mission00
ーーかつて、世界に喧嘩を売った男達がいた。
彼等は、未だ多くの命がゴミクズ同然に捨てられる現実を良しとしなかった。
民族対立、宗教戦争ーー凡ゆる正義と正義のぶつかり合い。
どの様な大義があろうと、彼等には関係なかった。
あらゆる戦争と名の付く争に介入した。
理由?曰く、「んなもん知るか。死ね。」だ、そうである。
ただ単に、争いを望んでもない奴が死ぬ。それにムカついたから、両方ぶっ飛ばす。
単純明解。純度100%の脳筋理論ではあるが、それ故に、極東の地からやって来た厨二病患者は、現地の絶望に纏わり付かれた人々に熱狂と共に迎えられたのである。…迎えられちゃたわけだ。
AK-47と言うタフな小銃を何処で手に入れたのか謎なまま、厨二病患者は世界の警察と宗教家達の争いに乱入した。
まぁ、常識的に考えれば速攻でぶち殺されるのが世の常ではあるが。
そこは、厨二病患者。ビギナーズラックなのか、天賦の才が開花したのか。
両陣営をぶっ飛ばしてしまったのだ。たった一人で。恐るべき、腹くくった厨二病患者。
こうして、大量の武器と弾薬、ついでに装備を手に入れちまった厨二病患者は、何かの間違いで彼を英雄と信じた現地の住民達と共に、快進撃を繰り広げた。
中東で、アフリカで、チベットで…
相手が誰であろうが、決して引かなかった。
仲間の血を浴び、屍を乗り越え、世界中を転戦して行く内にーー世界は変わった。
気が付けば、厨二病患者は悪の総帥にクラスチェンジしてた。
そう、あらゆる国の利益を犯しまくった彼等を、世界は共通の悪として一致団結したのである。何たる皮肉な事か。
だけどまぁ、そこは純度100%の脳筋理論を持つ者達である。
襲いかかってくる敵はぶちのめす。物理的に。
そんな調子で戦って、戦って、戦いまくった挙句の果てが、世界各国共同による反撃作戦による敗戦だった。
まるで、映画やゲームの様な光景だった。
ミグやイーグル、ラプターが編隊を組み、かつては世界を二分にした国が共に艦隊を組んで向かって来た。
グルカ兵と共に突撃してくる海兵隊に、ピクリともブレない砲塔を持つ戦車が彼等を援護していた。
故郷の誇る自衛隊にすら狙われているにも関わらず、彼は微笑みさえ浮かべていた。
これこそが、彼の望んだ光景。命を、いや、存在を賭けた甲斐があったってもんである。
こうして、彼等は負けた。世界の敵として…
だが、彼は死んでいなかった。
世界の精鋭達が突入する瞬間。
眩い閃光と共に消え去ったのだ。
世界中から集まった、彼と志を共にする兵士達と共にーー
another world soldier's
目が覚めた時、ぼやける視界の中で彼が見たのはいつもと変わりない執務室の光景だった。
89式小銃を構える隊員達の姿も、それに応戦する仲間の姿もない。
いつもと変わりない、スチール製の机と安い事務椅子だけの殺風景な光景だけ。
まるで安い酒をアホみたいに飲みまくった翌日の様に痛む頭を労わりながら、執務室の扉を開く。
「なんだこれ」
彼の目に入って来たのは、そう広くない廊下を埋め尽くすかの様に横たわっている仲間達の姿であった。
ーー悪夢の様な光景から1時間後。
むさ苦しい野郎どもが密集して雑魚寝するという、ある意味地獄を体現したかのような状況を、筋力で蹴散らした彼は頭を抱えていた。
まだ二日酔いから脱却しきれていない兵達を、準戦時配備に就かせ、基地全体に厳重警備命令を敷き、統合作戦本部にて現状を把握させた。
その結果を見た瞬間、忘れていた頭痛が再発したのである。
黒い作戦本部の制服を着た士官によって、手渡された報告書。そこに書かれていたのは、彼が目覚める前にみた光景は紛れもなく事実であり、映像記録からは彼自身も射殺されたと言う真実であった。
一世代前の装備とは言え、世界中で激戦を繰り広げてきた兵士達と最新鋭装備を持つ世界の精鋭との戦いである。
多くの兵が死に、施設も多大な損害を受けていた。
脳裏には、突撃してきた海兵隊とグルカ兵をM249で蹴散らした記憶も残っている。
そして、彼を殺した自衛隊員が放った弾丸の感触すらも。
しかし、今は何処をどう見てもそんな激戦があったとは信じられない。
ハンガーには魔改造を施されたファルクラムやトムキャットと言った旧式戦闘機が駐機され、滑走路脇のヘリポートにはヒューイやブラックホークが羽を休めている。
兵達も首を捻りながら警戒に当たっている状況である。
もっとも、彼にとってはそんな事は大して問題では無かった。
兵も無事、施設も装備も無事、ついでになんか知らんがまだ生きてる。頭痛いけど。
所詮、脳筋の考えるのはこの程度である。
小難しいのは作戦本部の優れた将官達がやるから大丈夫。まぁ、若干脳筋入ってるけど。
そんな事よりも、彼が問題視しているのは兵の数である。
点呼を取った結果、本来居るはずのない兵までもが雑魚寝していたのだ。
決戦時、この基地に居た兵は千に満たなかった。しかし、今は何故か万を超える兵がこの基地に居る。物凄い人口密度である。
当の兵達も、あれ?俺ってウイグルに居なかったっけ?なんで本部にいんの?ってな感じである。
まぁ、兵がいるに越したことはないから問題ではない。何故か武器・弾薬も持参して来てるし。
問題は食料である。まったく足りないのだ。
脳筋とサポート要員が頭を悩ませるが、まったく問題解決の糸口は見つからなかった。
他にも、通信衛星が使えなかったり、他の基地と連絡つかないとか、周りの景観がガラッと変わってたりとか、多々問題はあるものの、食いもん足りないと言う切実な大問題の前では微々たるものである。
どーすんのよ、これ。詰んでんじゃね?なに、この無理ゲー。
そんな事を脳筋が考え始めた頃、タイミングを見計らったかのように司令室に連絡が入った。
「ゲート先に甲冑のコスプレした変な集団が来たんすけど、撃っても良いですよね?」
「いいわけあるかボケェ!!今から行くから引き留めろ!全力で!」
ゲ!なんで、閣下が無線でてるんすか!?と、焦る警備の兵の魂の叫びを後に、脳筋はゲートへと疾走するのであった。