プロローグ3
カームの読みは外れた。たとえ世界が終ろうとしていても、人類滅亡の危機が迫っていても、「責任」が伴うのである。人間が思い切った行動をするときに妨げるのはこれである。
カームもそれが分かっている。だが、あきらめきれない。
カーム「この計画を受け入れないということは、黙って絶滅したいということなのか!?ふざけるな!」
ノックス「落ち着いてください!教授!」
カームはテーブルをたたき、置いてあった資料を投げようとした。ノックスは必死にそれを止め、今にもイスから飛びだしそうだったカームを止めに入った。ノックスは目で「今は落ち着くべき時です。」といい、カームをイスに押しつけた。カームはノックスをにらみつけた後に、椅子を一発ぶったたいたあと、うつむいて会議が終わるのを待った。
研究所に戻ってきたと同時にカームの怒りが再爆発した。持っていたバックを実験台の上へ放り投げた。ガッシャーン!という音にともに綺麗に整頓されていた試験官とビーカーが飛び散った。粉々になった二酸化ケイ素が床に落ちる音だけが研究所の中で響く。
カームは荒い息使いをしながら立っていた。ノックスは黙ってその背中を見ていた。
(世の中こんなものなのか?俺は人生をささげてこの研究をしてきた…成功する可能性が高いのに認められない…俺の人生を殺すのか?俺の生きる意味をなくすのか?人類滅亡に立ち向かった俺は傷つき、人任せで適当に世界が終わるのを待つ人間は傷つかないのか?こんなことは間違ってる…)
ノックスは教授のところへ行った。
ノックス「しょうがないです。やはり5%の副作用がぬぐいきれません。作用してしまった場合、人間の手によってパンデミックを引き起こしてしまうことになります。成功率100%になったら、また国連に提案しに行きましょう。また研究に精進しましょう!」
ノックスは出来るだけ明るい声で言った。しかし、カームはノックスの胸倉をつかんで壁に押し付けた。
カーム「しょうがないだと!?俺の人生をかけた研究をしょうがないで済ませられるか!世界にはもう時間がないんだぞ!奇麗事をごねるのもいい加減にしろ!」
カームはノックスをにらみ続けた。ノックスは、ただ何も言えぬまま壁に押し付けられていた。
カームは、個人の部屋に戻った。電気もつけず部屋に入り、足に物がぶつかりながら暗闇を進み、自分のベッドに横たわる。すると背中になにか物が当たる感覚がした。取ってみると、それは本だった。寝そべりながら手探りで照明のリモコンを探す。いきなり明るくなった部屋に目が痛む。目を開けて本を見てみる。「クローン技術がもたらす未来」。自分が書いた本である。これを見たとたん悔しさから湧いた憤怒と復讐心がカームの心を絞めつけた。
カームはゾンビのようによろけながら部屋を出て、非常口誘導灯の明かりで満たされた薄暗い廊下を歩いた。そして研究室に戻ってきた。ノックスはまだ、そこでたたずんでいた。
カーム「ノックス。俺は決めた。」
ノックスはゆっくり顔をあげ、カームの顔を見る。
カーム「俺の研究を認めさせる!」
研究所…世界の地域は「生命限界領域」「CRD」「それ以外の場所」に分けられる。この研究所は「それ以外の場所」にあり、とある岬の上にたっている。(が、その岬周辺の海は凍っている。カーム研究所には昔総勢150人の研究生がいて、全員がカーム研究所で寝泊まりしていた。が、カームのぶっ飛んだ研究と信念の強さについていけず、やめてしまった。そのため現在、カーム研究室には合計148の空き個別部屋がある。現在は掃除が行き届いておらず、かなり荒れている。研究所の見てくれはまるで廃墟である。
ノックス…本名ノックス・アウローラ
カーム研究所唯一の研究生。カームの研究にも必死にしがみついてきた。性格は極めておとなしい。常に厚手の白衣を着ているが、かなりボロボロである。一応研究生ではあるが、一人なので半分、助手化している。