フェーズ15
「都合がいい?」
「ああ。ノックスは…死亡届を出していない。生命限界領域で死んだからな…。お前はシュトルムだが、お前の記憶を書きかえれば、お前は今からノックスになれる。」
「俺をノックスにしてなにがしたい?」
「いやー。警察は騒ぎすぎた。いつかは俺が生きてるのもばれる。それは困るだろ?だからこのパンデミックの真犯人を作り出そうと思ってね。」
シュトルムはハッとした。この老科学者は馬鹿なんかじゃない。ただイカれてるだけじゃない。シュトルムの反応を見てカームは満足そうに「すべてのヒントはそろったよ。分かったかね?」と言っている。
「俺は今からお前の記憶を置きかえる。お前はノックスのクローンだ。記憶さえ入れ替えればお前は正真正銘ノックスになれる。だからいまからお前にアーティフィシャルメモリー(人工的な記憶)を入れる。内容はノックスの記憶を改良したものだ。そこにはノックスが自首する内容の記憶が入ってる。これが出来れば、パンデミックの犯人は終結。責めるべき人間がいれば一般大衆の怒りの矛先はすべてそこだ。たとえそれが嘘でもだ。そういうものなのだよ。世の中は。」
「俺は人間だ!シュトルム・イントロンだ!俺の体は人間だ!俺の記憶は人間だ!俺の…」
「いいや。お前は人間の形をした機械と言ってもいい。お前に母親はいない。言うなればお前の母はあそこにあるシリンダーだ。記憶も俺が作った。」
「嘘だ!信じられるはずがない!」
シュトルムは叫んだ。だがフラッシュバックする記憶。あの記憶が蘇ってくる。その記憶と今カームが言っていることがうまく結びついて、心のどこかで自身が持てない…俺は人間なのに…」
「何が本当で何が嘘かなんて人間でも分からない。ただみんなそうだ。自分の記憶は正しいと誰だって思うさ。それしか頼るものがないんだから。人間の記憶は放っておけばただのステレオタイプ(固定概念)に過ぎない。誰もがみな自分は人間だと思っている。きっと正しい。だが根拠なんてないんだよ。」
カームはシュトルムに近づいて顔を覗きこんだ。
「ラストフェーズ(最終段階)の始まりだ。」