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昼間のランプ

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

お盆休み中の更新休止について、活動報告に記しました。

よろしければ、ご覧ください。


私の名はカシア。

ゴーデルク王国第一王子ユリウス様に侍女として仕えている。



我が主、ユリウス様は王族だが、その中身はまったく王族らしくない。

王族どころか貴族らしくもない。

王宮でよく見る高貴な方々は大体にして体面というものをとても重んじているが、ユリウス様はあまり、というか、ほとんど気にされない。

先日、婚約者であるパンゲロニカ帝国のリズターシャ皇女殿下から婚約を破棄されたことについても、何も感じていないようだ。

本来であれば、例えパンゲロニカ帝国が大国といえど、女性から婚約を破棄されるなど、激怒しても不思議ではない出来事なのに。

婚約者を奪う形となった第二王子ルシオ様に対してもそうだ。

全く思うところはないらしい。

ただ、二人の婚約にパンゲロニカ帝国の皇帝陛下が関わっている件については、危機感を持ったようだ。

すぐに暗殺されるというものではないと思うが、ユリウス様の行動は早かった。



ユリウス様は非常に臆病だ。

僅かにでも命の危険を感じると、すぐに行動を起こされる。

これは彼の育った環境によるものなのかもしれない。

ユリウス様は前王妃様よりお生まれになった。

しかし、前王妃様は産後の肥立ちが悪く、ユリウス様をお生みになった後、程なくして亡くなられた。

前王妃様が亡くなられた後、王妃となったのがルシオ様の生母である、現王妃である。

ユリウス様とルシオ様の歳は一ヶ月違いで、ルシオ様がお生まれになった時、現王妃様はまだ愛妾の一人だった。

母君の身分の差もあるが、何よりユリウス様の方が先に生まれたと言うことで、王位継承順位はユリウス様が第一位、ルシオ様が第二位となった。

これを不愉快に思っているのが現王妃様だ。

今まで、あらゆる手を使いユリウス様を亡き者にしようとしてきた。

幸い、わずかに残る前王妃様を慕う者たちによって、ユリウス様は生き延びられた。

ユリウス様も、この何年かは、ご自分が命を狙われることに慣れてきたらしく、ご自身でも身を守られるようになった。

生まれてきてから続く、この命の遣り取りが、ユリウス様の臆病な性格と危機察知能力を形成したのだろう。



昼間のランプ。

ユリウス様が評される時によく言われる言葉だ。

いつも穏やかに微笑み、何を言われても怒ることがないため、くみしやすいと見られて言われている言葉でもあるが、ルシオ様と比較されて言われている言葉でもある。

生まれが一ヶ月違いと言うこともあり、ユリウス様とルシオ様は色々な場面でよく比較される。

一ヶ月遅れで生まれたルシオ様だが、剣や魔法、帝王学として必要な学問等において、一般的に見てとても優秀だ。

対するユリウス様は、人並みにはできるといった感じだ。

家庭教師達が影で「ルシオ様は優秀なのに」と言っているのを、ユリウス様は耳にされたことがあるが、その時も困った様に微笑むだけで、家庭教師達に何かを言うことはなかった。

「何も言われないのですか?」と尋ねたら、「本当のことだからね」と薄く笑われた。

「目立たない方が長生きできそうじゃない?」とも。

確かに、何もかもユリウス様が秀でていたら、あの王妃のことだ、余計躍起になって手を出してくるだろう。

皆が「ユリウス様に比べ、ルシオ様は優秀で……」という時は、とても機嫌良さげにしていたのだから。



家庭教師達の中で、魔法を教えていた魔法師団団長はユリウス様を蔑むことはなかった。

私と同じく彼も、ユリウス様があの不思議な魔法を使うことを知っているのだろうか?

ユリウス様は他では見たことが無い魔法を使われる。

多く使われるのは魔法を遮断したり、魔物を寄せ付けなくしたりする防護壁の様な魔法だ。

同じ様な魔法が聖属性の魔法に存在するが、ユリウス様の使う魔法の方が性能が高い。

この魔法を使えることを公開すれば、ユリウス様の評価も少しは良くなると思うのだが、彼は周りにこの魔法の存在を秘匿している。

ユリウス様はその方が色々と都合がいいからと言っていたが、単純に目立ちたくないだけなのかもしれない。

ユリウス様にとって目立つと言うことは罪であると心に刻まれているようだ。

それほど、目立つことを嫌われている。



臆病なのも、目立つことを嫌われるのも、全ては生き残るためだそうだ。

命は何よりも重いと。

失われたら取り戻すことはできないのだと。



「だから、カシアも自分の命、粗末にしちゃ駄目だよ」



ある襲撃で不覚を取り、死にかけた私を守ったユリウス様が言った言葉だ。

あの日、初めて本当のユリウス様を見た気がする。

昼間のランプではないユリウス様を。


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