フェーズ4
シュトルムはCRDの中央広場を出て周辺地域を調査。正午になってやっと、商店街が賑わいを見せ始める。
そこの商店街の端にある自動販売機で熱熱のレモネードを購入。やはり寒いだけあって、馬鹿高い。
「プビ!柑橘系果物は高いがじゃ~。リンゴの飲み物を買えばよか~。」
「うるせぇ。」
そして、午後2時。モービルを走らせ、CRDから出ようと出口ゲートに向かおうした。
「プパッ!見て。シュトルム。あんなところからCRDに進入してる人がいますよ!」
「珍しく標準語じゃないか。成長したな。」
「ブブー!そんなことより!ほらッ!」
ディクシーは勝手にモービルの急ブレーキをかけた。シュトルムは思いっきりハンドルに腹を強打。
「ウッ!…いてえ!この鉄くず野郎!何しやがる!」
「これが任務です。」
シュトルムはディクシーを持ち上げて睨めつけたが、真面目な返答に返す言葉も思い浮かばなかった。一時的な怒りは着地点を見つけることなく空中分解した。
「分かった。…わーたよ。で、どこ行った?」
「ピブッ!向かい側の3階建ての理髪店に入っていきたんや。」
その理髪店の前にモービルを止めた。理髪店は、電気が付いていないのに窓が全部空いているという…いかにも怪しい。
「おいおい。怪しいってでっかく書いてあるぞ。喧嘩うってるだろ。」
「ブン!んなことより装備は確認したけ?」
「スモークグレネードとスタンクロスボウだけだ。」
店内に入り、壁に寄り掛かって奥を覗く。視界には誰も写らない。
その時、後ろでガラスの割れる音がした。そこにはガラスの破片が散らばり、鋭くとがった矢が壁に突き刺さっている。
「いるな。そこに。」
「ババッバッババッ!ガッガラスのす主成分ははっはは、ニニニニに酸化ケケイ素!」
混乱しだしたディクシー。このままだと、まんまと位置が悟られると判断したシュトルムは、壁の横にディクシーを突き出した。完全に敵の射程圏内に突き出されたディクシー。絶対にディクシーをクロスボウで撃つだろう。クロスボウの装填数は一発。敵が撃った直後の隙に仕留める。
案の定、ディクシーは矢に当たり、後ろに大きく吹き飛んだ。シュトルムはすかさずスタンクロスボウを握り、敵の眼光がまだ残っている射程圏に飛び込んだ。
シュトルムの目に映ったものは、矢を装填しようとする敵の姿ではなかった。明らかにトリガーを引き、すさまじい射撃音と共に発射された矢。揺るがない直線ベクトルを描いた矢は自分の心臓だけをしっかり捕らえていた。
視覚から来た危険信号は、運動神経に到達することはなかった。
シュトルムは、膝から崩れ落ちた。
柑橘系果物は高い…全国に温室は54個しかない。そのうち日本にあるのは3個。2個は大手企業が温暖な気候の果物の栽培に利用。もう一個は、とある研究者の所有物で紅葉葵の花畑がある。
装備…いつもダボダボで厚手のトレンチコート(青白)を着用。裾やフリルの部分はギザギザにささくれている。スタンクロスボウは腰に下げてある。スモークグレネードは腕に収納。片方の腰からは赤いボロ布と矢の予備を下げてある。このボロ布はクロスボウを拭くためのもの。
スモークグレネードとスタンクロスボウ…2100年。CRD内の犯罪率の急激な上昇から、日本は「銃刀法」を大幅に規制緩和。非殺傷クロスボウの許可。非殺傷グレネードの許可。それにより、一時的に大幅に犯罪率の低下に成功した。しかし4年後、凶悪犯罪事件が2件連続で発生。もう一度「銃刀法」強化に努めようとするが失敗。現在、日本の70%がクロスボウを所持している。これは「日本平和幻想の崩壊」として世界中で言われた。一度着手してしまったら、もとに戻せないこともあるのである。