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蜜蜂男爵の館 2  作者: カキヒト・シラズ


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9/13

クラブQ/豪華客船は独立国

 ご乗船のみなさま。この度は、『世界最大の豪華客船で楽しむ、情熱とロマンの世界一周ミステリーツアー』にご参加いただきまして、まことにありがとうございます。

 私は、株式会社リューグー観光の社長兼、当客船『アルテミット・タートル号』の船長、浦島タケルと申します。

 今回のツアーはいずれも無料招待のお客さまに限定させていただいております。日本でさまざまな分野の第一線でご活躍中の方々を弊社で厳選し、無料招待状を送らせていただきました。

 お手持ちのパンフレットでも説明いたしましたが、みなさまがご乗船中の『アルテミット・タートル号』は世界最大規模にして世界最高の豪華クルーザー船でございます。

 全長620メートル、横幅95メートル、重量600トン、最大速度30ノット。

 こうしたスペックだけでも驚異的ですが、それ以上に特記すべき事項は、『アルテミット・タートル号』自体が独立国の首都になっていることでございます。

 

 みなさまは独立国が作れるということをご存じでしょうか。

 国連憲章によりますと、ある地域の住民の八十五パーセント以上が独立に賛成の場合、国連に独立国承認の申請ができます。

 また国連海洋条約では、国家の領土から二百海里以上離れた海上は公海と呼ばれ、既存の国家の法律が及ばない地域になります。ここにウォーターフロントを建設すると独立国を主張できます。

 弊社はまず太平洋の絶海に観光ホテルと石油プラントを建設し、住み込み従業員を国民とみなして国連に独立国の申請をいたしました。独立国は領土、国民、主権の三つが、最低限、必要になります。

 その後、大西洋の絶海に造船工場・船舶整備工場、インド洋の絶海にマグロの養殖場といった具合に領土を増やしてまいりました。因みに当客船は大西洋の造船工場で建設いたしました。

 ところで申し遅れましたが、弊社が建国した国は、国名を『リューグー共和国』と申します。私は初代大統領および初代首相を兼任させていただいております。

 そして『リューグー共和国』の動く首都が、みなさまが乗船いただいている『アルテミット・タートル号』というわけです。


 さて独立国の首都であるからには、生活必需物資の自給力がなくてはなりません。またそのためにあらゆる産業を有していることが必要です。

 『アルテミット・タートル号』は七階建になっております。

 一階は倉庫および機関室になっており、船舶のエンジンルームがあります。ソーラーパネルなどの自家発電装置の制御もここで行います。

 二階は主に従業員の住居になっている他、病院や学校があります。清掃スタッフの詰所もここにあります。

 三階は行政エリアです。私が寝泊まりする大統領官邸をはじめ、各種役所や警察、消防隊が詰めています。船内外のネット通信を担当する情報局はこのエリアにあります。またわが国の通貨の造幣所もこのエリアにあります。

 四階は第二次産業エリア、つまり工場エリアです。さまざまな工業製品がここで製造可能です。さすがに鉱山はありませんが、金属のリサイクル工場もありますので、工業製品のほぼあらゆる素材をここで自給できます。

 五階は第一次産業エリアです。全体が温室になっていて、さまざまな農作物を栽培できるようになっています。牧場もあり、乳牛や肉牛など牧畜産業も盛んです。綿花や養蚕、羊毛など衣料の多くの素材もここで自給できます。

 農業だけでなく、樹木も育ててますので林業も可能です。因みにこのエリアで漁業はできませんが、三階の外壁に救命ボートが多数ぶらさがっているのをご存じかと思います。救命ボートはすべて漁船にもなります。

 食料自給率は日本より高いと思います。

 六階は軍事エリアです。わが国の軍隊はここに詰めています。また兵器の一部がこのエリアで生産されています。

 七階は娯楽エリアです。観光ホテルをはじめ、映画館、劇場、競技場、レストランなど、さまざまな施設があります。わが国は観光立国ですが、このエリアは当客船の最も注目すべき空間です。

 

 独立国であるからには軍事力がなくては存続できません。 

 甲板はわが軍の戦闘機が離発着するための滑走路になっています。つまり当客船自体が空母なのです。

 戦闘機は自律型無人戦闘爆撃機を二十機、遠隔操作型無人機を十機、有人機を五機保有しております。

 この他、船底から三機の小型原子力潜水艦を発進できる他、当客船自体が潜水機能を備えています。

 戦車は十台、いずれも一階の倉庫に保有しています。

 このようにこの『アルテミット・タートル号』自体が一国の首都を超えて、独立国としての機能を有しております。


 いかがですか。そろそろ『アルテミット・タートル号』はリューグー・パシフィック島に到着する時刻です。みなさま全員、こちらで下船していただきます。

 実は本日付でみなさまは目出度く『リューグー共和国』の国籍を取得いたしました。おめでとうございます。

 『リューグー共和国』国民を代表して、私、大統領、浦島タケルからお祝い申し上げます。

 これからは日本のご自宅に戻ることなく、ここパシフィック島で一生を過ごしていただきます。

 みなさまはいずれも各界で活躍する選りすぐりの人材。建国してまもないわが国を先進国あるいは、超大国に発展させるには、みなさまのような質の高い国民が必要です。

 無料招待状をみなさまにお配りしたのは、こうした事情からだったのです。

 えっ?聞いてらっしゃらない?そうでしょうとも。もし最初から、『リューグー共和国』への強制亡命ツアーだと知ったら、どなたも乗船なさらなかったに違いありません。


 なお、わが国への亡命を拒否されたり、乗船スタッフに反抗された場合、わが国の刑法二十五条により、銃殺刑に処せられる場合がございますので、くれぐれもご注意くださいますよう、お願い申し上げます。

 

                                          (完)


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