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トップガンガールズ  作者: 真水登
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第一章 橙色の少女

     第一章 橙色の少女



 午前零時が過ぎて、ゴールデンウィークが始まったばかりの深夜。

 焔條政貴は空爆を受けた後のような部屋で腰を下ろしている。正面には、橙色の少女が片膝をついて焔條に視線を合わしている。膝をつくというより、(ひざまず)くと言った方がいいくらい、少女の姿勢は正しかった。

 その姿はまるで――騎士が王に謁見する時のそれと言える。

 そもそも、これはどういった状況なんだ。

 焔條は未だに頭の整理ができていない。情報があまりにも多過ぎて、処理が追いつかないのだ。自分の意識が現実にいるのか夢の中にいるのかさえわからない。

 こういう時は、順を追って思い出すんだ。

 焔條は真っ直ぐに視線を向ける橙色の少女を無視して、

 頭の中で時間を逆行させる。



 焔條は、橙色の少女に見惚れてしまった。

 魅了されてしまった。

 ガバメントが宙に浮いて炎に包まれたと思ったら、その中から少女が出てきた。

 少女は()色のドレスに、その上から、漆黒の甲冑を身にまとっていた。西洋の甲冑で、騎士の凛々しさを思わせる(きら)びやかさだ。

 髪は今にも燃えそうなほどの濃い橙色で、ふわりと肩にかかる長さだ。焔條を見据える双眸(そうぼう)も、炎を宿したかのようなオレンジ色の輝きを持っている。透き通るような白い肌、欧州の女性風の整った顔立ち。

 漆黒の鎧と橙色の髪と目、白磁のような肌――全てが全てを際立たせて、高め合って、その存在は――芸術の域を超える美しさだと言える。

「私の持ち主よ。状況を判断するに、M60を持ったあの少女が敵ですか?」

 ガバメントと名乗った少女は、後ろにいる、青い髪の少女を横目で見ながら言う。

「い、いや……それよりも、お前は、何なんだ?」

 焔條は目の前の存在が理解できず、質問に質問を返してしまう。

「……無理もありません。今はお話しができるような暇ではないので、とりあえず、あなたの障害となる者を――」

 言っている途中で、ガバメントはいきなり焔條に抱きついた。

 ――というより、タックルされたと言った方が正確だ。

 そのまま、(ふすま)を突き破って隣の部屋に出た。

 そして、タックルされるのと同時に銃声が鳴り響いた。焔條は、さっき自分達がいた場所に銃弾が撃ち込まれているのを視界の端で捉え、ぞっとした。

 あいつ、何のためらいもなく、撃ってきやがった。

 その非情な行動に、焔條の怒りが湧き上がる。しかし――直後にM60の銃声は止んで、追撃はされなかった。

「焔條政貴! あたしはフレア。あんたを殺す者の名前だ、記憶に刻みなさい!」

 隣の部屋からフレアと名乗る少女の声が聞こえる。そして、言い終えると同時に足音が聞こえて、フレアが遠ざかっていくのがわかる。

「待て――が! い、いてて!」

 起き上がろうとして左手をつけた瞬間、鋭い痛みが襲いかかった。M60によって左の上腕を穿(うが)たれた時の傷だ。上体を起こしかけて、再び床に沈む。

「私の持ち主よ、怪我をしています。無理をしてはいけません」

 見ると、ガバメントは焔條の体の上に覆いかぶさるように乗っていて、その類まれなる美貌が、比喩でも何でもなく目と鼻の先にある。ガバメントと目が合った焔條は、吸い込まれるように、オレンジ色に輝く瞳を見つめていた。

 焔條は金縛りに遭ったかのように動けなかった。

 一瞬とも永遠とも呼べる時間が過ぎ、ガバメントは何事もなかったかのように焔條から離れる。

「私が追いかけます。しばらくの間、お待ちを」

 焔條が制止する前に、ガバメントは隣の部屋に戻って外の庭へと出ていた。が、直後に重なる銃声が聞こえる。

 焔條は左腕を庇いながら起き上がり、この部屋の障子を開けて外の様子を見る。銃弾は来ない。しかし、念のために身を屈めて縁側から庭の状況を見る。

 焔條の左斜め前に、ガバメントはいた。庭に生えている木の幹に背中を預けていて、その木に銃弾が集中的に浴びせられている。

 よく聞くと、銃声はM60の重厚的な音ではない。より聞き慣れた、ゲリラなどが持っているAKだ。そして、ガバメントが隠れている木の奥――数十メートル離れた暗闇の中、明かりが点滅している。それは銃を発射する時の炎だ。

 焔條はいくつかそれを確認した。

 庭と言っても、学校のグラウンドの三分の一くらい広い。家の近くに日本庭園が(こしら)えてあるだけで、他は何も無い広大な荒れ地だ。

 故に、視界が開けていて見える。

 人が扇形に広がって、ガバメントのいる木に集中砲火を浴びせている。フレアの仲間かどうか知らないが、ざっと十人以上はいる。

 ガバメントは動けないでいた。

「おい! 大丈夫か!」

 何に対して『大丈夫か』と言ったのか、焔條はわからない。声が届いたのか、ガバメントは焔條を見て大きく頷いた。その両の手には、いつの間にか拳銃が握られていて、胸の前で構えている。

 少女が名乗ったのと同じ名前の拳銃――ガバメント。

 二挺拳銃? 四十五口径だぞ、正気なのか。

 焔條はその装備が、少女の見た目と不釣り合い過ぎていて、心配になる。

「ご安心を! 全て片付けてきます!」

 ガバメントは、焔條の心配や不安を吹き飛ばすように、強く言った。

「待て! 一人も殺すな――あっ、いや……」

 言って、焔條は愚かなことを言ってしまったと思った。そんな甘いことが戦場で通用するわけがないのに。過去の失敗から何も学んでいない馬鹿が、目の前の少女を殺す気か、と自分を(ののし)った。

 しかし、ガバメントは焔條に、初めてと言える微笑みを見せた。

「わかっています。私は元よりそのつもりですから」

 言うと同時に、ガバメントは木の幹から飛び出した。

 俊足、どころではない。目にも止まらぬ速さで駆けるガバメント。木の幹から右に飛び出して、そのまま敵に向かって斜めに進む。目標は、扇形の右端のやつだろう。ガバメントは銃弾の嵐をものともせず、数十メートルの距離を一秒で零にした。

「はあああっ!」

 ガバメントは、最初の一人を、銃を蹴り壊すことで無効化した。二人目も反応に遅れて銃を蹴り壊される。三人目が、慌てて銃口をガバメントに向けて引き金を引く。が、銃弾はガバメントが銃口を蹴って上に逸らすことで、当たることはなかった。

「な、何だこの女!」

「知らねえ! 撃て! 撃て!」

 敵の兵士が、ガバメントの突撃に、動揺した声を漏らしている。

「馬鹿者共が!」

 その怒鳴り声はガバメントのものだった。他の敵がガバメントに銃口を向けているのを見て、怒鳴ったのだ。

 ガバメントは両手に持つ拳銃を構え、連射した。放たれた銃弾の全てが、敵兵士の持つAKを弾き飛ばした。

 十秒もかかっていない。

 一瞬と言える時間で、ガバメントは十人以上の兵士を無力化した。

「私があなた達のAKを撃たなかったら、同士撃ちが起きていたのですよ!」

「…………」

 いつの間にか、ガバメントが両手の拳銃を突きつけながら、全員に説教していた。

 微妙に、いや滅茶苦茶怖い。

 遠巻きから見ていても、焔條は呑まれそうだった。畏敬の念を抱かせる。それほどの実力差を目の前で見せつけられたのだ――敵兵士達は、抵抗する気など起きないだろう。

「何でも銃に頼ろうとしない! これは、簡単に人の命を奪うのだから! 周りのことも考えて行動しなさい!」

 焔條は驚いていた。

 敵なのにそこまで言えるのか、と。しかし、同時に思う。敵も味方も死なせないようにする。それは、焔條自身がやりたかったことでもあると。

「あなた達は恐らくフレアとかいう少女に言われてここを襲撃したのでしょう。ならば、帰りなさい。そして、伝えて。再度現れるのなら、無傷では済まさないと」

 ガバメントが両手の拳銃を下ろすと、それが引き金になったのか、敵の兵士達は脱兎の如く逃げていく。ガバメントは、兵士達が焔條の家の敷地から出るまで見送った。

「……ふう」

 ガバメントは、縁側に戻ってくると、腰を下ろして一息ついた。

「あれは恐らく、逃走のための時間稼ぎ、だったんだろうな」

「ええ、そのようです。申し訳ありません、私の持ち主」

「いいんだ。それにしても……あの速さといい! 射撃の精度といい! すごかったぞ! 何なんだよ、あれ!」

 焔條は興奮気味になってガバメントに訊く。何と言われましても、と、ガバメントは戸惑う様子を見せる。

「本当に、信じられ――うぐ! ああ、撃たれて、いたのを、忘れてた」

 突如として蘇った痛みに、焔條は(もだ)える。

「大丈夫ですか? 応急処置をしなければ……」

 ガバメントは優しく焔條の左手を取り、傷口を見ながら言う。

「だったら、確か救急キットがあったはずだ。持ってくるよ」

「いいえ。あなたが動く必要はありません。場所はどこですか? 私が取ってきます」

「あ、いや……でも」

 しかし、焔條はガバメントの力強い目を見て、何も言えなくなる。仕方なく救急キットのある場所を教えた。



 それからガバメントに左腕の応急処置――病院に行く必要がないほど、限りなく治療に近い――を施してもらい、始めに襲撃を受けた部屋に戻った。

 回想終了。

「えっと……まず、お前の名前は?」

「私の名前はガバメントです。私の持ち主」

 清流のように涼やかで凛とした声が、言葉を紡ぐ。

「ガバメント、か。とりあえず、礼を言わせてくれ。命の危機を二度も救ってくれて……ありがとう」

「もったいなきお言葉です、私の持ち主」

「俺の名前は焔條政貴だ。『私の持ち主』っていうのはよしてくれ。あと、そんな堅っ苦しいのもなしでいい」

「……そうですか。わかりました。では、マサキと呼ばせていただきます」

 ガバメントは跪いた姿勢から正座に変えて、焔條に言った。

 うん、まあ、その方が呼びやすいというのなら。

 焔條は、いきなりファーストネームで呼ばれると思っていなかった。

 なので若干、気恥ずかしく感じる。

「で、ガバメント。教えてくれ、お前が何者なのか。俺は、さっきまでのことを夢物語か何かを見ているようだったから……正直、何も理解できていない」

 拳銃としてのガバメントが宙に浮いて炎に包まれたこと、幻の炎のこと、中から現れた少女としてのガバメントのこと。そして、AKを持っている兵士を十人以上相手にして、一人も殺さず圧倒したこと。

 あの光景が、思い出される。

 焔條の言葉を聞いてガバメントは、言っていいのかどうかわからない、と言った、ためらいがちな表情を見せる。

「マサキ。私という存在は、私が話すことは……まさしく夢物語のようなものです。それでも聞きたいですか?」

「ああ、頼む。どんなファンタジーだろうが、俺は信じるよ」

 焔條は言う。ガバメントは得体が知れないのだから、言うことも全て疑わしい。しかし――それでも、彼女が焔條を二度も命の危機から救ってくれたことは事実。彼女が敵でないのは確かだ。そして、ここで嘘をつく理由もない。なので焔條は、これから話されることを全て受け入れるつもりで心を構えた。

「マサキは、アニミズムという思想をご存知ですか?」

「いや、初耳だ」

「……万物の中には魂や霊が宿っているという考えです。日本では道具に宿るものとして九十九神が挙げられます」

「? 何が言いたいんだ? ガバメント」

 ガバメントの意図がわからず、焔條は先を促すように言う。遠回しに言うのが彼女なりの配慮かもしれない。それでも、焔條は言わずにはいられなかった。

 ガバメントは気にする様子もなく、

「私がまさしくそれと言えます。私は――」

 黙って、自分の胸に手を当てた。


「――ガバメントの九十九神なのです」


「…………」

「この部屋のどこにも、拳銃としてのガバメントが見つかりませんよね? それは、私がその拳銃だからです。あなたが愛用したガバメントが、私だからです」

「――ッ!?」

 焔條はその事実に息をのむ。この、目の前にいる少女が、少し前まで拳銃として焔條が握っていた。その事実に、驚かざるを得ない。いや――驚き以外の反応を取ることができないのだ。

「ですから、私は本来現世に具現化した時、初めに言う言葉があったのです」

「な、何だよ、今更」

「今までご愛用いただき、ありがとうございます」

 ガバメントは正座したまま、両手を揃えて畳に置き、深々と頭を下げた。

 元拳銃にお礼を言われる。

 何だか、背中がむず(がゆ)くなってくる言葉だ。

 ガバメントは頭を上げて、(しん)()な眼差しを焔條に向ける。

 焔條は、どう言葉を返していいか困惑する。

「私は一世紀以上、あなたの祖父から代々扱われてきました。こうしてマサキと人の姿で対話できるのを、私は嬉しく思います」

 そんなに古くから。いや……確かに、あの拳銃は父親から譲り受けたものだ。古いとは思っていたけど、一世紀以上なんて。

 百年以上、動作に異常はなかった。焔條はその耐久性に驚いて、感心した。

 九十九神と言った。物に宿る神と。

「そんなことが現実に起きるなんて……。じゃあ、どうしてガバメントは、今日この日に現れたんだ? あまりにも偶然にしては出来過ぎている」

 ガバメントは少しだけ考えるように沈黙し、「そうですね」と、すぐに話を始める。

「これまで積み重ねてきた年月もあります。ですが、経年だけが九十九神の発現条件ではありません。多くの場合、人間の感情……主に道具に対する愛情や感謝の気持ちが注がれ続けて、道具を大切に扱った恩返しのために、九十九神が現世に具現化します。しかし、その逆――憎悪や(えん)()の気持ちが注がれ続けて、道具を粗末に扱った仕返しのために、九十九神が現世に具現化することもあります」

 道具に対する愛情や感謝の気持ち――道具を大切に扱った恩返しのために。

 道具に対する憎悪や怨嗟の気持ち――道具を粗末に扱った仕返しのために。

 それが、九十九神が()く条件。

「そう、なのか。じゃあ、俺の場合……」

「ええ。あなたの感情は正です。しかし、それでも発現するのには直接的な契機――きっかけのようなものがありました」

「あの……俺が、フレアにM60を向けられた瞬間か?」

 焔條が少しの逡巡の後に答えた言葉に、ガバメントは「はい」と即答した。

「あなたはあの瞬間『死にたくない』、『生きたい』と強く願いました。あの強い感情が、私を現世に引き寄せたのです」

 焔條には心当たりがあり「あの時か」と小さくつぶやいた。

「他にも――」ガバメントは言う。「あなたは『やり残したことがある』、『やってすらいないことがある』とも思っていました。それは、何ですか?」

「人の一瞬の思考を聞くのはいいけど、どうして教えなきゃいけない?」

「九十九神の発現にはそれ相応の想いが必要です。生半可な感情では、現世に具現化などできません。なので、私はマサキの願いに応えて恩返しがしたいのです」

「……そうか」

 焔條は思考する。恐らくガバメントの言っていることは本当だ。間違いないと言ってもいい。そして、ガバメントには――

 焔條の願いを叶えることができる力を持っている。

 言葉なんていらない。あの銃撃戦を見ただけで、わかる。理解せざるを得ないほどの、圧倒的な実力。

 別次元の、異次元の力だと――雄弁に物語っていた。

 ガバメントとなら、叶えられるかもしれない。

 焔條は、自分の中で眠っていた感情が目覚めようとしているのを感じていた。

 焔條はガバメントに言う。

「俺は、戦いで奪われる命を無くしたい。争いで失われる命を無くしたい。戦争も紛争も無い世界、敵も味方も無い世界……そんな、理想を抱いていた」

 ガバメントは凛とした表情を崩さず、焔條をじっと見つめていた。

「素晴らしいです。気高き理想だと思います」

「一度は捨てたよ。大切だと思ってた人ですら、守れなかった。救えたはずの命を、失わずに済んだ命を……亡くした」

 焔條は物思いに(ふけ)るように俯いて、自分の手の平を虚ろな目で眺める。

「そこで理想は捨てたと思ったんだが――」焔條は顔を上げて、ガバメントを見る。「俺は諦めがついてなかったのかもしれない。心のどこかでその理想がまだあったからこそ……お前が現れたんだろうな」

「……マサキ。あなたが望むのであれば、あなたが理想を叶えたいというのなら、私は、あなたの銃となって支えていく所存です」

「俺……銃の扱いは荒いぞ」

 焔條は、ガバメントの真摯な言葉に素直な返事ができず、ぶっきらぼうに言う。

 ガバメントはその言葉を咀嚼(そしゃく)しているのか、一瞬、間を開ける。

 と――普段の大人びた固い表情を綻ばして、年相応の笑顔を見せた。

 焔條はその笑顔を見て、一気に体温が高くなるのを感じた。


「構いません。私は、頑丈なのが取り柄ですから」



 夜が開け、朝日が昇り、空全体が明るくなった頃。

 焔條政貴はふと目が覚めた。二度寝をしようかと思ったが、昨夜のことがあったので、頭を整理するためにも起きることにした。普段着に着替えをすまして、携帯電話で時間を確認する――時刻は午前十時を過ぎたところだった。

 学校のある平日ならいざ知れず、ゴールデンウィーク初日の朝なら上出来な方だろう。焔條は、昨夜のことがなかったら確実に昼まで寝ていた。

 今年のゴールデンウィークは、十三連休。

 焔條は、学校側の厚意に、この時ばかりは感謝していた。

 ガバメントという存在を受け入れるのに、時間を要するからだ。もしガバメントの出現が平日だったら、とてもじゃないが学校に行けれないだろう。

 とりわけ、心の準備ができない。

「どうしました? マサキ。難しそうな顔をして。何か悩みでも?」

 顔に出していないつもりだったが、どうしてあざとく見つけるんだろうか。

 焔條はガバメントの観察力に疑問に感じる。ガバメントの言ったことは的を射ていたからだ。焔條は正直に言う。

「ああ、そうだ。ガバメントが九十九神ってのはいい。しかし、現実的に考えてみよう。人の形をしているけど、食事や睡眠ってのは必要なのか?」

「私は銃なので、生命活動の維持に必要なものはないです。しかし、銃なので銃弾が必要ですね」

「それって……リロード? そういう意味合いで?」

 言っていることはわかるが、人間の姿で言われると理解しにくい。

 焔條はわからないなりに答えを出してから訊く。

「そうですね。たまに食べたくなります」

「食べるって、銃弾を?」

 焔條は口と手を動かして、食べるジェスチャーをしながら訊く。

「そうです。私はガバメントですから、できれば45ACPがいいですね」

 銃弾の種類まで指定するガバメントだった。

「銃弾を食べないと、弾切れを起こすのか?」

「ええ。私の魂には九十九極(ごく)発の銃弾が内包されていますが、無限ではないのでいつかは弾切れを起こします。ですので、銃弾を食べることでそれを補充するのです」

「えっ? ちょっと待って。九十九極発って何? 聞いたことない単位なんだけど」

「十の四十八乗が一極です――一京×一京×一京って言った方がわかりやすいですか? その一極が九十九個集まったのが九十九極ですよ」

「わからねえ! 単位が大き過ぎて想像もつかねえよ! 何だその天文学的数字は!」

 そうですか、と何故か残念そうな顔をされる。ガバメントにそんな顔をされる覚えはないはずなのに。百人に訊こうが百人ともわからないと言う。焔條は絶対の自信を持って、そう確信している。

「これならどうですか?」

 何か思いついたのか、人差し指を上げてガバメントが言う。

「バルカン砲ってありますよね? 連射速度にバラツキはありますが、仮に毎分六千二百五十発で固定するとします」

「うん。確かにバルカン砲の連射速度は驚異的だ。毎分六千二百五十発撃つことができるとしよう。で?」

 実際にインターネットの動画とかでバルカン砲は見ている。焔條は、頭の中でそのすさまじい映像を流すことで、ガバメントの例えをわかろうとしている。

「一時間撃ち続ければ三十七万五千発。二十四時間撃ち続ければ九百万発になります」

「お、おっふ。計算機がいるな。でも、今はガバメントの暗算能力を信じよう。で?」

 掛け算となると、二桁同士でも一の位が零以外だと面倒臭くなる。焔條は、最初から計算を諦めていた。

「十一日で九千九百万……千百日で九十九億発……」

「ちょっと待て! もう頭がパンクしそうだ! 頭の中を零で埋める気か! 極って単位はどこにあるんだ!」

 焔條はとうとう発狂した。

「落ち着いてください、マサキ。気をしっかり持って。いいですか? 最初から数えますよ? 一、十、百……」

 ガバメントは焔條をなだめながら桁を上げていく。

「兆、京、(がい)(じょ)(じょう)(こう)(かん)(せい)(さい)、極、です」

「わかった。とりあえず、バルカン砲を宇宙が始まった時から撃ち続けていても、一向に弾切れする気配が無いってことは」

 もう無限でいいや、と焔條は考えるのを止めた。

「言ってしまえばそうなんですけどね。ただ、九十九極発というのは、私のエネルギーの総量を銃弾の数に例えただけだと思ってください。現世に具現化するのにも、常に膨大なエネルギーが消費されます。ですから――銃弾を食べておいて損はないのです」

「へえ……そうか。じゃあ、銃弾一発食べると、お前の中では何発分のエネルギーになるんだ?」

「そうですね……物にもよりますが、45ACPで千発分になります」

「驚くべき燃費の良さ!?」

「基本食べなくていいので、気にしなくていいですよ。マサキの気が向いたらでいいので……その時に食べさせてください」

 気を遣うように笑みを浮かべるガバメント。

「い、いや、そう言ってもな……ちょっと待っててくれ」

 焔條は一度居間から出る。しばらくして戻ってくると、その手には数発の銃弾が握られていた。それをガバメントに差し出す。

「俺の部屋に45ACPがあった。信じないってわけじゃないけど、俺はこの目で見ないことには納得いかない性質なんだ」

「なるほど……では、ありがたくいただきます」

 ガバメントは焔條から銃弾を受け取ると、指先でつまんで一口かじった。弾丸部分がなくなって、指でつまんでいる薬莢(やっきょう)の一部だけが残った。それから、残りを口に入れる。

 ぼりぼりと、銃弾を咀嚼する音が聞こえる。焔條ははっきりと見ていた。手品でも何でもない。まるでかりんとうを食べるかのように、銃弾を食べている。

 こくん、と銃弾を飲み込み、ガバメントは満足げに次の銃弾も同じように食べる。

 全ての銃弾を食べた後に「ごちそうさまでした」と言ってガバメントは手を合わせた。

「ありがとう、マサキ。またいつか、食べさせてください」

「あ、ああ……そうだな」

 お菓子を食べた後の少女のように笑みを浮かべるガバメント。その屈託のない笑顔に、焔條は他の言葉が出なかった。

 何か言おうとした、その時――携帯電話の着信音がけたたましく鳴り響いた。

 メールではない、電話だ。

 すぐに携帯電話を開いて、通話ボタンを押す。

「もしもし……はい……はい……わかりました。すぐに向かいます……はい。いつも通りの場所で……はい、わかりました……はい、失礼します」

 すぐに通話は終わり、焔條は携帯電話を閉じる。

「何の電話ですか? マサキ」

「ん? バイトだよ。やっぱり、ゴールデンウィークだからな。そうだ……よかったら、ガバメントも一緒に来てくれ。手伝ってほしいんだ」

「わ、私がですか?」

 ガバメントは焔條の唐突な提案に戸惑っている。

「まあ、行ってみるとわかるよ。あ、でも、お前のその格好だとな……」

 焔條はガバメントの全身を見る。緋色のドレスに、その上から漆黒の甲冑姿。橙に輝く髪と目。類まれなる美貌。

 街中を歩くのに適していないのは明らかだ。

 しかしガバメントは「ああ、それなら大丈夫です」と焔條の懸念を吹き飛ばすかのように言う。

「私、任意で姿を消したり現わしたりすることができます。なので、決してマサキの迷惑にはなりません。ご心配なく」

「……色々とすげーな、九十九神って」

「それほどでも。所詮は神の末席です」

 ガバメントの謙遜は、嫌味には聞こえなかった。本当に、粛々とした淑女として性格が完成されていると言っていい。

「よーし。それじゃあ行くか――戦場へ」



 世界は変わった。

 日本では、憲法を改正して陸、海、空の三軍を新たに編成。非核三原則を破棄して、核兵器を製造、保有する。また、日米安全保障条約も破棄して――二〇四九年までに日本は完全独立した。

 世界では、ロシアが解体され、再びソビエトと呼び名を変えた。ヨーロッパではEUが解体され、各国で覇権を争う戦いが絶え間なく起こっている。

 日本、アメリカ、ソ連の三国は互いを牽制し合い、緊張状態が続いた。第三次世界大戦も間もなく始まるのでは――そうささやかれながらも、結局は何事も起こることなく時間だけが過ぎ、世界は薄氷の平和を当たり前のように歩いている。

 そんな世紀末の二〇九九年、ゴールデンウィーク。

 日本の某県某市。

 とある市街地に轟音が響く。

「くそっ! あいつら撃ってきやがった! こんな街中で何考えてんだ!」

 焔條政貴は、路上駐車されている車に隠れて怒鳴る。

 車から上体を(さら)して、片側二車線の道路を挟んだ向こう側にM4をセミオートで撃つ。すぐに向こう側からも銃声が響き、車に着弾する。

「うおおっ! あっぶねー。ちくしょう! 数が多過ぎる」

 敵の銃弾が近くをかすめ、焔條は堪らず車の陰に隠れる。

「大体……何でバイトの出勤途中で襲われるんだ! しかも何で俺ばっかり狙ってんだ、あいつら!」

 焔條が一人で怒り狂っていると「マサキ」と声がかかる。

 いつの間にか、隣にガバメントがいた。

 緋色のドレスに、その上から漆黒の甲冑を身にまとっている。髪は燃えるような橙色でふわりと肩にかかる長さだ。目の色も同様に、オレンジの輝きを有している。欧州の女性風の整った顔立ちは、否が応にも目を惹く。

 西洋の騎士を思わせる格好だが、その姿に似つかわしくない二挺の拳銃を、ガバメントは両手に携えている――自身の名と同じ拳銃を。

「敵は十人います。私が右端から片付けていくので、あなたはここで待機を」

 焔條が何かを言う前に、ガバメントは消えていた。車の陰から様子を見ると、既にガバメントは道路の向こう側――敵の陣地にいた。

「な、何だこのおんなわぁあ!」

「は、速い! う、うわああ!」

「撃つな! 同士撃ちになる!」

 疾風怒濤(しっぷうどとう)と言うべき速さで、ガバメントは敵を倒している。近接戦に持ち込んで、銃を奪い、一撃で気絶させている。

 しかし、敵同士の距離には開きがある。残りの敵が銃撃を始めたら、こんな狭い歩道だ――ガバメントが危ない。

「悪いな、ガバメント。俺は待つなって言われて待てるほど賢くないんでね」

 敵の全員がガバメントの動きに目を奪われている。焔條はその隙に素早く道路を渡り、左端の男をM4のストックで殴った。男はきりもみしながら地面に倒れる。

 右隣のやつが焔條の存在に気付いたが、その時には振り抜かれたM4のストックの餌食になっていた。

「くそっ! 死ね!」

 三人目の男が焔條にAKの銃口を向ける。だが――焔條は銃口を向けられる前に、男の足にスライディングをぶちかまして倒した。すぐに起き上がり、拳を男の顔面に叩きつけて気絶させる。

「調子に乗ってんじゃねえぞ! ガキが!」

 四人目は、既に銃口が焔條の眉間に向いていた。

 やばい。やっぱ、無理があったか、くそ!

 引き金が引かれる瞬間――男が小さく呻いたと思ったら、膝が崩れて倒れ込んだ。

「マサキ……私があと少しでも遅かったら、死んでいたのですよ?」

 男の後ろに立っていたのは、ガバメントだった。ガバメントの後ろには、ぐったりと寝転がっている六人の姿が見える。

 やはりというか、何となく機嫌が悪い。

 しかし焔條は、悪びれる様子もなく言う。

「だが生きている」

「生きていればいいという問題ではありません! 万一に死んだらどうするのですか? もう少しご自愛ください。今は、あなただけの命ではないのですよ」

「どういうことだ?」

「私はあなたの銃の九十九神。銃は持ち主がいてこそ真価を発揮します。つまり、持ち主であるあなたが死ねば、同時に私も消滅します」

「えっ!?」

 焔條は驚く。

 急に言われても、理解できるわけがない。

「今や私とマサキは一蓮托生です。ですので、あまり軽率な行動はしないでください」

 自分の死には何も意味がないと思っていた。しかし焔條は――ここに来て、自分の死にガバメントが関わってくることの重みを感じた。

 自分が死ねば、ガバメントも死ぬ。

「嘘だろ……いや、洒落にならないぞ、ガバメント」

 ガバメントは答えない。ただ、真っ直ぐに焔條の目を見つめるだけだった。

 一歩、焔條は下がってしまう。その時――

「死ねぇええええ!」

 焔條がとっさに振り向くと、気絶させたはずの男が立っていて、AKを向けて撃とうとしていた。ガバメントのことで頭が一杯になっていた焔條は、すぐに動けない。

 ガバメントもまた、動き出しが遅くて間に合いそうもない。

 男の指が引き金を引く。


 その前に、男のAKがぶっ飛んだ。


「うわぁあああ!?」

 男が怯んでいる隙に、ガバメントが男に回し蹴りを入れて気絶させた。

「スナイパー! だけど一体誰が? マサキ! 隠れて――」

「いや……その必要はない、ガバメント」

 焔條は、AKが右にぶっ飛んだことから、左側から狙撃があったことを瞬時に理解する――誰が撃ったのかも。

 焔條は、狙撃手がいるであろう方向を見て、親指を立てる。

「どうやら、お仲間の到着のようだ」

 焔條は大きく息を吐いて、緊張を解いた。



「遅かったじゃねえか。もう少しで死ぬところだったぞ……清華(さやか)

「ご、ごめん、政貴君。今日は寝坊しちゃって。それに、道に迷っちゃったの。あと――狙撃地点に向かう時、階段で転んじゃって。それよりも、大丈夫?」

「いや、お前の方が大丈夫か……」

 焔條のもとに駆けつけて言葉を交わしたのは、一人の少女だった。

 腰にまで届く艶やかな黒いストレートヘアが特徴的で、前髪は目が隠れそうなくらいの長さで揃えてある。あどけなさが残っているが、落ち着いた顔立ちをしている。

 長袖のTシャツ、膝丈のプリーツスカート、タイツ――全て黒色で統一されている。

 少女は細長い長方形のバッグを担いでいた。焔條は、そのバッグに少女の得物――狙撃銃であるM24が仕舞われているのを知っている。

「まあ、でも――相変わらず狙撃の腕はすごいよな、清華は」

「そ、そんな、大したことじゃないよ。でも……ありがとう、政貴君」

 焔條は、先ほどAKを撃ち落とした狙撃のことを褒める。清華と呼ばれている少女は、照れているのか、俯きながらも焔條の讃辞に礼を言う。

「あ、そ、それで……政貴君。ここに来てから思ってたんだけど……」

 言いにくいのか、清華は視線だけ焔條の後ろに向けて訴える。焔條はそこでようやく気付いたのか「あっ、そうだった」と言う。振り向いてガバメントを見ると、ガバメントも清華と同じような反応をしている。

「清華、紹介するよ……えっと、ガバメントって言うんだ。詳しいことは、後から話す。俺の味方だ。んで、ガバメント。紹介するよ。俺の幼馴染、天凪(あまなぎ)清華だ。さっき見たとおり――スナイパーだ。仲良くしてくれ」

 清華とガバメントにお互いのことを紹介した焔條。ガバメントは「わかりました」と、すぐに清華に近付いていく。

「マサキの友人とあれば是非もない。よろしく、サカヤ」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします、ガバメントさん」

 堂々としているガバメントに対して、清華は小動物のようにおどおどしている。

「まあ、色々と変なやつだけど、狙撃の腕は一流だ」

 気を悪くするかもしれないガバメントに、一応釈明しておく焔條。

 焔條が知る天凪清華は、人見知りが激しくて、引っ込み思案。不器用だけど一つのことに集中すればすごい力を発揮する。戦場においては狙撃手として焔條達の安全を遠くから確保してくれる、心強い味方。

 焔條が守ってやりたいと思う大切な存在だ。

「そうだ、清華。団長は?」

「ん……もうすぐ来るはずだけど」

 焔條は辺りを見渡す。焔條達を襲った十人は、他の増援によって拘束されており、何人かによって警戒態勢が敷かれている。

「これって時間外労働になるよな? あと、この手柄は俺になるよな?」

「だといいね。団長との交渉次第じゃない?」

 清華は優しく微笑んで応える。

 焔條は落胆したように息を長くはいた。

「ちょっといいですか? マサキ。もしかして、マサキの言っていたバイトとは……」

 ガバメントは、二人の会話についてこれないのか、割り込んで訊く。何も聞かされずに来たのだから無理もない。

「ああ……一言で言えば自警団のようなものだ」

「自警団?」

「センスが無い名前だけど《平和製作団》って言うんだ。みんなはカンパニーオブピースメーカーの頭文字からCPMって呼んでるけどな」

「CPM……それが、マサキのバイト先なのですか?」

「そうだ。治安維持――特に武装による凶悪犯罪のな。犯罪者は最悪殺害してもいいけど……生け捕りにすれば上々ってことだ。ちなみに、清華も入っている」

「そうなのですか? サヤカ。確かに、狙撃の腕は素晴らしいのでそれも頷けます。礼が遅くなってすまない。マサキを助けてくれてありがとう」

「い、いいですよ。そんな……当然のことをしたまでです」

 両手を胸の前で振る清華。ガバメントに言われて頬が紅潮している。

「なあ、ガバメント。この仕事はお前に向いているだろ?」

「確かに、私に向いていますね。そして、マサキはここで理想を叶えるために……」

「そんな高尚なものでもないさ。俺に向いていて、高額なバイト代が入るから続けているってだけだ」

 ガバメントの言っていることは的を射ている。ただ、どことなく気恥ずかしさがあって素直に認められないだけだ。

 焔條は深く追及されまいと、

「それに――俺がいなきゃ、清華がいつ死ぬかと心配なんだよ」

 清華の頭をぽんぽんと叩きながら言う。

「ひ、酷いよ、政貴君。政貴君の方こそ、わたしが何回助けてあげたか」

「うっ、それを言われると……」

 焔條は何も言い返せない。焔條は先ほどの戦闘のように無茶なことを繰り返している。それを今まで助けたのは、天凪清華なのだ。

 その様子を見て、ガバメントは笑みを浮かべる。

「是非、私もCPMでマサキの力になりたいです。しかし、いいのですか? そんな急に言って……」


「ウチは能力主義だからな。いつでもいいぞ」


 後ろからの声に気付いて、ガバメントは振り返る。

 そこには――一九〇センチは優に超えている白人の大男が立っていた。

 迷彩服の上からでも筋骨隆々なのがわかる。刈り上げたブロンドの髪に碧眼。岩のようないかつい顔。大男は、近くにいるだけで圧倒される雰囲気を持っている。

「街の監視カメラを見ていたんだが……どういうことだ? 奇抜な格好をしているのに、あの軽やかな身のこなし――現役のシールズやスペツナズでも、あんな動きは不可能だ。是非ともウチに来てほしいね」

 大男は、力強い声でガバメントを褒めている。その勢いにたじろいで黙って聞いているガバメントは、大男がしゃべり終わるのを待ってから言う。

「賛辞はありがたく受け取りますが……あなたは?」

「ん? ああ、これは失礼。俺はジャック・ガーランドだ。よろしく」

 ジャックと名乗る大男は大きな手をガバメントに向けて差し出す。ジャックを不審がるガバメントに、焔條は近付いて耳打ちをする。

「ガバメント。さっきの話にも出ただろ? この人がCPMの団長だ」

「なるほど。この人が……」

 ガバメントは頷いてから、焔條に向けていた視線をジャックに戻す。

「私の名はガバメント。こちらこそよろしく」

 ガバメントは差し出された手を取り、ジャックと握手をした。

「ガバメント……か。いい名前だ。銃みたいな名前だがな」

 がっはっは、と豪快に笑うジャック。

 銃みたいな、というより銃そのものなんだけどな。

 焔條は逆にガバメントを平然と受け入れているみんなを不思議に思う。深く追及されるよりはいいが。

「そうだ、団長。俺、いきなり襲われたんですよ。だけど全員捕まえた。これは特別給があってもいいと思うのですが……」

「ん、何だ焔條じゃねえか。で、遅刻したやつのいうことか?」

「いや、襲われてたって言ってるじゃないですか。それに、さっき能力主義って言ってましたよね? 十人も撃退しましたよ」

「それはお前、ガバメントがほとんどやったことだろう。それにお前、殺されかけたし。しかも二度も」

「三人は片付けましたし……殺されかけたと言っても、生きてます。ガバメントの助けが入るのも清華の助けが入ることも、計算の内ですよ」

 焔條は食い下がるが、ジャックの言う通りガバメントの手柄が大きいし、焔條が足手まといだった感は否めない。どうしても焔條の言葉は言い訳に聞こえてしまう。

「嘘はよくないな、焔條。だが……ふん。その悪運の強さもまた、お前の強さなのかもな――確かに、お前らが倒した十人は、意外と大物だ。その点は評価する」

 ジャックは焔條の背中を叩いて、よくやった、と言う。

「いてて……えっ? 大物ってどういうことですか?」

「うむ、その点は後で話す。一旦ホームに戻ろう」

 ジャックはそれだけ言うと、踵を返して歩き出した。

「な、何だか気になるね、政貴君。どういうことなんだろう」

 ジャックの言葉が気になるのか、清華は不安そうに言う。

「そうですね。私も気になります」

 ガバメントは頷くと、焔條がさっきしたのと同じように耳元でささやく。

「あと……気付いていますか? マサキ。あの兵士達のこと」

「ついさっきな。ただ、まだ確証はない」

 そうですね、とガバメントは焔條から離れる。

「どちらにしろ――今はジャックの言う通りにするしかなさそうですね。行きましょう、マサキ」

「ああ、そうだな」

 ここで考えていてもしょうがない。

 それに、焔條は、どうしても今回の件は偶然ではないような気がしてならないと、そう考えているのだ。

 ガバメントは早くから気付いてようだが、焔條は襲撃されて応戦している時は気付かなかった。焔條を襲った十人は――装備や格好が昨夜のやつらに似ていたのだ。

 フレアの逃走を手助けした、AKを持ったやつら似ていた。

 団長にそのことを訊かなければならない。知っていれば何か手掛かりになるはずだし、知らなくても、何かが起き始めていることは確かだから、警戒することはできる。

 焔條は胸騒ぎを感じていた。自分の知らないところで何かが動き始めている、と。ただ不安をかき消すように、焔條は歩みを進めるしかなかった。



 襲撃現場から徒歩で数分もかからない場所に、倉庫のような建物がある。

 そこが、CPMのアジトだ。一階は入り口がロビーになっていて、そこからトレーニングルーム、射撃場、武器や装備類全般を扱う工房――それぞれと繋がっている。

 二階にはレストルームやレジャー施設がある。残りのスペースに大小数ある空き部屋が点在していて、そこは主に会議室として使われている。

 その一つ――第一会議室に、焔條達を含め多くの団員達が集まっていた。学校の教室のように規則正しく並べられた席は、全て埋まっている。

 時刻は午後一時を回っていた。それは、謎の集団による襲撃があったために誰も昼食を摂っていなかったからだ。なので、焔條含め全員が昼食を済ませてから会議を行うことになったため、この時間になっている。

「それでは……会議を始めるとしよう」

 最初に、CPMの団長であるジャックがみんなに向けて言った。

「諸君も知っての通り、ここ最近武装した者による犯罪行為が増加している。被害状況ややり口から、組織的犯行だと睨んでいた。しかし、やつらはフットワークが速く、我が団でも未だに一人として捕まえられなかった」

 ジャックは教壇を軽く叩いた後、最前列の席――焔條とガバメントの座っている席を指さした。焔條は思わずかしこまる。

「しかし今日――その組織の尻尾とも言えるやつら十人を見事逮捕してくれた。まずは、焔條。そして、飛び入りで我が団に入団してくれた――ガバメントだ。みんな仲良くしてやれよ。素性は詳しく聞いてないが、まあ、焔條のコレだろうがな」

 ジャックは冗談めかしく言って小指を立てた。途端に会議室内から口笛や声で「ヒューヒュー」と聞こえてくる。

「馬鹿、あのクソ団長……」

「マサキ。コレとは一体何のことですか?」

 頭を抱えてジャックに聞こえない程度に罵る焔條だが、ガバメントがジャックと同じように小指を立てて訊いてきた。本当に何のことかわからない様子だ。

「団長のただの冗談だ。無視しろ」

「いえ、冗談であることは態度からしてわかるのですが……コレの意味することがわからないのです」

「やめろ。今ここで訊くな。二人きりになった時に教えてやるから」

 そうですか――わかりました、とガバメントは頷いて、視線をジャックに向ける。

「ジャック。私のことは後からでもいいので、今は話を進めてはいかがかな?」

 ガバメントの言葉に、会議室の喧騒が和らいだ。

 その空気を読んで、ジャックは「うむ、そうだな」と頷いた。

「それじゃあ話を戻そう。焔條とガバメントの活躍で十人を捕らえたわけだが……尋問した結果、信じられない事実が判明した――」


「やつらは《自由なる銃弾(バレッツオブリバティ)》の一味だ」


「!?」

 焔條は息をのむことすらできなかった。

 まただ。また過去のことを蒸し返されるなんて。どうしてだ! フレアが言った『大須事件』にしたって……ちくしょう!

 焔條は、静かに怒りを噛み締める。体中は脂汗がにじみ出てきているし、手足が震えている。世界が反転したようで気分が悪い。

「団員の中で知っている者も多々いるだろう」

「…………」

「バレッツオブリバティ……通称BOLは、確かに存在する。いや、存在していただな。あの忌々しき大須事件で壊滅するまではな。だが、捕まえた十人は十人ともそう名乗っている。恐らくBOLの残党がどこかにいて、その誰かがBOLを再建、ここ最近になって表立つ行動を取るようになったんだ。目的は不明だがな」

 ジャックは肩を落として、溜息をついた。

「詳しい情報が訊き出せない分、連中が何を仕出かすかわからない。各自警戒を怠るな。……では、次に話すべきことだが」

 その後も他の案件などで話は続いたが、焔條の耳には入っていない。焔條の頭の中では過去の映像が繰り返し流されている。

 忘れたくとも忘れられない、脳裏に深く刻まれた記憶(キズ)が。

「政貴君、その……大丈夫?」

 そっと手を重ねて、清華は焔條に言う。

「……清華」

 焔條は清華の手から、温もりと共に自分を気遣う優しさを感じた。それはとても温かくて、心が安らいでいく。

「もう、大丈夫だ……ありがとう」

 清華はうっすらと笑みを浮かべてから、何も言わずに重ねていた手を離した。

「――以上で会議を終了する。質問は? ……無いか。ならば解散だ!」

 ジャックの言葉を受けて、各々散らばっていく。焔條は立ち去ろうとするジャックの後ろ姿を捉えて「団長」と声をかける。

「ん? 何だ、焔條か。どうしたんだ?」

「ちょっと一旦、この部屋を出ましょう」

 焔條はジャックを連れて会議室を抜け、通路に出る。会議室では誰が聞き耳を立てているかわからないからだ。通路でも同じようなものだが、そこは焔條の気分だ。

「……団長。フレアという名前に心当たりはありませんか?」

 単刀直入に、焔條は昨日の襲撃者の名前を訊く。

「フレア……いや、初めて聞く名だ。そいつがどうかしたのか?」

「いえ。知らないのならいいんです――大したことでもないんで」

 気になっている様子のジャックだが、焔條は早めに話を切り上げてその場を去った。

 しばらく歩いていると、

「どうして昨日のことを全て話さなかったのですか? マサキ」

 いつの間にか焔條の隣にいるガバメントが訊いてくる。ガバメントには話を聞かれても構わないと思っていた焔條は、足を止めずに言う。

「……今日俺を襲ったやつらがBOLなら、昨日のやつらやフレアも――BOLだ。大須事件を知ってて、なおかつ俺のことを知っているんなら、十中八九そうだと言える。俺が恨みを買う相手って言ったら、BOLくらいしかいない。もっとも、全員死んだと思っていたから……どうなってんのか、まだ頭の中で整理できていないんだ。だから、不確かな情報でCPMを混乱させたくない。できれば――この件は俺達だけで解決させたいんだ」

「……そういうことですか」

 納得いったのか、ガバメントは話を先に進める。

「では、これからマサキと私だけで……フレアを含め、BOLと対峙するということで、いいんですね?」

「ああ。いつの間にか騒動が解決しているってのが理想的だ」

「ただ、それだと情報が少ないのでは?」

「まあな。だからやはり、情報屋が必要だ。そして俺には当てがある。ただ――」

 焔條とガバメントは階段を下りて、一階の広間に着く。

「ただ?」

 言葉を渋っている様子の焔條に、ガバメントは言葉尻をなぞることで続きを促す。

 なかなか続きを言わない焔條。と――

「うおおお!? 見たこともない絶世の美少女が僕の目の前に!」

 いきなり、焔條とガバメントの前に雄叫びを上げる少年が現れた。焔條は、遅かったと言わんばかりに溜息をつく。

 ぼさぼさの茶髪で、真四角の眼鏡をかけている作務衣(さむえ)姿の少年は、焔條に喰ってかかる勢いで距離を詰めた。

「マサ! この美少女は誰? 誰? 誰? お前の知り合い? お前の知り合い? お前の知り合いだったら僕はお前との友情を考え直すぞ!」

 焔條は面倒臭いと思ったのか、手で少年の口を塞ぐことで黙らせた。

「マサキ。この人は……」

「ああ、悪い。紹介が遅れた。こいつは高校から知り合った友人で、鍛冶原(かじわら)(たくみ)だ」

「んむ~! んんん~!」

「こいつはCPMの銃工(ガンスミス)でな。銃のメンテナンスやって、仕入れもやって、改造もやって……しまいには発明家や情報屋もやってんだ」

「そんなすごい人なんですか」

「そうなんだけどな。銃工としての知識と技術は全て一流なんだけど、才能が偏り過ぎたのか、性格が破綻してるんだ」

 焔條はガバメントに説明してから、鍛冶原の拘束を解いてやる。鍛冶原は一歩下がってから、口の周りを手で揉みほぐした。

「酷いじゃないかマサ。こんな美少女の前で僕の醜態(しゅうたい)を晒さすなんて。それに失礼だぞ、僕のことを性格破綻者だなんて。あと、その美少女の名前を教えてくれよ」

 しつこく迫る鍛冶原に、焔條はガバメントに「教えてやれ」と目で合図を送る。

 ガバメントは「いいのですか?」と言いたげだったが、焔條は構わずに何度も頷いた。

 渋々ではあるが、ガバメントは鍛冶原を見る。

「……では、はじめまして、タクミ。私の名はガバメント。マサキの銃だ」

「ガバメントちゃんって言うんだ。いい名前だね~、銃みたいで。ん? 最後……銃って言った? 焔條の銃?」

 ガバメントの言葉に違和感を覚えたのか、鍛冶原は笑みを浮かべたまま固まる。

「あ~、カジ。ちょっと、耳貸せ。実は……かくかくしかじか……」

 そうなることは想定済みなのか、焔條は鍛冶原に耳打ちする。ガバメントが焔條の銃の九十九神であることを、わかりやすく、かいつまんで説明する。

「――ということだ。わかったか? 誰にも言うなよ」

「マサ。僕は口の堅さだけは自信がある。お前に抱く殺意を今日は抑えておこう。そんなことよりも今は――」

 鍛冶原は気持ち悪いくらいの笑顔をガバメントに向けた。

「――ガバメントたん萌え~!! 萌え萌えぼらっ!」

 鍛冶原は両手を広げてガバメントに突っ込んだところ――ガバメントが放った弧を描くような美しいハイキックによって、地面に叩き伏せられた。

 生存が危ぶまれるくらいに、首がおかしな方向に曲がっている。目、鼻、耳、口と――頭の穴という穴から出血していて、全身に電流が走ったかのような痙攣(けいれん)を見せている。

「ハッ! あまりの悪寒に考える間もなく足が動いてしまった! 私は何てことを。マサキの友人だというのに……すみません!」

「いや、それは正しい反応だ。お前が気に病むことはない。いいか、ガバメント。それが――『気持ち悪い』って感情だ」

「そ、そうですか。わかりました。ですが、私は加減せずにタクミを蹴ってしまいました……無事ではないはずです」

「大丈夫だよ、ガバメントちゃん」

 と、さっきまで体を痙攣させて死の淵に立っていたはずの鍛冶原が、平然とした口調で答え、体を起こして床に座っていた。

「僕は銃を愛している。故に銃からの攻撃で死ぬことはない。僕が受けるのは傷ではなく愛だよ」

「なっ、ガバメント。イカれてるだろ?」

 焔條は肩を(すく)めて言う。ガバメントは困惑した表情を見せるだけだった。

 手を貸して鍛冶原を立たせた焔條は、鍛冶原に改まって言う。。

「それより、カジ。ちょっと話があるんだが」

「どうした、マサ。僕はガバメントちゃんをじっくり観察(オーバーホール)したいんけど」

「そうか。だったらお前の言う通り――銃で頭を吹き飛ばしてもお前が生きていられるか実験してみるか」

 焔條は、拳銃を鍛冶原の額に押し付けて言った。

「おいおい、熱くなるなよ。冗談に決まってるじゃんか。それより話があるんだろ? ならここじゃあ、駄目だ。僕の工房に行こう」

 両手を振って焔條をなだめようとする鍛冶原。

「それに、焔條。その拳銃……ベレッタM92F。メンテナンスしてる? ちょっと危ないかもだから、ついでに見ておくよ」

 焔條が鍛冶原の言葉に気を取られていると、いつの間にか、焔條のベレッタが鍛冶原の手の中にあった。

「……ああ。よろしく頼む」

 鍛冶原は、軽く笑って「任せて」と答える。鍛冶原が常に張り付けている笑みは、相手に何を考えているのかわからなくさせる。

 焔條にとっては気持ち悪いだけなのだが。

 ロビーから複数に別れている通路――その内の一つ、工房に繋がる通路を、焔條とガバメントは鍛冶原の先導で歩いている。

 そう広くない建物なので、工房には数分とかからず着いた。

「ようこそ、鍛冶原銃工(ワークス)へ。なーんてね。散らかっててくつろげないけど、苦痛は広げられるよ。まあ、適当に座って」

 工房の中はあまり広くない。ほとんどのスペースが、乱雑に置かれた銃の部品や工具によって埋め尽くされている。銃に詳しくない人が見ればゴミ屋敷に見える工房には、座る場所どころか立つ場所を探すのも困難だ。

「いや、立ち話で済む話だ。それより、メンテナンスしながら聞けるか?」

「愚問だよ、マサ。何でもいいから話して」

 既に作業に取りかかっている鍛冶原。よどみなくベレッタを分解して、部品を磨いたりオイルを塗布したりしている。

「カジも聞いたと思うけど、最近BOL絡みの事件が多発している。そして今日、BOLの一味を十人逮捕した」

「お前とガバメントちゃんの手柄だろ? すごいすごい。で?」

「あいつらは恐らく、報復に来る。ひょっとしたら、ここへ大挙をなして押し寄せてくるかもしれない。その前に、何とかしたい」

「警察に任せればいいじゃん。それはCPMの範疇(はんちゅう)を超えてると思うぞ?」

「警察は当てにならないし、動きが遅過ぎて後手に回るだけだ。起こり得る被害を未然に防ぐからこそ――CPMじゃないのか?」

「とは言ってもね……マサに何か策でもあるの?」

 鍛冶原は焔條の顔を見ずに言う。会話の最中でも、銃をいじる手の速度が落ちることはなかった。手だけ別の生き物のように動いている。

「策なんてこれっぽっちもない。だから捜索するしかない。カジ……BOLのアジト、もしくは集まりそうな場所の目星をいくつか付けてほしい。明日までにだ」

「いや、そんなこと言っても、最近出てきた組織だぞ?」

「潰れる前はあった組織だ。昔あったアジトでも、それっぽい場所でもいい」

「わかった、やってみる。じゃあ……場所は三つでいいな? でも、期限がシビアだよ。だからタダでとは言えないな」

 鍛冶原の視線が、一瞬だけガバメントの方を向く。

「ガバメントが何十人もの武装した兵士を単騎で蹴散らす……その光景は?」

「想像を絶するね。でも、もう一押し。ベレッタのメンテ代もあるからさ」

 まだ納得のいっていない鍛冶原。他に何かあるか、と思っていた焔條だが、そこで突如――閃いた。焔條は閃いてしまった。鍛冶原が納得して、かつ焔條とガバメントがあまり損をしない提案を。

「じゃあ、これはどうだ。………………………………………………………………」

 焔條は鍛冶原に耳打ちをする。と――

「最高! お釣りが出るほどだ! 商談成立。やっぱ持つべきものは友だな」

 鍛冶原は狂喜して、メンテナンスが完了したベレッタを焔條に差し出す。

 焔條は握手する代わりにベレッタを受け取り、腰のホルスターに仕舞った。

「じゃあ、明日の朝にでもケータイに情報をよろしくな」

「任せておけ、マサ」

 ぐっと親指を立てて、力強く言う鍛冶原。よほど最後の一押しが気に入ったのだろうか――その喜びように、ガバメントは怪しむ。

「マサキ。どんな条件を提示して、タクミの首を縦に振らせたのですか?」

 工房を離れてロビーに戻ったところで、ガバメントは焔條に訊いた。

「えっ……別に、大したことじゃあない。この件が全て終わったら、ラーメンでも奢ってやる的な、それに近いような近くないような提案だ」

「…………」

 ガバメントは焔條をじっと見つめている。その強い視線に、焔條は目を通り越して頭の中を(のぞ)き見されるような錯覚を感じた。ガバメントの橙色の目に、焔條は意思を封じられたかのように目を逸らすことができなかった。

「……はあ。それについては、やはりこの件が終わりを迎えてから訊くべきですね。ですがマサキ、その時はどんな提案をタクミにしたのか教えてもらいますからね」

「そうしてくれると助かる。大丈夫だ。心配はいらないから」

「だといいですが……」

 ガバメントは視線を外して、再び歩みを進める。胸を()で下ろした焔條も、ガバメントの横に追い付いて、共に外へ出る。

「それはさておき……マサキ。BOLのアジトの情報を集めるということは、明日、私達だけでアジトに攻め入るつもりですか?」

「そうだ。恐らくジャック団長が今日捕まえた十人を警察に渡して、BOLの存在を報告したと思う。だとしたら、最近連続で起きている武装集団による犯行は、BOLの仕業だと警察は断定する。そうなれば、BOLという組織自体が指名手配される」

 今までは正体不明の集団だったので、現行犯でもない限り逮捕ができなかった。

「なるほど。では、マサキはBOLが何かを仕掛ける前に捕まえると言うのですね」

「簡単に言えばそういうことだ。アジトに突入、無力化、拘束、警察に連絡。この流れが一番理想的だな」

「しかし、そう簡単に行けますか? 第一、タクミがBOLのアジトを特定できるかどうかもわからないじゃないですか」

 ガバメントは疑問を抱き、焔條に苦言を呈す。

「何も特定する必要はない。BOLは、潰れたといえ一度はあった組織だ。かつてのアジトがあれば、そこを中心に探し回ればいい。いくつかある事件現場から範囲を絞ることもできる。まあ、やつらが動き出す前には見つかるだろう」

「そうですか。明日になってみなければわからないということですね」

「ああ。だけど……それよりも心配なのが、お前のことだ。恐らく大勢の敵と戦うことになる。行けるか?」

 焔條は、今までよりも過酷な戦場になることを考え、ガバメントに訊く。

 ガバメントは、

「何を言っているのですか? マサキ。私はあなたの銃ですよ」

 と、有無を言わせない力強い言葉で応えた。

 心配したのが馬鹿馬鹿しいと思えるほどで――焔條の心はスッキリになった。


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