表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2

「ん~、なんだろうね。コンセントに原因があるのかな~」


 月曜日になり、オーディオマニアのMにノイズのことを話した。

 すっと「それはあれだよ」なんて爽快に答えてくれることを願ったが、どうやらあのノイズは思ったほどの有名人でないらしい。

 この土日の間にも一度二度スピーカーの電源を入れたが、ノイズは消えていなかった。ネットでも『スピーカー ノイズ 原因』などと検索して調べたが、どうにも「これだ!」という答えは見つかってくれなかった。


「モニターしてて気になるほど大きいの?」


「音量を上げるとそうでもないけど、無音部とか静かになるところだと気になるね」


「なんだろう。電源系統が原因なら、モニターしてはっきりと気になるほどノイズが乗るとは思えないしな~」


 パワーディストリビューターがあるなら、その線はより一層薄いしなあ、とM。


「一旦、全く別のコンセントに差してみたら?」


「そうだなあ」


 同じ場所にあるコンセントへの入れ替えなら既にしていたが、別の場所に繋ぐことはまだしていなかった。そのアイデアがなかったわけではなく、そのためにスピーカーを動かすのが単純に面倒だったからだ。

 とりあえず、助言のおかげでその重たい腰を上げる気になることはできた。


「それでダメだったら初期不良だね。二つ同時とは考えづらいけど、動画でも撮って送りつければいい」


「動画?」


「あのサイトは初期不良を認めないことで有名だから」


「なるほど」


「そうしたら僕の時は一発だったよ」


 Mは誇らしげだが、何の問題解決にもなっていないのは明白だったので、適当な愛想笑いを浮かべるしかできなかった。





 初期不良であってほしいのか、この部屋に原因があってほしいのか。

 自分はどっちであってほしいのだろう。

初期不良は色々と面倒だし、自分の部屋が原因だったらどうしようもないし、なんか悔しいし。


 そんなことを何度も考えながら、日付は次々と更新されていった。課題やらなんやらで色々忙しく、ノイズについて何も調べられてなかったのだ。


 そのことを思い出したのは、数日後の朝だった。登校のため、テレビを消し、電気を消し、家を出ようとした時。


「……別のコンセントを試してみるか」


 ふと思い立った。


 スピーカーを動かしたくはなかったので、スピーカーとディストリビューター、ディストリビューターとコンセントをそれぞれ繋ぐケーブルの紐をほどき、頑張って別のところに伸ばしてみる。そこは既に電源タップでタコ足配線がされている場所ではあったが、ノイズを確かめるだけでは問題がない、と彼は判断した。


 まあ、どうせノイズは変わらず発生し、俺は動画を送りつける羽目になるだろう。


 そう投げやりに思いながらコンセントを差し、ディストリビューターの電源を入れ、軽く溜息しながらスピーカーの電源をつけた時だった。


 部屋に、沈黙が走った。


 物語において沈黙が走る場面といえば、誰かが何かに驚き、はっと息を飲んだ時が定番だろう。もちろんそれはこの場面でも例外ではない。

 ただ、この話はノイズが走るというストーリーだ。誰かがはっと息を飲んだところで、あの不快な音はなり続けるはず。


 だが、確かにこのとき、部屋が沈黙した。


 つまり、スピーカーのノイズは消えていたのだ。


「……あれ? 直ったぞ?」


やはり、コンセントが原因だったのか。

 そして彼は配線を元に戻す。これでノイズが出れば犯人の炙り出しに成功したことになる。

 しかし、この事件はそう簡単に終わってはくれなかった。

 元の配線に戻しても、ノイズは消えていたのだ。


「……直っちゃったね」


 腑に落ちない突然の解決。原因を探りたくなるところだが、もう学校に行かなくてはならない。


 結果オーライにしとこうか、と彼は家を出た。


 もしかすると、あのスピーカーはあの部屋に緊張していて、時間とともにそれが抜けたのだろうか、なんてヘンテコな仮説を立てながら。


 とにもかくにも、あの不快な音をもう聞かなくて済む。一安心だ。


 そう、思っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ