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蜜蜂男爵の館 2  作者: カキヒト・シラズ


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6/13

ダイヤQ/健康ワクチン

 新宿西口の地下通路を抜け、中央通りから少し路地に入ると、『大豆生田ビル』はすぐ見つかった。

 あなたは、ビルの入口に立っていた初老の警備員に近づく。

「健康ワクチンを接種しに来ました」

 警備員はあなたをじろじろ眺める。

「何の話でしょう。ここは保健所じゃないし、病院でもないですけど」

「クイーンから紹介されたんですが」

「そうでしたか・・・・。じゃあ、こっちです」

 警備員はあなたをビルの中に連れて行く。

 エレベーターの脇にある『職員専用』と書かれたドアを警備員が鍵で開ける。

 ドアの向こうは地階へ続く、階段だった。

「こちらへどうぞ」

 あなたは一人で階段を下りて行く。下りた先には小さな部屋があり、白衣を着た数人の係員がいた。部屋のドアは開いていて、『健康ワクチン接種会場』と書かれた紙が貼ってある。

「招待状をご提示ください」

 係員の一人が言った。

 あなたはリュックから、一枚の紙を取り出す。QRコードが印刷されていた。

 係員はバーコードをQRコードに当て、タブレットPCのディスプレイを確認する。

「では、こちらへおかけください」

 あなたは椅子に腰かける。テーブルを挟んで向かい側に座っている看護師らしい中年女性が乱暴にあなたの右腕を引き、アルコール消毒する。

「チクッとします」

 看護師はあなたの右腕に注射すると、針を刺した箇所に絆創膏を貼る。

「止血するまで、しばらく押さえてください。三十分くらいしたら絆創膏を取ってください」

 あなたは絆創膏を抑えたまま階段を上り、ビルを出る。

 警備員と目が合うと軽く会釈する。

 中央通りに戻り、都庁の方へ歩いていく。

 ふと見つけたファミレスに入る。

 ドリンクバーを注文して、スマホでメールを確認する。昨日、届いたメールだった。


   ********************


 このメールは不特定多数の君に向けて送信されたメールだ。できれば情報を拡散してほしい。

 私の正体は自身の保全上から明かせないが、ある種の高級官僚とだけ言っておく。

 戦後、日本の政治は国会議事堂や首相官邸ではなく、実質的に六本木のホテルの一室で行われている、と言ったら君は信じるだろうか。

 毎週、在日米軍の上層部と日本の若手エリート官僚をはじめとする有識者が会議を行い、政治に関する重要な事項の大半がここで決定される。仮にこれを”六本木会議”と命名しよう。国会や閣議は”六本木会議”で決定された原案をただ法令化しているに過ぎない。

 日本の大新聞や地上波テレビ局が、毎日、どこも同じトップニュースを流すのはどうしてか、君は考えたことがあるだろうか。

 実は五人のメンバーが、その日、マスコミがどのニュースを一面トップで報道するか、そしてどのニュースをメディアから抹殺するかを、意図的に決めているのだ。

 この五人のメンバーのうち三人が”六本木会議”の主要メンバーだ。


 たとえばここ数年、国政選挙や地方選挙で不正があったとする市民団体による行政訴訟が、何十件も起きていることを、君は知っているだろうか。

 勝訴したのはわずかに高松選挙区のケースのみ。だが本当は全国規模で不正選挙が行われた。集計マシンに細工して、偽の選挙結果を出力するという手口だ。

 国民が誰も戦争を望んでいないのに、平和憲法を改悪しようとする政党が与党になるのはこうしたわけだったのだ。

 本来なら、連日一面トップで報道すべきところ、マスコミは一切無視を続けている。

 この話題は無視するよう例の五人のメンバーがマスコミに命じたからだ。

 実は”六本木会議”では、米国の覇権を維持すべく、日中戦争または極東戦争を起こし、日本を戦争に巻き込むことを決定した。

 だからそれにふさわしい政権が不正選挙で誕生したというわけだ。


 君はグラディオス作戦という言葉を知っているだろうか。これは政府による偽旗作戦、つまり自作自演テロの一種で、多くの無辜の国民を意図的に大量虐殺し、国民の不安を煽るというものだ。もちろん国民は政府が起こしたテロだと気づかないから、国民は救いを求めて国家により依存するようになる。つまり政府としては国民をより支配しやすくなり、税を上げ、使役を増やしやすくなるわけだ。

 ここ最近の異常気象を思い出してほしい。地震、津波、台風、洪水、竜巻・・・・。百年に一度、千年に一度の異常気象ニュースが、毎月あるいは毎週、一回以上は報道される。

 おかしいと思わないか。実は米国は気象を自由に操る軍事兵器を開発した。

 気象兵器による異常気象テロは、日本政府から米国に税を貢がせる脅迫になるだけでなく、米国政府と日本政府の主従関係と日本政府と日本国民の主従関係の二つを強化させる効果がある。

 マスコミでは、日本は米国の同盟国と説明されているが、これは嘘だ。

 日本はいまだ独立国でなく、実質的に米国の植民地と言っていい。


 君は政府が国民を守ってくれると思っているかもしれないが、それは間違いだ。

 国家と国民は違う。国連は支配者階級である各国政府が、自国民を支配し続けるための互助組合だ。国連が世界平和に貢献しているのを全く嘘だとは言わないが、世界平和よりも国民が国家に服従しつづける秩序体制を維持することがこの組織の本当の目的だ。

 国家は国民の幸福にするために存在するのではなく、国民を支配するために存在する組織なのだ。

 国家は平気で国民を大量虐殺する。過去の歴史においてもそうだし、現在もそうだ。

 

 ところで、”六本木会議”はこのほどバイオテロを敢行することを決定した。これは東京に細菌をばらまき、東京の人口を半分に減らそうというものだ。

 細菌は最新の生物兵器で、インフルエンザ並みに感染率が高く、罹患した患者は二十時間以内に九十パーセント以上の確率で死亡する。

 ところがワクチンが開発されていて、これを接種すれば細菌に感染しない。

 ”六本木会議”のメンバーやその家族はもちろん、政治家や皇室、高級官僚、財界のトップ、宗教団体のトップなど、この国の支配階層の人間はすでにワクチンを接種している。あるいはテロ決行期間は東京から離れるよう計画している。

 テロ決行は一週間後。つまりそれまでに君はワクチンを接種するか、東京を離れなければ生命の危険にさらされる。

 ワクチンは新宿のある場所で無料で接種可能だ。ただ接種するためには招待状と呼ばれるQRコードを印刷した紙が必要だ。また接種会場のビルに入るには警備員に、”合言葉”を告げなくてはならない。いずれも詳細はこのメールの添付ファイルに説明してある。


 ところでこのワクチンには副作用がある。

 筋肉増強剤に近い成分が入っているので心臓に負担がかかる。君が高齢者だったり、心臓に疾病を抱えている場合、心臓麻痺で死亡する危険性がある。だが君が若くて健常者なら、そうした心配は無用だろう。

 また筋肉を増強するだけでなく、向精神薬成分も入っているので覚醒作用があり、動体視力も強化する。

 つまり運動能力が飛躍的に向上するはずだ。ただ君がある種のアレルギー体質だった場合、これらの成分は、内臓疾患を引き起こす危険性もある。


 私が内部告発を犯してこのメールを送信したのは、ひとえに義憤にかられたからだ。

 健闘を祈る。


  *********


 あなたはファミレスを出て、中央通りを駅に向かって歩き始める。

 街宣右翼のトラックが都庁前の道を陣取り、スピーカーから軍歌をボリュームいっぱいで流している。

 軍服を着た若者が、トラックの前でマイクを持って演説している。

 健康ワクチンの効果が出てきたせいか、体全身から活力が漲ってくる。

 自分は全知全能だ。自分は神だ。自分の辞書に不可能という文字はない。そういう際限ない自信が、あなたを躁状態にする。

 悪を懲らしめるのは自分の使命だ。

 突然、あなたは時速三百キロのスピードでトラックに向かって駆け出す。

 演説の声があまりにゆっくりなせいか、低く聞こえる。

 トラックを両手で持ち上げ、道路に横転させる。

 軍服を着た若者が驚いて、あなたに拳銃を向ける。

「こっちへ来るな」

 若者の声がゆっくりすぎて低く聞こえる。

 引き金を引く指の動きはスローモーションのようだ。

 意識はいつになく覚醒している。こんなに頭がはっきりしたことはない。

 弾丸の弾道がはっきり見える。

 あなたはわずかにのけぞる。

 顔の上を弾丸が飛んで行くのをあなたは見届ける。

 あなたは顔を上げ、若者に飛びかかる。

 若者の動きはのろい。亀のようだ。

 あなたは若者から拳銃を取り上げ、若者の体を片手で持ち上げると、トラックの上に投げ捨てる。

 気がつくと、周囲の多数の人間があなたを呆けた顔で見つめている。

 少しまずいことになっただろうか。ここは逃げた方がよさそうだ。

 あなたは時速三百キロのスピードで新宿中央公園の方へ駆け逃げた。

                                

                                          (完)


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