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黄昏

 時は少し遡り。


「わかりましたわ……それじゃあ第二ラウンドと行きますわよ!」


 眩いばかりの光に包まれた後、シージュは見覚えのある部屋の中にいた。


「なんじゃ!?」


「そう驚くなよー俺の能力によって位置情報を置換して場所を移動しただけだぜ? ちなみに外は海だから壁壊して出ようとかは考えるなよ?」


 自慢げに語る少年は部屋の中央に置かれたベッドの上に座りながらホットミルクを飲み空いた片手で水晶の時計をいじっている。


「なるほどの〜船を木に変えたりも知っておったし随分便利な能力じゃな〜まぁそれは良いとしてなんじゃこの部屋?」


「いい部屋だろー? 床と壁は白一色でそれに加えて家具もベッドのみ……実にシンプルでいいじゃねーか?」


 生活に必要なものすら十分にないもはや部屋とも呼べない代物に対してラルガは皮肉を込めて言い放つ。


「そうかの〜? 妾は監視されてるようで嫌なんじゃが……なんというかこの壁の向こうに人が何にもいるように感じるんじゃが」


 床と壁が真っ白な部屋はシージュに監視されているような不快感を覚えさせその様子を見てラルガの目つきが変わる。


「なんでそんなこと思ったんだ? 確かにこの壁は全部マジックミラーだがこれは当時の最新鋭のやつ、特殊部隊ですらわからなかったてのになんであんたはわかったんだ?」


「なんじゃと? そんなもの簡単にわかる……あれ……ただの壁にしか見えん…………なんで妾はわかったんじゃ? そもそもこの部屋は……ここは……ここは!」


 白い床が血で赤く染まる、壁や床には無数の傷がつきシージュの上を何か大きなものが二つ覆い被さっている……その光景がシージュの瞳の奥でチラつく。


「……どうだ? 思い出したか?」


「…………」


 かつてないほどの殺気を放ち今すぐにでも目の前のベッドに座りホットミルクを飲む少年を殺しかねないシージュはその衝動をギリギリで堪える。

 少なくとも今は聞くべきことがある。


「おー怖い怖い……まずは飲み物でも飲んで落ち着いたらどうだ?」


 軽く指を鳴らしラルガが手に持つものと同じコップがシージュの前に現れるがシージュの魔法によって即座に破壊された。


「質問に答えるのじゃ……何故……この部屋を知っておる?」


 床や壁が真っ白な部屋、"この部屋を知ってる者にとっては"マジックミラーで作られた壁は例え見た目ではマジックミラーだとわからずその奥に"誰もいなくても“監視されているような不快感を覚えるだろう。

 部屋の中央に置かれたベッドの上には今シージュが現実世界で着けているのに似たデバイスが置かれている。


「……知ってるやつの記憶を見たからだ、アイツは一度見たものを忘れることはないからな……ちなみに誰かは言えないぜ? これでも一応探偵の端くれだからな……守秘義務ってやつだ」


 どこかからかうような態度のラルガの頬をシージュの魔法が掠め血が垂れる。

 ほぼノーモーションからの一撃は壁を抉りその奥にある別の部屋まで貫通している。

 シージュがわざと外さなければ確実に致命傷になっていた魔法を見ながらも全く動じる様子のないラルガはゆっくりと口を開く。


「……俺を倒そうとするのはいいが聞きたいことが聞けなくなるぜ? 少なくとも今はあんたと敵対する気はない……少し聞きたいことがあるだけだ」


「…………」


「SDO計画……概要はともかく言葉は聞いたことあるだろ?」


「…………」


 あからさまに殺気が強くなるシージュの恐怖による圧を必死に耐えるラルガの口元から血が垂れる。


「残念ながら具体的な計画の内容や関係者については一切わかってないし依頼主のアイツも部屋を見た事はあるがほとんど部外者みたいなもんだ、大した情報は持ってない……わかっているのはこの計画もとい実験には7人の被験者がいた事」


 シージュの脳裏にかつての記憶がよぎる。


「被験者番号02マルイココロさんお時間になりましたので移動します」


「お母さんはどこに行っちゃうの?」


「ふふ……お母さんはね少し疲れちゃったから休みに行くのよ」


「お母さんは心の病気を治しに行くんだ……大丈夫! パパがお母さんの側について一生懸命治すからな!」


「そうなの! それなら安心だね! だってパパはぷろぐらむってやつでなんでもできちゃうもん! ありがとうパパ!」


 最後に聞いた嘘偽りのない父の言葉だ。

 暖かな温もりを感じる。


「その内の大半が死亡した事」


 こことほとんど変わらない部屋、学校で何かあったのか最近ほとんど笑うことのなかった姉がこの部屋にきてからよく笑うようになった。


「お姉ちゃん今日も楽しそうだね〜」


「ふふ……そうねこのゲームをやってると自然と笑みが溢れちゃうのよ……」


「へーそうなんだー私もやってみたい!」


「そうね〜お父さん達に相談してあげようか?」


「本当! 約束だよお姉ちゃん!」


「うんわかった……約束ね」


 あの部屋に姉がいるのは1日4時間程度だがそれでも少し寂しさと距離を感じた。


「そしてその被験者の中に……丸井四季……あんたと…………が含まれ……事だけ……」


 途中で意識が記憶の方に持ってかれる。

 姉が約束を守ってくれたのか黒服の人物によって姉のいた部屋とほとんど変わらない部屋に入る。


「被験者番号04マルイシキさんあのデバイスを使ってしばらくゲームをしてくださいね」


「うん! わかった……のじゃ!」


「……のじゃ?」


「ふふ〜んこの前テレビで見たキャラの真似だよ! お姉ちゃんがこのキャラ好きって言ってたから私も真似してみたいなーって思って! ……最近全然会えてないけどね……お姉さんはお姉ちゃんが今どこにいるか知らない? お父さんは別の病院に行ったって言ってたけど場所おしえてくれなくて……」


「…………すみません……私も……知らないんです」


「そうなんだ……うーんお姉ちゃんどこの病院に行ったんだろう……」


「…………」


「……四季そろそろ時間だ……やらないなら帰ってくれ……」


「あ、お父さんごめんなさい……今からやるよ!」


「ああ……頼むぞ四季……」


「うん!」


 思えばこの時にはもう遅かったのかもしれない……その後のことは……


「……い! おい! 大丈夫か!」


 気を失って倒れそうになったのかシージュの体を受け止めたラルガが心配そうに声をかける。


「嫌だ嫌だ嫌だいやだイヤダ! 触るな! クルナ!」


 ほぼゼロ距離での魔法の直撃によって声を出す間もなく一瞬のうちに消滅したラルガが手に持っていた水晶の時計が落ちる。


「はぁ……はぁ……また……やってしまったのじゃ……」


 落ちた水晶の時計を拾いその冷たさで冷静さを取り戻すがもう時すでに遅く、聞くべきことも聞けずに戦いは終わった。


「…………ここから出ないとじゃな」


 まだ調べられそうなものはあるがここに長居するのを本能が拒否する。

 ここは居てはいけない場所だ。

 ただ出口がわからない……そもそもここは内側から部屋を開ける手段はない。

 魔法でこじ開けた壁の向こうに部屋があるのはわかるがラルガが言ったことが本当なら外は海のため迂闊に出ることもできない。


「……はぁ」


 あの時と同じようにここで待つしかないと判断したシージュの目にベッドの上のデバイスが目に止まった。


「…………これは」


 よく見ると側面に01と番号が書かれている。

 震える手でシージュが電源ボタンを押すがデバイスは起動しない。


「…………早く出たいの」


 さっきまではラルガが居たので感じることはなかった部屋の静寂に孤独を感じ嫌なことを思い出しそうになる。

 何かを壊した、何かを貫いた、何か温かくて気持ち悪いものに触れた、吐き気を覚えるような感情の押し付けを受けた、本当に温かくて美しいものに触れた。


「…………ああ」


 そうだ、あの時確かに本当に温かくて美しいものに触れたのだ。

 当たり前のようにあったのに忘れてしまったもの、気がついた時には手遅れになっていたものが。


「……お父さん……お母さん」


 それは黄昏の記憶、一瞬にして落ちていった夢の記憶だ。

 そんなものが走馬灯のように流れる。

 そういえばあの時はどうやってここから出たんだっけと記憶を思い出そうにもかなり前の出来事のせいか記憶は朧気だ。


「……出られないならこのままいっそ」


 その後に続く言葉を言う前に一瞬にして魔王は空中に放り出された。

 突然の出来事に体が動かないが口は正直に動く。


「な、なんじゃ!? 出たいとは思ったがこれは違うじゃろー!」


「何が違うんですか……全くどこに行ったかと思ったらこのポンコツ魔王は海の中で何やってるんですかねー? トーカさんが見つけてレミさんが回復ポーションガブ飲みして反転使ってくれたんですから感謝してくださいよね〜!」


「あ、ありがとうなのじゃ……でも妾は今飛べないんじゃが!? 落ちるー!」


 そこそこ距離があるにも関わらずハッキリと聞こえるうるさい魔剣の声で一瞬で魔王シージュに切り替わり僅かな安堵を覚えるものの精神的に不安定なことは変わりなくいつも使ってる翼が使えず落下する。


「あーしんどい……シージュ大丈夫? そんなに強かったのあのラルガとかいつ奴」


 既にニーナとの戦闘で消耗した体を無理矢理動かしてシージュを抱き止めたクロネに連れられて船に戻る。

 ああ……そうだあの時も


「クソ!」


 男の人の怒鳴り声で目を覚ます。

 さっきまで上にあった大きなものの向こう側からスーツを着たおじさんが走ってくる。

 何があったのか天井の一部は崩れ落ち部屋の壁も床もボロボロになっている。


「おじさんは……誰?」


「意識があるんだな! とりあえず俺のことはどうでもいい!」


 無理矢理私に覆い被さっていた大きな二つのものを退かすおじさん、その退かしたものを見て一瞬表情が凍りついたがすぐに切り替えたようで私を抱き抱えると出口に向かって走り出した。

 お父さんでもお母さんでもお姉ちゃんでもないのに何故か安心する温もりのせいかどっと疲れが吹き出して眠くなる。


「クソ! 証拠隠滅……病院ごと潰すつもりか!……あのやろう!」


 おじさんは何か文句を言ってたけどその声を聞き終える前に夢に落ちる。


「シージュ? おーいポンコツ魔王!」


「な、なんじゃと!」


「それはこっちのセリフよ……いきなりぼーっとしてどうしたのよ?」


「……なんでもないのじゃ」


「?」


 クロネが不思議そうに首を傾げるがその疑問に答えることなくシージュは目を閉じる。

 クロネは何か言おうとしたが言葉を飲み込むと静かにレミ達の待つ船に向かっていく。

 それぞれの戦いを終えたレミ、クロネ、トーカそしてシージュとその手に持った水晶の時計を黄昏の光が静かに照らしていた。

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