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ep4 夜空の下で

更新が遅くなってしまいました。すいません

「うわぁ………」


俺は目の前に広がる"2つ"の光景に、誰がどう聞いてもこいつは嫌悪感を抱いているのだな、と取れるような声を発した。どうもこうもなく、その感情が全てであり、おそらくこの状況で嫌悪感を抱かない人はいないだろう。隣をちらと横目で見ても、遠前も頬をひきつらせて顔も心なしか青ざめているように見える。ほんっと、どうしてこんなことになっているんだろうか。今日はとことんツイてないな。




俺達の目の前には、適当に積み重ねられている大量の段ボールと、何故かバイトに行ったはずである宮代夕の姿があった。




「おい、宮代君?君はどうしてこんなことにいるんだ?バイトに行ったはずじゃ無かったのか?」


俺は体の内から込み上げるものを押さえながら一応問うてみる。


「ち、違う!これは誤解だ、誤解なんだ!」


「ほざぐな。質問に答えろ」


どうやら、俺に怒りの感情を押さえ込むということは不可能だったようだ。

俺が怒った事に気付いたようである夕は、瞬時に両膝を折り床に着け、正座の姿勢になり、両手も床につけ、頭を深々と下げてきた。いわゆる土下座というやつだった。


「すいません申し訳ございません面倒だからと何も関係のない名倉君に全てやらせてしまいました何もかも自分の責任です本当に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


宮代夕、あっさりと罪を認めた。ここまでされると逆に清々しいな。もう逆にそこらへんの政治家より人間としてできているのではないだろうか。罪を犯したこと自体は無くならないが。


「え、えっと………、名倉君、この人は?」


さっきよりも数倍頬をひきつらせた遠前が聞いてくる。


「あー、こいつは宮代夕。俺の……クラスメイト」


「え!?俺達友達じゃないの!?」


「お前がここにいたことでお前を信じられなくなった」


「そ、そんなぁ。すいませんお願いしますから友達でいさせてください」


どうしようか、ここまで謝られると自分が少し意地悪をしているような感覚になるな……、と考えていると、放っておかれる形となっていた遠前がまた聞いてきた。


「あのー、私どっか行った方がいいかな?」


「悪い、変に気を遣わせてしまった。じゃあそろそろ本題に移るとしようか。夕、お前も手伝ってくれるよなぁ?この部室の片付け」


ここまで迷惑かけておいて手伝いの1つもしない訳じゃないよな?という含みを持たせて夕に聞く。すると夕は話の流が分からないようで硬直していた。


「え?本題?片付け?部室?ど、どういうことだよ?」


「あぁ、説明がなかったな。えっと…、俺達は天文部に入部して、今現在部室は物置になってしまっているから片付けをして欲しいと顧問の先生から頼まれたんだよ。あ、夕も入りたかったら入っていいぞ?天文部」


「え?どうして杏夜が天文部に?どうして女の子と二人で?どうしうことだよ?」


説明しても分かってもらえない男、宮代夕だった。


「そこら辺は置いといて、片付けをしよう」


時計を見ると、時刻は5時を少し過ぎた頃。少し遅めの部室の始まりはかなりの重労働になりそうだった。






そこから俺達3人(夕は部員ではないが罪滅ぼしでの強制参加)は、時間を忘れて片付けを遂行した。段ボールを開けば何やらよく分からない書類や体育祭で使っていたのだろうか?使い古かれたボロボロの等旗のフラッグなどが入っており、更には先生が生徒から没収したのだろうか、はたまた先生の所有物だったのか、後者であれば笑い物なのだが、18禁雑誌まで入っていた(こんなもの遠前に見せられないため、素早く廃棄した)。

そんなこんなで、段ボールが除去され、綺麗に掃除された部室には、数台の机と椅子、望遠鏡が2台と様々な小物(一つだけ小物ではないだろう達磨の置物があるわけだが)が残った。


「はーっ!終わった終わったーっ!」


まずそんな声を発したのは夕だった。こいつは最初は頭の理解が追い付かず片付けもおぼつかなかったが、時間が経ってくるにつれてどうでもよくなったのかテキパキとこなしていた。


「そうだねぇ、いやー、無事終わって良かったよー、ね?名倉君?」


夕の言葉に続いたのは遠前だった。遠前は段ボール運びという重労働は出来るといえば出来そうだったのだが、場所配分ということで主に掃除をして貰った。それでも終始集中してこなし、時年だらけていた俺達を叱咤するということもあり、よくまとめてくれていた。


「ん?あぁ、そうだな」


俺は、………と考えようとしたが、遠前が声を掛けてきたので思考を中断した。まぁそこらへんは想像に任せる、ということで。想像するやつはいないだろうが。


「てゆうかよぉ、時間は大丈夫なのかよ?もう8時近いぜ?」


夕が時計を見ながら俺に聞いてきた。俺もつられて時計を見る。確かに時計は8時近くを指し、外は月が綺麗な光を照らし出していた。


「あぁ、大丈夫だ。天文部の活動ということで先生が書類を出してくれているって、夕の分は無いだろうからお前はヤバイぞ」


「え!マジかよ、どうしたらいいんだよ俺は」


どうするもこうするも、さっさと帰れば一番問題ないとは思うのだが、というか、当たり前のようにここにいるのだが、それはつまり、


「夕、お前は天文部に入部するってことでいいのか?」


すると夕は、「あ!」とすっとぼけた声を出し、それから「うーん、どうしようかなぁ。」としばし考えた後、


「そうだな、俺も入るよ、天文部。これからよろしくな!杏夜、遠前さん」


と言った。

という訳で我々天文部は三人目の部員確保に成功したのであった。


となると、夕の分も書類申請しなくてはいけないな、と3人で話していると、不意にドアがノックされた。


「え、こんな時間にノックって………ま、まさか、幽霊!?」


夕が物騒でもない発言をしたことによって、俺達は動くことが出来なかった。すると、ドアが開いた。そして、中に入ってきたのは……




幽霊なんかではなく、天文部の顧問の先生、真空穹(まそら そら)先生だった。


「なんだ先生ですか。驚かさないで下さいよ」


「驚かすなんて人聞きが悪いですね。ただどうなっているか確認に来ただけですが、そうですか、片付けは出来ましたか」


それから、先生は「話は聞かせてもらいました」と夕の入部届けと活動申請書を出してきた。なんでそんなの持ってるの?先生テレパシーが何かなの?


「いえ、たまたま宮代君が段ボールを運んでいるのを見かけたものですから、もしかしてと思いましてね」


「は、はぁ」


いや、否定されても俺の心が分かるだけでそれはテレパシーに近いっすよ先生。


「そんなことは置いておこうか、名倉。それよりも君たち、天文部の活動といこうか」


真空先生はいつもは無表情の顔を良い感じで不気味に笑みを作り、俺達に言った。




その後、俺達は望遠鏡を持って、学校の屋上へと移動した。普段は入ることすら出来ないその空間は漫画でよく見る青春の象徴のようなイメージではなく、俺達天文部のメインフィールドのようなイメージで俺達を出迎えた。


「では、君たちの中で望遠鏡を使ったことがある、という人はいますか?」


俺は中学校の時に授業で使ったことがあったので手を挙げた。しかし、横を見てみると、夕も遠前も手を挙げてはいなかった。あれ?なんで夕は手を挙げてないんだ。もしかして夕のクラスは使ってなかったのかよ。


「そうですか、名倉だけですか。では望遠鏡の使い方から教えましょうか。名倉には確認にもなるでしょう」


どうして先生は俺だけ呼び捨てなんだ。俺、何か先生に対してやらかしたでしょうか、なんて考えていても、先生に読まれるだけなので、俺は素直にレクチャーを受けた。


「と、こういうことで分かるでしょうか。後は実践有るのみだと思いますのでどうぞ各々で観てください」


各々で観るといっても望遠鏡は2台。すぐさま2人が占領したので、俺だけ取り残される形となった俺に先生が声を掛けてきた。


「すまないな、雑用を押し付けて」


「いえ、大丈夫ですよ。自分達の部室なんですから自分達で片付けないよ話になりません」


と言うと、先生は小さく「ははっ」と笑った。この人でもこんな笑い方をするものなのだな、と俺は感じた。否、感じて"しまった"。この人の前ではこの行為がどれだけ無意味であるのか、俺はそれを先程身をもって感じた。当然否定されるのだろう、いろいろと漬け込まれるだろうと思ったが、そうではなかった。


「いや、いいんですよ。よくそう言われますから。しかし、自分達の部室ですか。なかなか頼もしいですね。君たちはきっといい部になるでしょうね」


俺は、「そうでしょうか」と言おうかと思ったが、天体観測していた2人から声をかけられたので、言えなくなった。そして、代わりに、


「まだ分かりませんよ、そんなことは」


と言った。それを聞いた先生の顔は、不気味にでもなく、声を漏らすわけでもなく、ただ優しく笑みを浮かべていた。まるで、「ならそれを見つけに行けばいいでしょう」とでも語っているかのように。


そして、望遠鏡から覗いた空の様子は、まだわずかだが明るさがあったため、ハッキリとした星は少なかったのだが、それでも、肉眼とは違う届きそうな星の瞬きに心を奪われた。


「ね?キレイでしょ!望遠鏡って凄いんだねぇ、肉眼とは全然違うよねぇ」


望遠鏡を覗き込んでいる俺の左側から遠前の声がして、


「杏夜、これはヤベェよなぁ。こんなの今まで見たこと無かったよ、俺」


と右側からは夕の声がする。


「確かにな、こんなのはなかなか見られる物ではないな」


顔を上げた俺は2人に答える。3人の目が合い、誰からともなく笑いがこぼれる。


ただ、そんな何気無い風景であっても、自分の人生からしてみればちっぽけな一部分であったとしても、今だけは、それが至高であり、至福であるのだな、と思った。


ふと、顔を上げてみる。上げた視線の先には満点とはいかないがちらほらと星が見える夜空。瞬いた星がこちらに返事をしているような、何故か忘れられなくなりそうな夜空だった。

これで一日目がやっと終わりです(笑)

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