表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

 スピーカーのノイズが消えたあの日は帰りが遅かったため、帰宅してから電源をつけることはなかった。夜遅くにあれほど低域の出るスピーカーを出力するにはそれなりの勇気が必要となり、彼にはそんなもの微塵もなかったのだ。


 次に電源をつけたのは、翌日の夜八時前だった。この日は帰るのが早かったため、彼的に「まだ、ぎりぎりセーフ」というような時間だった。

 帰宅し、すぐにつける。よかった、ノイズはない。

 もちろん、彼はチキンなので音量はあまり上げない。その状態で、気分的にロードオブメジャーのアルバムを流した。シンプルなロックに浸りたかったのだろう。


 この時代の邦楽ロックはよかったなあ、なんて思いながら、着替えや夕食の準備などを済ます。


 それにしても、と思う。スピーカーがLRにふたつあり、その間にはPCがある。ボーカルは、そのPCの場所から聞こえる。

 今までこの部屋にしっかりとしたスピーカーを置くことなんてなかったので、そんな分かりきったことすらも、どこか新鮮で、感動的だった。


 気分的にも身体的にも温まってきた頃、流れていた『偶然という名の必然』が終わった。テンションの高い曲だったせいか、今の彼も上機嫌だ。


 だが、次の瞬間、その機嫌が地に溶けた。

 温かいものが頭の先から首へ、胸へ、へそへ、脚へ落ちていき、部屋からいなくなった。どこにも見当たらない。

 その代わり、耳だけが正確に、雑音を捕えていた。

 いなくなったと思っていたあいつが、再びやってきたのだ。


「……なんで?」


 お前とはもう会いたくなかったのに。


 すぐに曲を止め、スピーカーの裏へ手を伸ばす。電源スイッチの物理音のベロシティがいつもより高い。


 また、部屋を沈黙が包む。帰宅した時の虚無な沈黙ではなく、そこに何かがいる気配だけがある、不気味な沈黙だ。誰かがどこかから自分を見張り、あざ笑っているような。


ベロシティ……強さ。DTMの打ち込みで最も大事な要素。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ