大物同士の対決
レミが海の家でクロネとの再開を果たしている頃、ここ魔王城近海には重々しい空気が流れていた。
「…………」
「なーそろそろやめにしないか? もう充分がんばっただろ?」
真剣な表情の魔王シージュをなだめようとするブレイクだったがその声など届いていないかのように釣りに集中する魔王。
「こりゃダメだな……おいトーカもなんとか言ってやってくれ」
「……無理」
トーカは諦めたようにビーチチェアーに横たわり本を読んでいる。
この状態の魔王は何を言っても聞かないことがわかっているトーカは完全に流れに任せるつもりのようだ。
「はぁ……全くとんだ災難だぜ……」
のんびり釣りを楽しむつもりだったブレイクはため息をつくと今回の件の黒幕であるRの方を睨む。
「あはは〜そんなに睨まないでくださいよ〜」
「元はと言えばテメェのせいだろうが!」
「えー? 本当にそうですかー? そこの魔王様が釣りが下手くそなせいじゃないですかー?」
「……」
Rの言葉に反応した魔王シージュが一瞬強い殺気を放つ。
下手をすればあの戦争の時よりも強い殺気を放ったことでRが少し怖気付いたが特に追撃することもなく再び釣り糸に向き直るシージュ。
「ほーこっちよりも釣りの方が優先度が高いのは少しショックですね〜」
「よくあの殺気受けてそれだけ余裕保てるなお前……と言うか楽しんでるな?」
「そんなことないですよー」
どうにも本心が読めないRのことはこれ以上考えても無駄と判断して魔王の様子を伺うブレイク。
「お前がいなけりゃもう少しのんびり釣りができたんだがな……」
ため息混じりにそんな事を言うブレイクは事の発端を思い返していた。
2時間前。
「おー! またヒット! いや〜すげえなここ」
夏イベントの影響で周りが海になってしまった魔王城で釣りをしていたブレイクは大量に魚の釣れるスポットを見つけていた。
「本音を言えばもう少し本格的なやつをやりたいがそれは別のゲームでやればいいか……」
現実でも釣り好きなブレイクはかなり簡単になっている釣りに満足してはいないようだが楽しんでいるようだ。
「おーここにおったのかブレイク……何やってるんじゃ?」
「お、魔王様じゃねーか! 今釣りしてんだよ釣り」
「ほー釣りとな……妾も少しやってみても良いかのー?」
「いいぜーアイテム余ってるし貸してやるよ! 普通に餌つけて水面に釣り糸たらせば勝手に食いついてくるからタイミングよく上げれば釣れるぞ」
「わかったのじゃ!」
ブレイクから釣竿と餌を受け取ると早速釣りを始める魔王シージュ。
あまり釣りの経験はないのか餌をつけるのに苦戦する魔王を笑いながら眺めるブレイクの様子は側からみれば娘に釣りを教えているお父さんのように見えるのかもしれない。
「むむむ〜なかなか難しいのじゃな」
「まぁ慣れるまでは難しいかもなーどうせ時間はあるんだしのんびりやってこうぜ〜」
いつもはほぼ負けているシージュに対して釣りでは勝てる事が嬉しいのか上機嫌な様子のブレイクは少しずつ釣りのコツを教えていく。
1時間後。
少しずつ釣りに慣れていく魔王だったが今のところ1匹も釣れていないようだ。
だんだんと口数が減っていく魔王の様子に苦笑いを浮かべるブレイク。
「まぁ釣れねー時もあるから気にすんなよー」
「ぶーお主は結構釣っておるし妾だって1匹ぐらい釣りたいんじゃー!」
「んー? 魔王なのにまだ1匹も釣れてないんですねー」
そんな会話をしていると聞き覚えのある憎たらしい声が聞こえてきた。
あからさまに嫌そうな顔をする2人が声のする方を振り返る。
「めんどくさい奴がきたなー」
「えーめんどくさいだなんてひどいじゃないですかー」
「……はぁちょっとお茶でも買ってくるは」
これ以上会話したくないのかブレイクは逃げるように飲み物を買いに行ってしまった。
その様子を見たRは悪い笑みを浮かべる。
「それにしても釣りですかー私も少しやってみましょうかねー」
Rが魔王シージュの隣で釣りを始めるとすぐに魚がかかった。
「お、ヒットしましたね! よいしょっと……早速1匹ゲットしましたー」
わざとシージュに見せびらかすようにするRを睨むシージュだがすぐに釣りの方に意識を戻す。
Rはその様子を見てさらに追い討ちをかける。
「いやー結構簡単に釣れますねーまぁ私あまり魚は好きではないので魔王様に差し上げますねー」
ニヤリと笑みを浮かべたRが魚をシージュのバケツに入れる。
「頑張ってくださいねー魔王様ー」
「……お主」
途端にシージュの周りの空気がガラッと変わる。
それに気づいたブレイクが急いで戻ってきたが既に遅かったようだ。
「おいおいおい! お前何言った!?」
「何も言ってませんよー」
「はぁ……おい大丈夫かシージュ?」
「こうなったら何がなんでも大物を釣り上げてお主に魔王の力を教えてやるのじゃー!」
「うわー……お前……」
「ふふ……面白くなってきましたねー」
そして今に至る。
結局大物を釣ると宣言した魔王だったが小さい魚1匹も釣れずに時間だけが過ぎていく。
「そろそろ諦めた方がいいんじゃないですかー? 魔王としての仕事もあるでしょうし別に釣りでも戦争でも勝てなくたっていいと思いますよー?」
「またお前は……初心者は釣れないのが普通みたいなところあるし気にしなくていいぞ!」
Rの挑発に歯軋りまで立て始めた魔王シージュをなんとかなだめようとするがまるで聞こえてない様子の魔王シージュ。
流石に見かねたのかトーカがシージュの元に歩いていく。
「魔王様……人には得意不得意がありますしそろそろ休んだ方が……」
トーカが説得を始めようとした時突然シージュが声を上げた。
「うお! ブレイク! なんか凄い勢いで釣竿が引いておるのじゃ!」
嬉しそうな声を上げる魔王に一瞬驚いたブレイクだったがすぐに笑みを浮かべる。
「よし! 焦るなよ! ゆっくり引き上げるんだ!」
ゆっくりと釣竿を引くシージュをブレイクとトーカがアシストする。
「重いですね!」
「なんとしてでも引き上げてやるのじゃ!」
「おっしゃー! 任せとけ!……今だ!」
ブレイクの合図で釣竿を勢いよく引き上げる。
大きな水しぶきが上がり巨大な魚が砂浜に打ち上がる。
「……おおおお! やったのじゃー!」
「おお! やったじゃねーか!」
「凄い……」
まだ動いている魚に興味津々な様子のトーカとシージュ。
そんな2人の様子を笑みを崩さず眺めるRとどこか懐かしそうに眺めるブレイク。
「どうじゃ〜妾だってやればできるもんなのじゃー!」
「これはこれはーいやー流石魔王様ですねーそれでその魚どうするつもりですかー?」
「それは当然食べるのじゃ! 魚を釣った時点でポイントは入るようじゃし逃すのはもったいないからのー」
「なるほどー」
再びニヤリと笑みを浮かべるRを警戒するように睨むトーカとブレイク。
そんな事を気にする様子もないRは一旦どこかにいくと大きな袋を持って戻ってきた。
「魚を食べるとなると調味料とか欲しくなりますよねー? たまたま偶然船にありましたのでいくつか買って行ってはくれませんかねー?」
Rが袋から取り出したのはイベントアイテムで作れる調味料数種類だった。
「お主最初からこれが目的だったんじゃな……」
「レーダーで調べたらこの辺りに大きな魚がいるのがわかっただけですよー」
呆れたように笑うシージュ達に対して何か?とでも言うように笑うR。
「もちろんわたしにも分けてくださいねー」
「はぁ……仕方ないのじゃ……ブレイク、トーカほかの奴らも呼んで食事の用意じゃ!」
「はいよー」
「了解です」
「ではわたしも船にいるものを呼んできましょうかねー」
のんびりとした釣りの時間はこうしてRにはめられる形で珍しい食事会へと変わるのだった。




