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スピーカーのノイズが消えたあの日は帰りが遅かったため、帰宅してから電源をつけることはなかった。夜遅くにあれほど低域の出るスピーカーを出力するにはそれなりの勇気が必要となり、彼にはそんなもの微塵もなかったのだ。
次に電源をつけたのは、翌日の夜八時前だった。この日は帰るのが早かったため、彼的に「まだ、ぎりぎりセーフ」というような時間だった。
帰宅し、すぐにつける。よかった、ノイズはない。
もちろん、彼はチキンなので音量はあまり上げない。その状態で、気分的にロードオブメジャーのアルバムを流した。シンプルなロックに浸りたかったのだろう。
この時代の邦楽ロックはよかったなあ、なんて思いながら、着替えや夕食の準備などを済ます。
それにしても、と思う。スピーカーがLRにふたつあり、その間にはPCがある。ボーカルは、そのPCの場所から聞こえる。
今までこの部屋にしっかりとしたスピーカーを置くことなんてなかったので、そんな分かりきったことすらも、どこか新鮮で、感動的だった。
気分的にも身体的にも温まってきた頃、流れていた『偶然という名の必然』が終わった。テンションの高い曲だったせいか、今の彼も上機嫌だ。
だが、次の瞬間、その機嫌が地に溶けた。
温かいものが頭の先から首へ、胸へ、臍へ、脚へ落ちていき、部屋からいなくなった。どこにも見当たらない。
その代わり、耳だけが正確に、雑音を捕えていた。
いなくなったと思っていたあいつが、再びやってきたのだ。
「……なんで?」
お前とはもう会いたくなかったのに。
すぐに曲を止め、スピーカーの裏へ手を伸ばす。電源スイッチの物理音のベロシティがいつもより高い。
また、部屋を沈黙が包む。帰宅した時の虚無な沈黙ではなく、そこに何かがいる気配だけがある、不気味な沈黙だ。誰かがどこかから自分を見張り、あざ笑っているような。
ベロシティ……強さ。DTMの打ち込みで最も大事な要素。