フェーズ13
「お前は誰なんだ?何故俺を知っている?何故そのチビロボットの名前を知っている?全部答えろ!」
シュトルムはクロスボウを強く握り構えた。
「カーム・エキソンって言ったら分かるか?」
機械足の白衣老人は両手を上げ、透明度を失った目でこちらを見た。何故だろう。どこかで見た顔だ。そしてなぜか恐ろしい恐怖が思い浮かぶ。
「カームとかいう老科学者はもう死んだはずだ。何年か前に射殺された。」
「素晴らしい。それこそが普通だ。」
「どういう意味だ?」
「あそこで射殺されたのがもしドッペルゲンガーだったとしたら?カームのクローンだとしたら?そんなこと考えたことあるか?」
「ドッペルゲンガー?あれはクローンなのか?」
「疑問形ばっかだな~。考えろよ。俺が作ったのに。情けない!」
カームはゆっくり手を下ろした。そして手で「来い」と合図した。シュトルムはクロスボウを構えながら着いていった。
温室を出て真っ暗な廊下を歩く。長い廊下をぬけると大きな部屋にたどり着いた。その部屋には試験官の破片が散らばっていた。ずっと放置されたような様子だった。ゆっくり部屋を見て回った。白衣老人はたいして怪しい行動はしていない。
「ピンポイントだ…」
白衣老人がそう言った瞬間、シュトルムの体が空中に浮き上がった。
「実験成功。やはり俺が作っただけはある。」
シュトルムは空中でジタバタしながら狼狽をあげていた。そして脳裏にあのフラッシュバックが思い浮かんだ。…浮く身体…白衣男…研究室…注射針…ここだ。この場所だ。
「こ。ここと俺に…お前と俺になにがある?お前はカームなのか?」
「勿論、俺はカーム。お前は俺が作ったんだよ。お前はクローンだ。」
「クローン?信じられんな!俺はシュトルムだ!これは俺の名だ!」
「勿論さ。シュトルム。俺が作った中で一番の成功作。最高のパンデミッカーだ。」
パンデミッカー?俺が?意味が分からん。それに何故俺が浮く?
「浮く理由を今から教えてやる。」
カームはクロスボウを構えた。そして躊躇することなく自分に向けて発射した。空中に浮いているせいで、どうもがいても体が回転するばかり。避けられるはずもない矢は肩に突き刺さった。
もはや痛みを感じない。だが肩に突き刺さった矢を見た瞬間、痛みと恐怖が全身を襲った。
カームは近づいてきてその矢を握った。そして思いっきり引きぬいた。尋常じゃない激痛と共に大量の血が空中に放出された。
その血は地面に墜ちることなく空中に浮遊している。血の丸い粒が自分の周りに散乱している。
「分からないか?実はお前を作った時、俺はお前に特殊な改良を施した。血液中に含まれる鉄分を改良したんだ。ちょうどお前のいる場所には巨大な電磁石がある。それでお前を浮かしているんだ。」
カームは拍手をしながらこちらを見ている。「ディクシーの話も教えてやる。」
「ディクシーはお前を世界中にまんべんなく行かせるために同行させたロボットだ。勿論、俺が作った。ディクシーの入手したデータはすべて俺のもとに送られてくる。お前がどこで何していたかもすべて監視下だ。」
「俺は…なんなんだ…?…」
「簡単な話さ。シュトルム。お前は俺の計画を成功させるための道具だよ。お前のオリジナルはいい奴だったよ。最後まで俺の実験に賛成してくれた。いや、最後は間接的にだがな…」
「ノックス・アウローラ。お前はそういう男のドッペルゲンガーだ。」