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終焉を告げる笛の音

 突然の騒音が鳴り響く。

 うるさいなんてレベルじゃない! もうそれ以外の音が聞こえない。

 目の前を走る2つの音は既にかき消されている。

 理性によって抑えられた物じゃない……これはもっと根本的な……


「……行かないと……あの音を今すぐ止める!」


「ちょっと! どこ行くのよ!」


 前を走る2人を無視して少女は何かに引き寄せられるように森に戻っていった。


「魔物達がどこかに向かっていきますね〜……」


「なんじゃ? こちらとの実力差を体感して逃げたのかの?」


「いえ、あの魔物にそんな知性はないかと……なんだか嫌な予感がしますね〜」


 まるで巨大な敵に対する援軍のように戦場から魔物達が一点に向かって行く。

 この瞬間蹂躙する側だった少女は蹂躙される側に変わったのだろう。


「なに……これ」


 疲れ切った体を剣で支えながら殺意の発生源に目を向ける。

 見慣れた顔、見慣れた姿だけどもはや別人のような気迫。


「レミ……なのかにゃ?」


「……」


 その問いかけに応える者はいない……わけでもなかった。


「正真正銘レミさんですよ〜! いつもは理性のストッパーが固いレミさんの認識を反転させてストッパーを緩くしたので獣人本来の力を出しやすくしました〜この状態のレミさんは正真正銘最強ですよー!」


 嬉しそうにはしゃぐ魔剣とは違い苦しそうな表情をしながら剣を振るレミ。

 人格の一部分だけを改変してる為全体の統一性が取れずかなりの負荷がかかってしまうがいつもは理性によって使うのを避けている能力まで使える為戦闘能力は格段に上がっている。


「正直言って消耗がかなり早いので一気に突破して逃げますよ〜! フラフラな状態のあなた方も手伝ってくださいよね〜!」


「わかってるにゃ〜! かなり体がしんどいけど最後の力を振り絞るにゃー!」


「私も……」


「く、クロネさんは消耗が激しいので私の後ろにいてください! 私が魔物を倒します! これ以上の無理はダメですよ……」


「……ごめん任せるわ」


 レミを戦闘に襲ってくる魔物達を切り裂き進む4人。

 ほとんどの敵をレミが一撃で倒して行くがあまりにも数が多くなかなか進めない。


「なんかさっきより数が増えてるんですけど〜! 流石に多すぎますよ〜! 処理しきれませーん!」


「なんでこんなにいるんだにゃ! もうこっちは限界にゃ!」


 ベルがハンマーで地形を闇雲に変えてる為幸いにも正面からしか敵が来れない状況になってはいるがその分レミへの負担が大きい。

 倒す速度は速くなっているが魔物の数はどんどん増えるばかりだ。


「……」


「レミさん大丈夫ですかー! 消耗が大きすぎて意識が消えかけてますよー! 流石に限界です〜! これ以上はもうダメです〜!」


「レミ! 私が先頭を変わるわ……」


 多少は回復したクロネが前に出ようとするのをレミが止めた。

 クロネの今の状態で魔物と戦っても勝てる可能性はゼロだ。


「……だい……じょぶ」


 朦朧とする意識の中でなんとかそう答えると再び魔物を切り裂き道を作る。

 既に目の前がぼやけはじめ敵の姿もろくに見えないが研ぎ澄まされた獣人の感覚によって敵の位置はわかる。


「ダメですよレミさん! もうほんとの本当に限界ですー! これ以上やったら精神的なダメージが残りますよー! 今すぐ能力を解除しないと!」


「……うる……さい! ……まだ……もう少し……」


「……いいえもうダメです! 能力を強制的に解除します! あくまでもこれはゲームですよレミさん! レミさんの体に万が一の事があるぐらいならここは負けた方がいいです!」


 魔剣の言っていることは正しいとわかっているがここで諦めるてしまっては無理をしてまで頑張った意味がなくなってしまう。

 しかし元々のルールはもう成り立っておらずなにをすれば勝ちなのかももうわからない。

 あの魔物が出た時点でこの戦争は既に破綻しているのだ。

 あの魔物のせいで無理矢理参戦させられた戦争が終わったならそれはレミにとっていいことのはずだ。


「……い……や」


 確かに最初は無理矢理参加させたられた戦争だ。

 でも最初からやる気がないならわざわざ時間に合わせてログインなんてするわけがない。

 本当はただこのゲームを楽しみたかったはずだ。

 薄れいく意識の中にどす黒い何かが流れ飲み込まれる。

 それが何かレミは知っていた。

 忘れようとしたもの、理性によって強引に封印したものだ。

 逃れようとなんとかもがくが特に効果はなく引きずり込まれる。


「レミさん! レミさん! ダメですよー! そのまま飲み込まれたら!」


 遠くから声が聞こえる。

 それが何かはわからない……知っていたはずだけど認識できない。

 目の前を黒く覆われ沈み込む体、このままどこまでも落ちて行くのだろうか?


「やらせませんよ〜! どんな時でも魔剣ちゃんは優秀なんですー! 少し強引ですけど許してくださいよレミさん!」


 体に痛みは無い、腕に鎖が巻かれ強引に引っ張られるが

 沈むのが止まっただけだ。


「どうしたのにゃ!」


「レミさんの意識が引きずり込まれてます〜! 私がアンカー役として繋ぎ止めてますけどこのままだと……飲み込まれちゃうんですけど〜! 能力も解除できないしどうなってるんですかこれー!」


 完全に沈黙し立ち尽くしたレミを魔物から守るミケとベル。


「れ、レミさん! 避けて!」


 しかし満身創痍の2人では防ぎきれずレミの方に魔物が行ってしまう。


「レミ!」


 咄嗟にクロネが前に出て攻撃を庇おうとするが体が思うように動かず間に合わない。

 レミに魔物の攻撃が当たる直前、魔物は目の前で消滅した。

 死亡エフェクトもなく単純に存在そのものが消えた。

 笛の音が聞こえる。

 いつの間にかレミがクラリネットを吹いている。


「なに……この音……」


 悲しみ、苦しみ、怒り、妬み様々な感情が混ざったような音色を響かせるレミの目は黒く沈んでいる。

 笛の音が広がるとすぐさま魔物達が消滅していく。

 込められた感情の重さに押しつぶされそうな感覚を覚える3人。

 実際に重さがあるのか周りにあった木々は枯れて押し潰されていく。


「頭が……痛いにゃ……」


「か、体も……う、動きません……」


 笛の音が戦場に鳴り響く。

 決して大きな音ではないがしっかりと聞こえる。


「なんですかこれ……思考が……乱されてますね……」


「なんじゃこの感覚……体が動かないのじゃが……」


 実力の差など意味を失う。


「……重たい」


「能力が……かき消されてるわ……」


 等しく終わりを告げる笛の音色。


「これは……まさか本来の……ダメですレミさん! その先は!」


 地に伏した魔剣の声など聞こえる道理もない。

 つなぎとめた鎖が少しずつ緩み再び意識が沈み始める。

 もはや足掻く気力もない。


「……見つけた……その不快な音を止める」


 そんな中、魔物を召喚していた少女がレミに襲いかかるがレミに近づく前に体が消滅し始める。


「う……そ! この音……を消さない……と!」


 レミに辿り着く前に少女の体は完全に消滅した。

 笛の音を止める者はいない。

 この戦場に残ってはいない。

 全て等しく消えるのを待つのみだ。


「……だがこの世界を消すのはまだ早いだろう?」


 少女の虚な目にその男の姿が止まったかどうかはわからない。

 ただ事実として笛の音が止まったのは確かだ。


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