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闇上がり

 頬を撫でるひんやりとした空気で目が覚める。


「ここは……」


 あたりは真っ暗で何も見えない。

 ただ嫌な空気が流れている。

 あの笛の時と同じ……


「笛?……こんな笛知らない……」


 頭の中に知らない笛の映像が浮かぶ。

 黒くて冷たい雰囲気の笛……見慣れない笛を吹いてるのは……


「わたし?……」


 覚えてない、でもハッキリと脳裏に浮かぶ。

 笛の音色が頭の中に溢れる。


「嫌な音……」


 聞きたくない、一番嫌いな音色だ。

 悲しくて、暗くて、それに……


「……冷たい」


 凍えるような冷たさの音。

 目の前が暗く沈むような音だ。

 ……今はそんなことどうでもいい。

 それよりもここはどこ……


「何もない……」


 少し目が慣れて自分の手元や足元が見えるようになった。

 周りをざっと見回すが何もない、暗がりだけが広がっている。

 この暗闇が怖い……いや違う……暗闇に隠れてるものが怖い。


「……早く出ないと」


 何かに急かされるような感覚、ここから早く出ないと行けない気がする。

 ここにいるのが嫌だと本能が感じている。

 暗がりの中をとりあえず歩いてみる。

 一歩進むごとに嫌な感覚が体にまとわりついてくる。

 悲しい、苦しい、辛い、冷たいそんな感覚が襲ってきたと思ったら唐突に消え嫌な虚無感に襲われる。

 自分の無力さがナイフのように突き刺さってくる……そんな感覚。

「……何かある」


 嫌な感覚を我慢して少し歩いた先に上から下がった紐のようなものを見つけた。

 これは明かりをつける為のスイッチだ。

 何故かはわからないけどそう思った。


「……」


 紐に触れようとすると手が震える。

 明かりをつけたくない、何故かそんな感情が湧き上がる。

 後悔する……確実に後悔する。

 でもつけないといけない。


「ダメ……だよ」


 もう少しで紐に手が届くところで誰かの声が聞こえた。

 とても懐かしい声、怯えた小動物のようにか弱い声だ。

 でもわたしにはハッキリと聞こえた。


「つけちゃダメ……」


 まるで小さな子供が親に抱きつくように後ろから何かが抱きついてきた。

 後ろを振り向こうとするも体が動かない、何かの力に妨害されている。

 ……違う、向き合いたくないだけだ、見たくないだけだ。


「いいよ……見なくていいの……」


 いや……向き合わなくちゃいけないはずだ。

 見なくちゃいけないはずだ。

 そうわかっているはずなのに……


「いいよ……振り向かないでいい……」


 抱きしてきた力が弱くなっていく。

 このままじゃダメだとわかっているのに……


「……仕方ないよ……だって私は……」


 目が覚める。

 見慣れた部屋だ。

 いつも通りの自分の部屋。

 あの暗い暗い空間はどこだったんだろう、あの声は誰だったんだろう。

 何故か……懐かしく感じた。

 とりあえず起き上がらないと……


「あ、……」


 体がふらついてバランスが取れず転んでしまった。


「痛い……」


 かなり大きな音が出ちゃったな……お母さんに怒られそう。

 ドタドタと足音が聞こえてきた。


「レミ!」


 部屋の扉が開きお母さんが駆け寄ってきた。


「大丈夫? 随分すごい熱出て2日も寝てたのよあんた!」


 そんなに寝てたのか……確かに寝過ぎたせいか体が痛い。

 正直記憶もあやふやでいつログアウトして寝たのか覚えてない。

 記憶があやふやなのも問題だけどそれよりも


「……お腹空いた」


「2日も何も食べてないんだからそりゃすくわよね……何食べたい?」


「ハンバーグ……」


「じゃあハンバーグ作ってくるわね!」


「……ありがとう」


 お母さんがここまで優しいのっていつぶりだろう。

 相当心配してたのかな……

 ミケたちも心配してるかもしれないし後で電話しようかな。

 ミケたちのことも気になるけどやっぱり気になるのはあの笛だ。


「……後で魔剣に聞こう」


 枕元にあったゲーム機にそっと触れると少しだけ不安が和らいだ。

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