フェーズ14
「ノックスって誰だよ。」
「俺の最後の助手だった。いつも素直できれいごと好きで明るくて…。だが俺の人生をかけた計画には反対した。人類が滅亡しない最後の計画を…」
「それでパンデミックを起こした?むしろ滅亡に追いこんでるじゃないか。」
カームは近づいてきて、機械の脚でシュトルムを蹴りつけた。空中に浮かんでいるシュトルムの体は回転した。浮いているせいか体の至る所が痛くなってきた。なぜか苦しい。
「俺は、H2V。そういう名のウイルスを完成させた。確かに副作用はひどい。最悪死に至るような熱。だが、人間はこれでしか生き延びられないんだ。生命の転換期は乗り越えられない。だが認められることはなかった…だから俺は自分を自分で殺し、何の拘束もない中でH2Vをばらまいてやることにした。」
「拘束ってなんだ?」
「責任と倫理だ。科学者という生き物は不思議なものだ。理想の技術、未知の発見、未踏の突破口を求めながら日々研究しているのに、最後には倫理的な振る舞いを強いられている。まったくもって矛盾した話だ。」
「なあ。あんたの言ってること、おかしいぞ。仮に俺がパンデミッカーだとしても、俺は既にパンデミックの起きている場所に行っているし、たくさんのパンデミッカーがいるじゃないか。」
「実はこのH2Vは生きている人間から生きている人間に感染するウイルスなんだ。空中ではすぐに死んでしまう。つまち空気感染させることが出来ないんだ。だから生きたままのH2Vを世界に供給できる最高の運び屋が必要だったんだ。それがお前だ。お前の吐いた息が。お前のかいた汗が。お前の物すべてにH2Vが入っている。残念だが、お前が死なない限りこのパンデミックは終わらない。」
「……。質問に答えろ……。」
カームは抵抗するのをやめたシュトルムを鼻で笑った。
「お前がなんの躊躇もなく世界を回れるようにもう一個のウイルスを開発した。それがグライメデューサウイルスだ。グライメデューサウイルスはこんな寒い世界でも問題なく空気感染出来る。しかもH2Vと初期症状が同じ。はたから見ればグライメデューサウイルスもH2Vも同じパンデミックウイルスに見えるんだ。グライメデューサウイルスの悪化?違うね。H2Vが感染しただけだ。」
「………俺じゃなくて別の奴にやらせればいいだろ…」
「いいや。都合がいいんだ。お前だと。シュトルム。いいやノックスと呼んでおこうかな。