表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

ユニット……スピーカーの、音を出す部分。

 食事を終え、しばらくヘッドホンで作業をし、風呂に入った。気分的に、電気を消して入浴した。たまに防水スピーカーを持っていくこともあるが、この日は何も聞きたくなかったので持ってきていない。


 お風呂に入っているときって、どうしてこんなに考え事をしたくなるのだろう。とは、何のアニメの誰のセリフだっただろうか。個人差はあるかもしれないが、彼にとってはかなり共感できるセリフだった。普段から考え事ばかりで頭の中が忙しい男ではあるが、湯気に包まれると、何故だろう、時間がゆっくり流れるみたいに、脳内の忙しなさが緩和されるようだった。


 とりあえず、彼はノイズについての考察をまとめていた。


 まず、スピーカーが届いた日にノイズが発生。結線などを変えた結果、パワーディストリビューターや電源ケーブルには問題がなかった。

 次に、コンセント。家を出る直前にふと思い立ち、違うコンセントに繋いでみると、ノイズはなかった。で、元に戻してもノイズは乗らない。まさか、ドアノブを触る前に壁を触って静電気を取り除くような原理がノイズで起こるとも思えないので、コンセント自体にも問題はなさそうだ。それに、先ほどノイズが出てから別のコンセントに差してみたのだが、やはりノイズは出たし、そこから元に戻しても直らなかった。

 そして今晩、帰宅して真っ先に電源をつけると、ノイズはなかった。そのままくつろいでいると、いつの間にかノイズが復活。


「……さっぱり分からん」


 やはり初期不良だろうか。


 そもそも、あのノイズはユニットから発生しているものなのか。ボリュームを上げなくてもノイズが出るということは、別のところからの可能性も考えられる。

また確認してみよう。


 そうこう色々考えているうちにそれなりの時間が経ったようだ。体が火照り、鼓動が聞こえてくる。

 風呂から出て、体を拭い、頭を掻き乱し、下着を履いて眼鏡をかける。部屋をのぞくと、ぼやけた視界がはっきりと輪郭を覚えた。その瞬間、彼は思う。


 散らかった部屋だな。


 テーブルは物置と化している。床には脱ぎ捨てた上着や教科書が散乱している。この間から部屋に居候を始めた段ボールたちも、あぐらをかいてダラダラとくつろいでいた。


 少し前に取り出したヒーターの隣には、いまだに扇風機があった。仕舞うのが面倒だったか、部屋が荒れすぎて仕舞う場所もなかったのか。

 でも、この二人が並んでいる光景は、仲の悪い兄弟が喧嘩の罰で廊下に並んで立たされているみたいで、微笑ましくもあった。


 スピーカーの上にインスタントコーヒーの瓶があった。こんな場所にしか置くところがなかったのか、と悲しくなる。


 また今度掃除しよう、と決心するが、「また今度」がどれだけ先になるのか、このセリフが前に片づけた時から何度目になるかは、お愛想。(ちなみに、約一か月後になりました)


 頭を拭きながら椅子に腰を掛ける。そして、ふと足元に視線を落とした時だった。


「あっ」


 パワーディストリビューターの電源が付けっぱなしだった。ノイズの再来にがっかりしてからは使ってないのに。


 もったいないなあ、と思って電源に手を伸ばす。が、途中で手が止まった。


 もう一回音を出してみようか。


「少し電源を温めたら直るかもしれないし」


 そんなわけないな、と自嘲しながらスピーカーの電源をつけた。そもそも、さっき時間が経過してからノイズが乗ったではないか。


 が。


「あれっ」


 ノイズがない。


「温めたら直っちゃったね」


 笑うしかなかった。

 火照った体を流れる汗の勢いが、少しだけ増した気がする。


「さっぱり分からん……」


 そう狼狽する彼は、知る由もない。

 この数時間後にすべてが解決することになるなんて。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ