最速で地獄へ
「それではこちらの席へ」
Rに案内され席に座らせられるレミとミケ。
明らかに格上だと思われる実力者達の中に入れられてコミュ障モードを発動してしまうミケは周りの空気に圧倒されているようだ。
一方のレミは興味が特に無いのか周りの視線が自分に集まっているのにも気付いていない。
そんな2人の様子を見ながら不敵な笑みを浮かべるRだが他の王国軍の幹部達は至って真剣な表情だ。
そのせいでこの場に流れる空気は少し重苦しいものとなっていた。
「この子が例の魔剣使い?」
重い空気が流れる中その空気を切り裂くように口を開いた赤毛の剣士。
なぜか不満そうな赤毛の女剣士は鋭い目つきでRのことを睨むがRはそんな圧をかけられても笑みを崩す様子はない。
「そうですよー!この子があなたが苦戦していたあの魔王軍幹部のトーカを退けた魔剣使いです!」
Rは赤毛の女剣士を挑発するように言うと視線をレミの方に向ける。
レミはそんなやりとりよりもミケの方が気になるようだ。
レミのその様子を見てまたも赤毛の女剣士が不満そうに口を開く。
「どうせあなたの作り話でしょ?それに見た感じ私より弱いし」
「そんなことはありませんよ!!」
赤毛の女剣士がレミに対して喧嘩を売ったのを途中で遮るように魔剣が声を上げる。
一部の幹部はいきなり喋り出した魔剣に驚いた様子を見せたが赤毛の剣士を含む数人は事前に聞いていたのか特に驚く様子はない。
レミは魔剣を止めるのが面倒なのか魔剣を机に置く。
「あなたみたいな目つきの悪い人よりレミさんのが何倍も強いし可愛いです〜!王国軍の幹部だか何だか知りませんが私のレミさんに失礼なこと言わないでくださいよ!あなたが負けた相手に勝ったからって八つ当たりですかー?みっともないですねー!」
何となくこうなることがわかっていたのかレミとRは最初から耳を塞いでいたが他の幹部とミケは嫌そうな顔をしながら耳を押さえている。
「うるさ!なにこの魔剣!すごくうざい!それに八つ当たりじゃないし!……そこまで言うなら私とレミで勝負よ!」
赤毛の女剣士は怒りが沸点に達したのか剣を抜くとレミの方に向ける。
他の幹部達は動揺した様子だがRはこの展開まで予測していたのかたのしそうな笑みを崩さず様子を見ている。
「いいですよー!なら勝負ですー!レミさん!早く私を構えてください!この単細胞剣士をぶっ倒してやりましょうー!」
魔剣の沸点も赤毛の女剣士に負けず劣らず低いのか既にやる気満々のようだ。
レミは仕方なさそうに魔剣を構え赤毛の女剣士に向ける。
数人の幹部とRを除いた幹部達は呆気に取られているミケを連れて席を立ち2人から距離を取る。
レミはミケが幹部達と避難したのを確認すると一気に赤毛の女剣士との間合いを詰め斬りかかる。
「遅い!」
赤毛の剣士はレミの攻撃を避けるとすぐさまカウンターを仕掛けてきた。
ギリギリで赤毛の女剣士の攻撃を避けたレミだが少しかすったのかダメージを受ける。
「レミさんあの剣士の攻撃引くほど早いですよー!何ですかあれ!レミさんが獣人じゃなかったら回避もできないですよー!」
凄まじく早い攻撃を連続で繰り出す赤毛の女剣士からひたすら逃げ回るレミ。
反撃の機会を伺うにも避けることに精一杯でまともに攻撃ができない。
「これが私の剣の能力!相手に一切の反撃をさせず一方的に倒す最速の剣!このゲームにおいてこの剣より早いものは存在しない!」
赤毛の剣士はさらに速度を上げながら攻撃をし続ける。
速度に関係するよくわからない能力。
ただ早いだけならそろそろ慣れてくるはずだが全くその気配はない。
レミが知る限りで1番早いクロネの弓が遅く感じるほどの早さの攻撃。
それが少しずつ着実に早さを増しながレミを追い詰める。
「どうやらあの剣は相手にとって常に"最速"の攻撃になる能力みたいですねーこれ時間かけてるとどんどん早くなりますよー!」
いつものふざけた調子が嘘のように真面目に魔剣は相手の能力を分析していたようだ。
「その通り!でも能力がわかったところでどうしようもないんじゃない?」
赤毛の女剣士が言う通り反撃の隙がない連続攻撃に対してレミでは太刀打ちできない。
一瞬でも隙が無ければ反転を使うことができないレミは一旦立て直すために距離を取ろうとするが持ち主のスピードも上がるのか距離を取ることすらできない。
「これで終わりね!」
赤毛の女剣士はこの勝負を終わらせる一撃を放つ。
ほぼ視認できない剣がレミに向かって放たれる。
「レミさん!今ですー!」
魔剣が叫ぶと同時にレミは向かってくる見えない剣に向かって剣を振る。
剣を避けながら心の中で魔剣と考えた結果これ以外の方法ないと結論付けたレミ。
相手の剣がたとえ見えないほど早かったとしても存在するならば軌道を予測して剣を当てることはできる。
しかしレミは剣の扱いに慣れてきたとはいえ経験は浅い、そこで魔剣が相手の観察を行い赤毛の女剣士の癖から軌道を三パターンまで絞ったのだ。
「……反転」
あとは運に任せるのみ。
しかしレミの攻撃は赤毛の剣士の剣にあたらずそのまま赤毛の女剣士に当たり同時に相手の剣がレミに直撃した。
発動してしまった反転を止めることなどできるはずもなくそのままレミは能力を発動してしまう。
「なに!?これ!?」
「レミさん!?」
「……」
レミは赤毛の女剣士の攻撃を逆方向に飛ばすつもりで発動したがその効果は不発に終わり別のものを反転させてしまった。
失敗を認識すると同時に激痛がレミの体を襲う。
ほぼライフギリギリのダメージを喰らいながらもギリギリで耐え切ったレミ。
一方の赤毛の剣士は特にダメージを喰らったわけでもないのに立ち尽くしたままだ。
「う…そ…」
赤毛の女剣士はショックを受けたようにその場にうずくまる。
赤毛の女剣士を心配したわけではないがRが近くによると突然笑い始めた。
「あれれ〜?あなたもしかして……性別が反転しましたか〜?」
Rが笑いながら言うと赤毛の剣士は顔を手で覆って泣いてしまった。
「戻して……戻してよ〜……」
さっきまでの勢いが嘘のように消えた剣士は泣きながらレミの方に近づいてくる。
「こわ!?レミさん逃げましょうー!ってレミさんあの攻撃で気絶してる!?起きてくださいよー!レミさん!ていうかあなたレミさんを揺さぶらないで下さいー!NP切れの上に体力も限界なんですからー!今起こしたって治せないんですから諦めて離れてくださいー!」
意識の飛んだレミにはその声は聞こえない。
そんなレミを揺さぶり起こそうとする赤毛の剣士とそれを止めようとする魔剣。
その様子を愉快そうに笑い続けるR以外の他の幹部達は呆気に取られて動けず魔王軍討伐会議は地獄絵図とかし一時中断を余儀なくされたのは言うまでもない。
「そういえばレミの魔剣の能力ってどんなのだニャー?」
馬車に乗っている途中ミケは疑問に思っていた魔剣の能力を聞いていた。
「私の能力は簡単にいうと反転させる効果ですよー!結構アバウトな能力なので認識次第で効果が変わりますけど基本は触れてる相手の何かを反転させる能力ですー!レミさん側である程度反転させるものを指定できますからかなり便利で優秀な能力ですよー!すごいでしょー!」
自慢げに能力を語る魔剣だったがミケはほとんど理解できていないのだった。




