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その後

S/N比……サウンド・ノイズ比。音にどれくらいノイズが含まれているかという値。S/Nなので、値が大きいほど音質は良い。


アタックタイム、ディケイタイム、サスティンレベル、リリースタイム

 ……これらを詳しく解説しようとすると恐ろしい文章量になってしまうので、ざっくりと。それぞれ音の立ち上がり、減衰、減衰後の停滞、余韻。『音色』を決める最も大事な要素の一つ。


sec……秒。1000msec=1sec


Macのプレビュー……音楽用語ではないが、Windowsユーザーには馴染みがないと思うので一応。スペースキーを押すだけで音声ファイルなら音を、動画ファイルなら動画を、文書ファイルなら文書を一時的、簡易的に開くことができる機能。

 事件が生じたのは十二月の上旬。それから小説を書こうと思い立ち、書き始めたのは中旬。書き終わったのは年明け。そして、ひと月してから投稿。

 十二月と一月はたった一か月の時間差だし、季節だって変わらず『冬』だ。なのに、どうしてこれ程にも季節外れな気がしてしまうのだろうか。(まあ、投稿している現在は春なので十分に季節外れなのだが)


 そんなことを思いは忘れ、思いは忘れ、一月下旬。彼の膝にはタオルケットが掛かっていた。そして、本領発揮したモニタースピーカーがロックミュージックをかき鳴らし、彼を芯から温めようとしている。


 今年の冬は暖冬であったが、ずっと暖かいわけではない。この数日前からは雪が見られるほどに冷え込んでいた。


 彼は冬が好きである。正確には、寒さをしのぐために厚着をしたり、暖房に当たったりするのが好きなのだ。

 だが、音楽をスピーカーで聴きたい気分の彼にとって、寒さは恨むべき敵である。電気代の節約と、黴臭ささから逃れるため、頑なにエアコンをつけようとしない彼にとっての暖房はハロゲンヒーターのみ。その暖房も、スピーカーを使っているときには使えない。


 だから、彼の膝にはタオルケットが掛かっている。毛布もあるが、ベッドから引きずってくるのが面倒なので仕方がない。

 その代わり、と言っては何だが、首にはネックウォーマーが装着されていた。口元を隠すことで、呼吸するたびに熱を感じることができる、彼の強烈な味方だ。余談だが、悲しいかな、とにかく似合わないので、家の中でしか装備できない。


 暖かい上着も着ているが、この日の寒さは強い。ロックミュージックの助けがあったとしても寒いものは寒かった。


 ヒーターつけようか……。


 生存欲が湧き出てくる。


 要するに、と彼は考えをまとめる。

 音楽を取るか、命を取るか。


 命だな。


「S/N比が減るけど、仕方ない」


 以前、もしかするとハロゲンヒーターはノイズを発生させるだけでなく、スピーカーの質をも蝕むのでは、と仮説を立てていたのだが、無視することにした。


 ヒーターをつける。『弱』と『強』の二段階にレベルを調整できるが、この時は『強』になっていた。普段は『弱』にしているのだが、昨晩もかなり寒かった。

 音がそれなりの音量で鳴っているせいか、ノイズは聞こえなかった。そして防音対策にカーテンを閉めに行く。


 カーテンに手をかけたとき、曲が止まった。ノイズを断ち切るため、ではないが、カーテンを引っ張って音を鳴らす。シュッ、と動いてはくれず、途中でひっかかった。


 アタックタイムは短め、でもゼロではない。サスティンレベルはゼロでディケイタイムは数百ミリsecくらいで、リリースタイムはもっと短い。


 そんな分析をしてしまう性に、苦笑する。


 ノイズが聞こえなかった。あれ? と思うが、それは多少距離が離れているからだろうか。


 だが、ほんの二、三メートルだ。あのはっきりした音がそんな些細な距離で減衰するとも思えない。


 でも、聞こえないものは聞こえない。近づいてみる。


 音楽はMacのプレビューで聞いていた。iTunesなどではないので、連続再生はされない。要するに、今は何の音楽も鳴っていない。


 なのに、部屋には沈黙があった。


「……は? なんで?」


 耳障りな音が聞こえない。決して聞こえてほしくはないのだが、犯人が駆動する限り、聞こえないはずがないのだから、気分が悪い。


 この時の彼は不思議と冷静だったので、いつもとの違いを考えていた。そして、すぐに結論に至る。


『弱』か『強』か。


 普段使用している『弱』で十分なノイズが走るのだから、『強』だともっと大きなノイズが走るかも、と今まで思っていたのを思い出す。『強』にすることでノイズが消える、なんて仮説よりも筋が通ってそうでもある。


 疑いつつも、ヒーターを眺める。扇風機型のそいつは、眩しいほどに赤く光っている。

 足の指でボタンを押して『弱』にする。出力が弱くなり、明るさに陰りが出るその姿は、足で雑に踏まれたことに対して、しゅん、と落ち込んでいるような哀愁さえもある。


 そして、ノイズが発生した。


「なぜ?」


 もう一度、ボタンを押す。

 眩しくなる。

 ノイズが消える。


「……なぜ?」


 もう、すっかりお手上げだった。意味が分からない。

 それと同時に、今まで震えながら音を聞いていたのは何だったんだ、と哀れに思う自分もいた。ヒーター出力を強くすることでノイズが消えるだなんて、誰が思うのだろうか。


 ハロゲンヒーターによるノイズ発生についてでさえ、調べてもよく分からなかった。数少ない記述を見た中で出力によって発生したり消滅したりするなんて、もってのほかだ。


 誰か、分かる人がいたら教えてください。m(__)m


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