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夕焼け

 レミ達が海に落ちた後、クロネ達の船に絡まった木の枝の様なものの上で戦っていたクロネとトーカはニーナのデザイアウェポンに苦戦を強いられていた。


「はぁはぁ……体が重い……」


「くっ……どうなってるのよこれ! 矢を真っ直ぐ飛ばせないとか最悪じゃない!」


 先制攻撃でニーナの槍を喰らってから急に感覚がおかしくなり始めた2人を笑いながら追い詰めていくニーナ。



「あはは〜体調悪そうだね〜? 楽にしてあげるよ〜!」


 少しずつ傾き始めた日によって照らされた禍々しい黒い槍を楽しそうにクルクル回すニーナは不気味な笑みのままゆっくりとクロネ達との距離を詰める。


「あの槍……」


「あれヤバイわね……ある意味1番タチが悪いわ……」


 クロネの弓やトーカの魔法などは軌道の制御を感覚で調整する部分が多い為、ニーナの感覚を狂わせる能力とは特に相性が悪い。


「んー? 攻撃してこないならこっちからいくよ〜!」


「!?」


 獣人の脚力によるものか一瞬にして間合いをつめたニーナが槍を繰り出す。

 間一髪でトーカの召喚した魔物がクロネとニーナの間に割り込んで攻撃を防いだが少し食らってしまったクロネを槍のデバフによるめまいが襲う。


「くっ……」


「ほらほら〜ちゃんと避けないと〜」


 弓が使い物にならないと判断したクロネは吸血鬼の力で出した剣で強引に槍を防ぐ。


「おおーすごいね〜でも〜」


 剣を複数出して槍を防ごうとするクロネだったが槍に集中しすぎて防御が手薄になる。

 その隙を的確についたニーナがボディに思いっきり蹴りを入れクロネを吹き飛ばす。


「がっ……は」


 思いっきり船の貨物にぶつかったクロネが積み上げられていた木箱に埋もれて見えなくなる。


「簡単にやられちゃつまんないよ〜もう少し頑張って欲しかったな〜」


 一瞬だけ不安そうな顔を見せたあとすぐに不気味な笑みを浮かべながら次の獲物に向けて槍を構えようとしたニーナに向けて魔物の攻撃が振り下ろされる。


「おっと〜あぶないあぶなーい」


 ギリギリで魔物の攻撃を避けそのまま魔物を一撃で葬るニーナだがトーカの出した魔物がその死角をつくように攻撃を繰り出す。

 そんな死角をつくような攻撃に対しても対応してくるニーナはどこか楽しそうに踊っているように見える。


「あはは! そんなのじゃ物足りないよ〜」


「……わかってる」


 トーカは凄まじい勢いで魔物を倒しながら向かってくるニーナに向けて魔力をチャージした雷の剣を構える。


「あはは!」


 魔物を倒したニーナが雷の剣を認識すると一瞬表情が固まった。


「……くらえ」


 少しふらつく体を自身の翼を地面に突き刺すことで無理矢理固定し雷の剣を放つ。

 足場を抉りながら目が眩むほどの光の束が放たれニーナの姿が光に呑まれていく。


「はぁはぁ……」


 雷の剣の反動をもろに受けるが何か嫌な予感を感じたトーカは最後まで構えた剣を下ろさないように堪える。

 そんなトーカの元にコツコツとわざとらしい足音が聞こえてきた。


「あははー惜しかったね〜?」


 雷の剣から放たれた光の中を悠々とした足取りで近づいてきたニーナは容赦なく槍をトーカに振るう。

 ニーナの攻撃と反動から地面に崩れ落ちるトーカを踏みつけ動きを抑えたニーナが槍の照準を頭に合わせる。


「ぐぁ……なんで……」


 確実に倒せる威力の攻撃を食らったにもかかわらず目の前に立つ敵に怯えた小動物のような目を向けるトーカ。


「あはは〜私がつけてる装備に一回だけHP1で耐えられる指輪があるんだ〜今ので壊れちゃったけどね〜」


 澄んだ青色の宝石にヒビが入った指輪がトーカの目の前に落ちると同時に消滅した。


「あは! カリンちゃんが念のためって渡してくれてたけどまさか使うことになるとはね〜」


 消滅する指輪をどこか名残惜しそうに見送るニーナの表情を見てトーカは諦めたようにため息を吐く。


「あはは! ここまで追い詰められるのは久しぶりだから面白かったよ〜」


 心の底から楽しそうな声で笑うニーナ、その姿は純粋な少女そのもののように見えあんな槍が生まれるような願いを持っているようには到底見えない。

 その在り方がどこか魔王と重なって見えたトーカは抵抗する気が失せたのか諦めたように目を閉じた。


「……それじゃ〜ありがとう〜バイバイ〜!」


 ニーナの言葉と武器が空を切る音を最後にあたりは静寂に包まれた。


「………………あはは……油断大敵ってやつか〜……カリンちゃんに怒られちゃうな……」


 直後に振り下ろされたはずの槍は地面に音を立てて転がりトーカを踏みつけていた足は音も立てずに消え失せた。

 違和感に気づきトーカがゆっくりと目を開ける。


「……お望み通り……頑張ってあげたわよ」


 小さくつぶやいたその声がトーカに届く事はなかったがトーカは確かにその姿を目に焼きつけた。

 赤い夕日に照らされた黒髪の吸血鬼とその手に握られた見た事のない弓の姿を…………

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