フェーズ9
大洗海岸にあるCRDをでて約8時間。現在2月12日午前5時。東北自動車道を走行している。気温は下がる一方。少しずつ日が昇ってきた。薄い雲が全体に広がり、雲の隙間から黄色い一直線の光が凍土の至る所に差し込んでいる。それでも粉雪は止むことをしらない。雪が降る中、降り注ぐ光は不思議な光景であった。
3時間前に一旦、仮眠をとったシュトルムは気分が良かった。
「あと、どのぐらいかかる?」
「ププ!現在、北緯39度東経141度。この調子ではあと12時間ぐらいで到着できそうだ。」
「そうか。」
しかし、CRDの外は本当に何もない。この世なのかと疑問に思うほどの沈黙。錆びれたビル。崩れた建物。折れた電信柱。整備されているものは一部の家と高速道路ぐらいだ。ある意味この世界はワンダーワールドなのでは?そう思うほど。150年前は「生命倫理」とか「生態系」とか、そんなことを大切にしていたと聞いたとこがある。だたこの世界に「倫理」は存在していない。生きるために家を捨てCRDの中に入った。生きるために原子力発電を受け入れた。生きるために「自由」を捨てた。生きるために「倫理」を捨てた。そんな血も涙もない世界が広がっていた。そして世界は「いつか犯罪も正当化されるのではないか。」という恐怖と日々戦いながら「CRDという安全な巣」の中で生きようと努力するのである。これが人間社会のたどり着く最果ての地なのか…それともこれが本来の生物としての生態系なのか…
高速道路から見えるものは腐敗した街と紅く黄色く輝くCRD。
世の中は結局何を求めてきたんだろう?
シュトルムはモービルを走らせた。重力に従って落ちてゆく粉雪の中で。