追放勇者は楽園を目指す
第五回書き出し祭り参加作品
第二会場12ポイント
総合39位
ジャンル:ローファンタジー
第四回書き出し祭りを読んで楽しそうだったので
右も左もわからないまま飛び入り参加してみました。
気軽に感想をもらえるのはありがたいです。
色々と学べました(そして上は遠い…)。
帰宅ラッシュというには少し遅い時間帯だった。
如月流星は電車のドアの脇で壁に体を預けながら、暇つぶしにスマホを眺めていた。
彼がそのツイートを目に留めたのは単なる偶然でしかない。
誰かが拡散したリツイートがタイムラインに流れてきただけだった。
【追放勇者】
『一緒に楽園を作る仲間を探しています! 質問があれば、なんでも答えますのでお気軽にどうぞ』
――『楽園』? こいつは一体、何を作るつもりなんだ?!
案の定、追放勇者のツイートには面白半分に書かれたリプライが殺到していた。
追放勇者はその全てに律儀に返信をしている。
【はーふむーん】
『楽園って具体的に何?』
【追放勇者】
『みんなが幸せになれる場所があれば、いいなと思っています』
【霧島日出夫】
『田舎でコミュニティのようなものを作りたいのかな。iターン的な?』
【追放勇者】
『移住するわけではなく、住んでいる人のサポートをしようと思っています』
どうやらツイート主は高校生のようだ。
過去のツイートには試験やバイトの話など一般的な学生生活が書かれている。
楽園を作るなどと突拍子もないことを言い出すような変人だとは思えなかった。
――どうしてこんな平凡な学生のツイートがバズってるんだ?
少し不思議に感じてリンク辿ると、最近売り出し中の人気声優がリツイートしたことで拡散されたようだ。
【uz】
『結構、金がかかるんじゃね? 予算的にどうよ?』
【追放勇者】
『そうですね。頑張れば、1億ぐらいは作れそうです』
――ああ、これはマズイな。変な奴に目をつけられるぞ。
流星は慌てて追放勇者にダイレクトメールを送る。
公の場で大金が絡む話をするなど、どんな犯罪者に狙われるかわからない。
老婆心ながら一言、注意を促そうと思ったのだ。
それが流星と追放勇者を名乗る睦月日向の出会いとなった。
◇◆◇
「こんにちは、あなたが磯弁290円さんですか?」
待ち合わせカフェへ向かうと、目の前には長身で引き締まった体をしていながら、どこか可愛い顔をした少年が待っていた。
「君が追放勇者くんかな。悪いけどアカウント名を大声で呼ぶのは止めてくれ」
「失礼しました。ええっと、何とお呼びすれば?」
流星は内ポケットの名刺入れから一枚を取り出して渡す。
「弁護士さんだったんですか」
「まあ、ほんの駈け出しだけどな」
「如月さんでいいですか?」
「名前でも名字でも好きに呼んでくれ」
「じゃあ、流星さんって呼びます。カッコいい名前ですね」
年下の少年から褒められて悪い気がしない自分に流星は苦笑を浮かべた。
気恥ずかしさを誤魔化すように通りかかったウエイトレスを呼び止める。
「あ、俺はブレンドコーヒーを――。それでダイレクトメールでも伝えたが、ああいう話を公の場でするのはマズイと思うぞ」
「そうですね。友達にも軽率だと言われました。反省しています」
少年はしゅんと項垂れて長身をひと回り小さくしている。
見ず知らずの他人から叱責を受けたにしては、とても素直な反応だ。
最近の学生はこんなにも素直なものなのかと、流星は自分が学生だった頃を思い出していた。
「もう少し別の方法を考えた方がいいな。ほとんどが冷やかし半分だろ?」
「流星さん以外はお金の話ばかりでしたよ。仮想通貨に投資しないかとか」
自虐気味に乾いた笑いを浮かべる少年は数々の失敗談を語った。
流星は話を聞きながらも、ずっと疑問に思っていたことが頭を離れない。
本当に彼は楽園を作りたいのかと。
「それで君は本当に楽園を作るつもりなのか?」
「もちろんです。でも、そのためには仲間が必要だと感じています」
ここまで聞いてしまえば片足を突っ込んだも同然だ。
赤の他人が何様だと思わなくもなかったが、流星は意を決して少年に質問を投げかけた。
「ちょっと耳が痛い話かもしれないが、聞かせてもらえるか? 君は簡単に楽園を作りたいと言うが、ひどく曖昧な言葉だし、何をしたいのかどこまで本気なのかもわからない。他人に頼るつもりならそんな夢は捨ててしまった方がいい」
少年は目を丸くして驚くと、優しげな笑みを浮かべた。
「流星さんは僕を心配してくれているんですね。ありがとうございます」
「くそっ、調子が狂うな。そんなことだと悪い奴に騙されてしまうぞ」
「でも、こうして流星さんと会えた。それだけであのツイートには意味があったと思っています」
――結局、俺も何かを期待していたってことか。こんな少年の不確かな夢を実現する手助けをしたいと思うほどに。
「わかったよ。確かに興味を惹かれた。だが、口だけの奴に協力するほどお人好しでもない」
「そうですね。僕は本気ですが、言葉だけでは信じてもらえないでしょう。ひとつ僕の力を見てください」
少年はテーブルの上に手をかざすと、一枚の金貨を虚空から取り出した。
――これが『力』だというのなら随分、無駄な時間を使ってしまったようだ。
しかし、取り出した金貨は一枚では終わらなかった。
少年がテーブルに置いた手を持ち上げると、そこに金貨のタワーが現れる。
淡々と少年はその作業を繰り返した。
カジノで大勝負をするようにベットする金額が上がっていく。
「いや、凄い手品じゃないか!」
投げかけられた言葉にショックを受けて少年の顔がみるみる曇る。
流星は大声を張り上げた後、周囲の目を気にするように少年の耳元で囁いた。
「みんなの目を引いている。すぐに片付けてくれ」
「す、すみません」
少年が再び手をかざすと、金貨のタワーは消えていった。
手品だとすれば相当な腕前だ。
「これが君の力なのか?」
「はい、《所持目録》といって保管した物を取り出せる魔法です」
「はあ?! 魔法だと?!」
超能力と言われれば、まだ信じられたかもしれない。
しかし、いくら目の前の少年が誠実そうでも魔法が実在すると言われれば正気を疑ってしまう。
「やはりこれではダメですか。両親も信じてくれませんでしたから」
「そりゃまあ、確かに凄いとは思うが」
「それならとっておきをお見せします。手を出してもらえませんか」
訝し気に出された右手を少年は両手で強く握りしめた。
流星は新手の宗教団体にでも呼び止められたような嫌な気分に陥った。
少年に手を握られているアラサーの男。
周囲からどういう目で見られているかと気が気でなかった。
突然、左膝が熱を持ったように熱くなった。
事故以来じくじくと悲鳴を上げていた左膝が何も感じなくなっている。
流星が驚いて顔を上げると、穏やかな微笑みで見つめる少年と目が合った。
「これも……、君の魔法なのか?!」
「《治癒》の魔法です。これならどうですか?」
「にわかには信じ難いが、これほどの力なら魔法でも超能力でも関係ないな」
「ええっ、そこは魔法を信じてくれるところじゃないんですか」
少年はがっくりと肩を落とした。
なんだか悪いことをした気分に陥り、流星はすかさずフォローを入れる。
「それはともかく君の力は見せてもらったよ。それで楽園を作るとは具体的に何をしようって言うんだ?」
「国を作ろうと思っています」
「そりゃ、また突拍子もない話だな。日本に革命でも起こすつもりか?」
「日本は楽園とまではいかなくても、そう悪い国だとは思わないんですよね」
今の生活に対する不満を原動力にしているわけではなさそうだった。
しかし、何かきっかけがなければ、こんな夢みたいなことを語らないだろう。
「そうか? 何かと閉塞感を感じるんだが」
「今日、明日にでも殺されるって危機感はないでしょう?」
「そんな世紀末な状況なら逃げ出すさ」
「そういうときに逃げ出せるのは余裕のある人たちだけですよ」
少年の言葉は妙に達観した響きを伴っていた。
「それならどこに国を作るんだ?」
「南米にしようかと考えています」
「南米、また遠いところだな。要は乗っ取りだろう? 紛争地域なら君の力は崇め奉られるぞ」
「イデオロギーの対立はどちらに正義があるか、僕にはわからないんです」
正義という言葉を耳にして自然と体が身構えた。
その意味に対してこれほど胡散臭く聞こえる言葉もないだろう。
「正義なんてものは人によって様々だろう」
「少なくとも流星さんは法の正義を信じているんじゃないですか?」
少年の問いに流星は即答できなかった。
弁護士を目指したのは確かにそれを信じていたからだ。
だが、今となってはそれがどこにあるのかさえもわからない。
ただ毎日を生きるために切り売りしているものだった。
「まあ俺のことはいい。それで南米のどの国なんだ?」
「バル・ベルデの西、レナトゥスにしようかと」
「ああ、あの反米政権が経済政策を失敗させた国か」
「今は混乱しているので付け入る隙がありそうじゃないですか」
単なるお人好しってだけでもなさそうだと流星は意外そうな表情を浮かべた。
「流星さんには法律関係の手続きをお願いできますか? ちゃんとお金も払います」
「しかし、よく俺を信じたな。弁護士の名刺なんていくらでも作れるぞ」
「こんな子供の夢物語を真剣に聞いてくれる人は少ないですよ。それに――」
「それに?」
「《鑑定》と《悪意探知》を使いましたから」
「思いっきりチートじゃねえか!?」
流星の弾いた指が少年の額を叩いた。
初心者らしく「ワイルド・ソウル」と「龍は眠る」
「犬の力」「ただ栄光のためでなく」などの
好きな要素をごった煮して持て余した感じです。
石油と薬(×麻薬)で稼いだ金で
政府中枢をコントロールして
南米の優等生と呼ばれた楽園の時代に
時計の針を戻そうという展開でした。
最後はチートなんですけどね。
十二人の仲間が集まるとか
どうでもいい設定は作っていました。
あまりに主人公の目的が荒唐無稽なので
流星にツッコませようとしたのですが、
最終的に協力を約束する流れを力技で進めたため
チョロ過ぎる第三者になってしまいました…orz
楽園のイメージが漠然としていて
主人公に感情移入できないのも問題でしたね。