駆け抜ける馬と猫
「風が気持ちいいにゃ〜」
平原の中を颯爽と駆け抜ける馬車。
もしここが現実世界なら完全に法律違反な速度を出している。
普通の人なら罰則を受けることを気にしてここまで飛ばそうとは思わないはずだがそんなことを知らない人が操縦すればこうなるのは当然だろう。
「のんびりな旅なんてつまらないからにゃー!やっぱり
これぐらい飛ばさないと面白くないにゃー!」
馬車を引く馬にまたがるミケはそんなことを言いながらスピードを上げていく。
そんな暴走状態の馬車の中でレミはため息をつきながら凄まじい速度で過ぎ去る景色を眺めている。
「……どうして」
ゆったりとした馬車の旅を楽しむつもりだったレミは思わずそんな言葉を漏らすのだった。
出発前。
王都に向かうには徒歩だと時間がかかると言うことでハルが馬車を用意してくれた。
移動費は自腹のはずだったのだが馬車の護衛を引き受けてくれるならただでいいと商人が言うので護衛を引き受けて馬車に乗り込む。
「レミさんレミさん!馬車旅楽しみですねー!今まで見たことないような景色が見えるかもしれませんよー!ついでに面白そうな敵とかも出てくるかも!早く戦いたいですねー!」
できれば戦わずにのんびりと景色を眺めていたいレミは魔剣のことを無視しつつミケの買ってきたお菓子を食べ始めた。
「王都ってどんなところなんだろうにゃー!楽しみだにゃー!」
王都の景色を想像してテンションが上がるミケは尻尾を振りながらはしゃいでいる。
そんなミケの姿に癒されるレミは幸せそうにお菓子を頬張りつつ景色を眺めていた。
ゆったりと流れる平和な時間……しかしそんなものは長くは続かなかった。
「……なんかゆっくりすぎにゃい?」
そんな一言から全ては崩れ始めた。
「確かにゆっくりすぎますねー敵も出てきませんし暇です〜!もう少しスピード出ないんですかー?」
退屈で暇になってしまったからか文句を言い出す2人。
それに反応したのか少しスピードを早くする商人だが2人の満足する速度には届かない。
「少し早くなったけどまだまだ遅いにゃー!」
相変わらず文句を言うミケは不満そうに頬を膨らませる。
「でもお嬢さん、これ以上出すと王都の人に怒られちゃうから出せないんだ、ごめんよ〜」
商人がミケをなだめるがあまり効果はなかったのかミケは駄々をこねる。
現実世界と違いかなり子どもっぽい行動をするミケを眺めながら寝っ転がるレミ。
「王都の人にバレなきゃいいんですよー少しぐらい飛ばしたってバレないですって!ですよねーレミさん!……あれ?レミさんなんでそんな余計なことを言うなって目で見るんですかー!?ギャーーー!」
余計なことを言う魔剣を足で蹴飛ばし馬車の隅の方に飛ばす。
「それにゃ!バレなきゃ犯罪じゃにゃいんだにゃ!だからもう少しスピード出すにゃー!」
魔剣のせいで面倒な事態になったとため息をつくレミはミケが商人に詰め寄るのを止める。
「離すにゃー!こんな退屈な旅は嫌なんだにゃー!もっと刺激が欲しいにゃー!」
暴れるミケを止めようとするレミだがちょうど馬車が道端の石で跳ねてしまい転んでしまった。
「にゃふん!」
ミケも馬車が跳ねてバランスを崩してとっさに体を支えるために手をつこうした。
馬車の壁に手をついて体を支えようとしたミケだったが手を伸ばした方向に壁はなくかわりに商人を勢いよく押しそのまま馬車の床に倒れてしまった。
「え!?」
いきなり後ろから押されなすすべもなく落ちていく商人。
幸いスピードが出ていなかったため怪我はしていないようだ。
「ミケさん!今がチャンスですよー!早く馬の手綱を!」
こういう時に限って的確なアドバイスを出す魔剣にイラッとしてしまい反応が遅れてしまったレミが気づくと既にミケが手綱を握っていた。
「……ミケ!」
レミが呼ぶとミケはこっちを見て不敵な笑みを浮かべる。
「捕まってた方がいいにゃよー!全力疾走にゃー!」
ミケが手綱で馬に合図をすると馬は全力で走り出した。
見る見るうちにスピードが上がり馬車を追いかけていた商人を置いて猛スピードで馬車は進むのだった。
「レミー!王都が見えてきたニャー!」
がっかりとした様子のレミが外を見ると村など比べ物にならないくらいに大きな街が見えてきた。
大きな城を中心に城壁で囲まれた街に圧倒されるレミ。
下がっていたテンションも回復し気合を入れ直していると魔剣が喋り出した。
「ミケさんそろそろブレーキ掛けないと突っ込んじゃますよー?」
魔剣が言うまで気づかなかったが王都はもうすぐそこなのに馬車は全く速度を緩めない。
「……止める合図がわからにゃいニャー……にゃはは……」
恥ずかしそうにミケが言うと馬車はそのままの勢いで王都に突入しクエストが開始された。
冬休み突入!
更新頻度上げてきます!




