自由な2人と壊れる計画
「ふぁーあ……暇じゃなー」
なんとか縄を解いてもらった魔王シージュは見張り番をやらされていた。
マストの上にある小さなスペースから眺める景色は綺麗で最初は楽しかったのだがあまりにも変化のない海の様子に飽きてしまっていた。
「あやつら楽しそうじゃな〜妾も遊びたいのじゃ!」
シージュが見張りをしているあいだに船の甲板では釣り大会が行われていた。
魚はともかく海に住んでいる魔物がよく釣れる為それなりに盛り上がっている様子が上にいてもわかる。
「見張りを魔王である妾にやらせるとは……トーカが率先して交代してくれれば良いのに……まぁこういうのも悪くはないがの!」
ぶつぶつと愚痴をこぼしつつもちゃんと仕事をこなす魔王はどこか楽しそうに見える。
魔王や国王になると様々な職業補正や報酬があるがそれと引き換えに国を管理することになり自由に動けない時間が出てきてしまう。
その結果、同じプレイヤーやNPCと話すことが多いためレミやクロネとの活動は新鮮な気持ちにしてくれるようだ。
「魔王〜独り言多いけど大丈夫〜? 海賊船見つかったー?」
「独り言多いのは暇だからじゃ! あと海賊船はまだ見つかっとらん! というかわざわざ敵の海賊船を探す必要無いと思うんじゃが!」
元々宝探しをするつもりだった魔王はクロネが海賊船を探してウロウロしているのが気になるようだ。
クロネは呆れたようにため息をつくと魔王に届くように声を張る。
「何のためにあんたを呼んだと思ってるのよー! 直接探すより奪った方が早いでしょー!」
当然とでも言うようにクロネが堂々と言うと今度は魔王が呆れた様子でため息をついた。
「どこにいるかも分からん海賊船を追うぐらいなら素直に宝探しをした方がいいと思うんじゃがー!」
もっともな意見である。
今回のイベントに海賊船を探せるようなアイテムはなくまた宝物も広範囲にわたって隠されているため簡単に会うのは難しくわざわざ探す利点は少ない。
そんなことをするなら宝の地図を買って宝探しをした方が効率的なのだがクロネは何か策でもあるのかニヤリと笑みを浮かべる。
「だから釣ってるんじゃない!」
クロネが言うのと同時に水しぶきが上がる。
どこからか砲撃されたようだ。
「きたわね! 魔王! 敵の場所は!」
「ちょっと待つのじゃ! ……左後方じゃ! そこそこデカいんじゃが!」
クロネが望遠鏡を覗くと大型の海賊船がこちらを狙っているのが見えた。
「よし! このまま相手の砲撃を反転させて決めるわよ! レミ!」
クロネが合図を出すも一向に出てくる様子のないレミ。
周りを見回すもレミの姿は甲板のどこにもない。
「ちょっと! レミ! どこいったのよ!」
「あの魔剣使いならもう突撃しておるんじゃが……」
向かってくる砲弾を撃ち落とした魔王が指さす方向には浮き輪に乗って爆走するレミの姿が見えた。
「何あれ……ちょっとレミ! 戻ってきなさいよ!」
「ふっふーん! 手柄は全部私達が頂いちゃいますよー! レミさん! あんな連中パパッと倒してお宝貰って借金返済しちゃいましょうー! 久しぶりに私とレミさんの本気をお見せしちゃいますよー!」
クロネの静止も無視して魔剣とレミはさらに加速する。
化け物じみた加速力を発揮する浮き輪は砲弾に当たることもなく真っ直ぐに突っ込んでいく。
「……あの浮き輪どうなってるの」
「あれは天才クリエイターマルナ作のターボ内臓型特攻兵器UKIWAじゃな! 速度だけならトップクラスの代物じゃが基本曲がれないやつじゃ! 実物は初めて見たがやはりマルナは凄いの〜あの加速っぷりたまらんのじゃ!」
「そ、そうなのね……」
クロネ達が全く聞いたことも無いクリエイターの作品に感動した様子の魔王は放っておいて迫り来る砲弾を防ぐ事に全力を注ぐクロネ。
「しかし一体どういうことじゃ? さっき釣るとかなんとか言っておったが」
「あーそれね! さっき釣った魔物の習性を利用したのよ」
「なんじゃそれ?」
「……あの魔物はイベント限定のやつ……同じ種類の魔物か宝物のある場所に集まる習性がある」
「だからこいつらを集めれば宝を持ってる海賊船がこの船に宝があると勘違いして来てくれるのよ! これが私の考えた作戦!」
「なるほどのーしかしそんな作戦考えておったなら妾に教えてくれても良いじゃろ!」
「次の交代の時に教える予定だったのよ! それより今は防衛に専念してよね!」
文句を言いつつ向かってくる砲弾をしっかり落とす魔王とクロネだがいつまで経っても砲撃が終わる気配がない。
「それで? 一向に砲弾は止まないようじゃがどうするんじゃ船長?」
「そ、それは〜元々レミの反転で跳ね返して相手が焦ってる間に倒す予定だったから……ノープランってやつね!」
「どうしようもないやつじゃな……」
「そんなこと言うならあんたの魔法であの船撃ち抜いてよ!」
逆ギレするクロネはやけくそ気味に砲弾を撃ち落としていく。
「あの距離に届かせるためにはそれなりに魔力を溜めて撃たんと届かんのじゃが……お主1人で時間稼ぎできるかの?」
「私1人だとちょっとキツイわね……トーカ!」
「無理……魔物の制御と船の運転で手一杯」
「そ、そんな! それじゃどうしろって言うのよー!」
「どうしようもないじゃろ……あの魔剣使いに任せるしかないの〜」
「もー! どうしてこうもうまくいかないのよー! こうなったらレミ! 絶対その船制圧してきなさいよ!」
クロネの叫び声が届く事もなく真っ直ぐに敵船に突っ込んでいくレミを見ながら魔王は心底楽しそうに砲弾を撃ち落としていくのだった。




