ブラッドハーバー
レミ達が海賊船の前に来ると一人の悪魔が待っていた。
どうやらこの子がクロネが呼んだ仲間の1人のようだ。
「…………」
「ごめんごめん! レミを呼ぶのにちょっと手間取っちゃって」
「なに私達のせいにしてるんですかこのボッチ! さっきも言いましたけどレミさんはポイント稼ぎで忙しくてここに来る前にも一つクエストをこなして来た後なんですからねー! 暇なあなたとは違うんですー!」
怒っているようにも見える悪魔はクロネには目もくれずレミの事を睨みつけている。
レミは特に心当たりがないようで不思議そうに首を傾げるばかりだ。
「……もしかして覚えてない?」
「なんですー? もしかしてレミさんの知り合いですかー? でも覚えられてないなんて悲しい人ですね〜その点私はレミさんにとって唯一無二の相棒! その辺のモブキャラとは格が違いますよ格が〜!」
「……モブキャラ?」
「あれ? なんか変な地雷踏んじゃいましたか〜? 私の予想ですけど一度倒したと思ってた敵が実は倒されてなくてオマケにその敵に助けられるタイプな気がしますね〜」
「なんでそのことを!?」
戦争でのことを完全に言い当てられ動揺するトーカを面白く思ったのか魔剣がさらに追撃する。
「え? まさかの図星ですか〜? うわー流石に盛りすぎたなーと思ってたんですけどまさか本当にあったとは〜そりゃそんな情けない人のことなんてレミさんが覚えられるはずないですよー!」
「…………」
「あれれ〜何も言い返せないんですかー? こんなのが仲間で大丈夫かですかね〜?」
「ちょっとやめなさいよ! トーカこの魔剣頭がおかしいから気にしなくていいわよ!」
「ふーんだ! 正直私は少し怒ってるんですよー! きっかけが借金返済とはいえ久しぶりにレミさんと2人きりだったのに邪魔されたんですからー! 少しぐらいストレス発散してもいいじゃないですかー!」
「……ストレス発散? それはこっちのセリフ……あれから事あるごとにブレイクにあの話を持ち出されてイライラしてるのはこっち!」
ついに怒りが頂点に達したのかトーカの指先から雷の魔法が放たれる。
「レミさん危ない!」
それに気づいた魔剣が叫ぶも魔剣の話が長すぎて完全に油断していたレミは反応できずトーカの攻撃を目前に成す術がない。
トーカの放った雷が当たる寸前、コツンと何かを叩いた音が響いた。
「流石に不意打ちは卑怯じゃろ? トーカ」
海賊船の上から声が聞こえたのと同時に雷は綺麗に消え失せる。
レミ達が声の聞こえた方を見るとそこにはこちらを見下ろして楽しそうに笑う少女の姿が見えた。
(決まった! あのトーカを倒したやつじゃ戦力的には申し分ないしこうやって恩を売っておけば魔王軍に引きずり込めるかもしれん! 此奴を仲間にして次こそはRに一泡吹かせてやるわ! それにしても我ながらカッコ良すぎじゃな!)
完璧なタイミングでの登場に満足したのか内心でそんな事を思いながらドヤ顔でレミ達を見下ろす魔王だったが……
「いきなり不意打ちしてくるとか何考えてるんですかこの悪魔! どこの誰だが知りませんけど私のレミさんに当たったらどうするつもりですかー! なんか知りませんけど寸前のところで消えましたけどもう頭にきました! ぶっ飛ばしてあげましょうレミさん!」
「……望むところ! ……借りは返させてもらう!」
完全に無視されていた。
確かに魔王の方を見たレミ達だったがトーカと魔剣は目の前の邪魔者を倒すのを優先し、レミは思考を停止、クロネは早速雲行きが怪しくなり頭を抱えている。
「あれ? 聞こえておらんかったのか?」
「借りってなんですかー? レミさんが人から恨みを買うわけ……買うわけないじゃないですかー!」
「なんでちょっと悩んでるのよ……」
「ボッチ! シャラップ! とりあえず言いがかりはやめてくださいー! 名誉毀損でぶっ飛ばしますよー!」
「やれる物なら!」
「あのーもしもし〜? 聞こえておる?」
「ちょっと黙っててもらえませんかー? 今この悪魔をぶっ飛ばしますのでー」
「……魔王様うるさい!」
「トーカ!?」
「さっきもそうですが魔王様は好き勝手しすぎです! いつもいつも振り回される方のみにもなってください!」
「んな!」
ここぞとばかりにトーカが愚痴をこぼし全て心当たりのある魔王は狼狽えてしまう。
「えー? 部下からの扱いがこれって魔王も大した事なさそうですねーついでに倒してレミさんの経験値にしちゃいましょうよー!」
「初対面のやつにも舐められとるじゃと……流石にカチンときたのじゃ! 2人まとめて相手してやるのじゃ!」
3人がどんどんヒートアップする中、いつの間にか冒険者達も集まり始めていた。
「はいはい皆さん誰が勝つか予想して1発大当てしちゃいましょ〜! なんと今回のカードは魔王軍の幹部に魔王様だよ〜! それに対峙する無名の魔剣使いにも注目だー!」
「無名の魔剣使いじゃなくてレミちゃんですよ! というかナツちゃん賭け事はダメですよ!」
「いいのいいの〜ハル姉は真面目だな〜」
いつのまにか設置された席にはハルとその妹のナツが賭け事を始め最早お祭り状態になっている。
「にゃはは! ミャーはもちろんレミに賭けるにゃ〜! レミ〜魔王だかなんだかわからんけどそんな奴ら全員倒すにゃー!」
「ちょっとトーカ! まだ私と決着ついてないのに何他のやつと戦おうとしてるのよ! 先に私と戦いなさいよ!」
どこか見たことある面々も集まり騒ぎは留まるところを知らずに広がっていく。
「戦闘開始!」
「マルティプルスペース展開! もうここは妾のフィールドじゃ! お主らに勝ち目などないと知るが良い!」
「レミさん! 一気に方をつけちゃいますよー! ちょっとだけ強引にいきますけど許してくださいねー!」
「……速攻で終わらせて寝る」
トーカが雷の剣を出したのを合図に3人が一斉にぶつかりさらに盛り上がる冒険者達。
勝手に参戦して吹き飛ばされる者やいつのまにか持ってきたジョッキで乾杯する者などが入り乱れる中、1人怒りで震える吸血鬼は赤い液体の入った瓶を取り出すと一気に中身を飲み干した。
「アンタら……」
せっかく楽しみにしていた航海を全く始められずイライラしていたクロネが空の瓶投げ捨て弓を構える。
「いい加減に……しなさいよね!」
「あっ……」
「なんじゃ!?」
「何をする気か知りませんけどレミさんには効きませんよー! レミさんいつものお願いしま〜す! ……って立ったまま寝てる! レミさーん起きてくださーい!」
次の瞬間、血の雨に姿を変えた睡眠の矢が降り注ぎ港には沈黙が訪れるのだった。
後にこれは真っ赤な血に染まった港からブラッドハーバー事件として記録に残るのだがそれはまた別の話。
心地よい揺れと共に大海原を突き進む海賊船。
その海賊船の船首に座りクロネは満足気に海を眺めていた。
「んー! 風が気持ちいいわねー日差しは少しキツイけど」
自分がやりたかった航海ができて嬉しそうな様子のクロネは海を眺めて満足したのか船のマストの方に近づいていく。
「アンタらもそう思うわよね?」
「そ、そうですねー! やっぱりボッチ……じゃなかったクロネさんの船は最高ですよねー! いやーここにレミさんがいればもっといいんですけど……」
「…………」
「そ、そうじゃな! クロネ船長の船は最高じゃな! ……だからそろそろこの縄を解いて欲し」
「じゃあもう少し外にいたいわよねー私は船室に戻ってるけどアンタらはここにいていいわよー私はレミの様子見てくるから」
ほぼ同時に喋る2人の言葉を途中で遮ったクロネはマストに縛りつけた3人を放置して船室に戻っていった。
クロネ達の航海はこうして順調なスタートを切った。
「……なんでミャーが港の掃除をしないといけないんだにゃー!」
「仕方ないでしょ! 目が覚めた時には全員どっか行ってて泣きながらハルさんが1人で掃除してたらほっとけないでしょ!」
クロネの攻撃によって真っ赤に染まった港を掃除するFとミケ。
一番最後に目が覚めた2人は『ギルドマスターに怒られる』と泣きながら掃除をするハルを放っておけず手伝いをしていた。
「しかしなんであんなところで寝てたんだろーにゃーなんだか面白いことがあったような気はするんだけ思いだせないにゃー」
「あーアンタも思い出せないのね? 私も何してたのか全く記憶にないわ……なんか妙にイラついてはいるんだけどね」
「ふーん……そういえばミャーもなんか不完全燃焼な感じが残ってるにゃー……」
「うーん……まぁ考えてもしょうがないしとっとと掃除終わらせるわよ!」
「わかったにゃー」
いまいち寝る直前の記憶を思い出せない2人は少しモヤモヤした気持ちを抱えつつ掃除に精を出すのだった。




