスは……」


 特定の感情を強くし暴走を起こす……その仕組みに心当たりがあるのか魔剣の声が震える。


「あなた達と同じ代物と見て間違いない……アレはデザイアウエポンの亜種……あなた達が育て喰らうものならアレは奪い喰らうもの……やり方は違えど同じもの……」


 魔剣とは対称的に冷静に事実を告げるAI。

 どこまでも冷静なそのAIはその事実を大した事ないように感じているようだが魔剣にとっては違う。

 本質的には違えど持っている機能自体は変わらない……つまり……


「……ただアレはあくまでも機能の使い方の一つに過ぎない……」


「それは……そうですが……」


「なんにせよアレはこちらで対処する……お前はお前のやるべきことを」


「分かってますよ〜……」


 どちらにせよアポカリプスに関しては関わるべきではないと判断した魔剣は自分の仕事について改めて考え直す。


「……そうか……そろそろ時間だ……しばらく私は向こうに同行する……」


「わかりましたよ〜……前も言いましたが念のため……レミさんに手を出すことだけはしないでくださいね〜?」


「…………わかった」


「……なんか変な間がありましたね〜」


 今は敵ではないが場合によっては敵になる事も考えているのか魔剣が牽制する。


「あとあなたあの3人に同行するならその話し方はやめた方がいいと思いますよー? 堅苦しいですし偉そうですし何よりムカつきます〜! ……もういませんね〜! 最後まで話ぐらい聞いてくださいよー!」


「……うるさい」


「………………」


「あれ? 起こしちゃいましたか〜……というかその殺気は一体……ちょっと待ってください! これには理由があああ!」


 魔剣のうるさい絶叫が船に響き渡った。


「……さてと……次は……」


「お嬢悪かったって〜ホットミルクやるから許してくれよ〜」


「フン! 知りませんわ!」


「カリンちゃんプリン上げるから機嫌直してよ〜アジトに入れないとアイス食べられないんだって〜」


「何やってるんだ……」


 あの魔剣とは別の意味でうるさく目的もその在り方も全く違う3人。


「お、ナビット! どこ行ってたんだ?」


「あはは〜ナビットだ〜」


「ナビットさんですわね! あなたも同罪ですわ! 大変な時に来ないのはひどいですわ!」


「……その呼び方はやめろ」


 小さい妖精の姿になったAIことナビットは相変わらずの3人に思わず笑みがこぼれる。


「あはは〜いいじゃ〜ん可愛いし〜」


「そうだな〜ナビット……呼びやすいしいいじゃねーか?」


「そうですわね……まぁそんなことはともかくあなたが来たってことは」


「ああ……仕事だ」


 妖精の一言で3人の目つきが変わる。

 あるものは獲物を狩るように、あるものは好奇心に、そしてあるものは……

 それは夏の終わりに交わったもう一つの物語。


「憂さ晴らしに丁度いいですわ! 行きますわよ!」


「おっけ〜俺もあんな終わりは納得いかなかったから丁度いい」


「あはは〜次はどんな子が遊んでくれるのかな〜」


 光の中を突き進む金色のお嬢様とその仲間の話……そしてここでは語られることのない物語。

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