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特別G級クエスト!

作者: 薄雀

俺は、駆け出しハンターとして日々戦地を駆け回る。相手は、人に害なすモンスターたちだ。人から依頼を受けて、それに応え

るのはハンターの役目、かと言って駆け出し故に簡単なクエストしか受けることしか出来ないけれど。


ハンターは皆が皆、ギルドというものに所属する。各地に支部がありどの人もそこでハンター登録さえすればハンターとなれる。まぁ簡単じゃないけれど、厳密な審査が通ると漸くハンター(ライセンス)を受け取りやっとクエストに挑戦できるというわけだ。

どうして、厳密な審査があるかというとクエストといえど依頼である。ソレを完遂してこその報酬だが、それに偽りより余分にふんだくろうとする輩もいるかもしれない。よって、過去に些細なことでも悪事をしたりした人はハンターにはなれない!よって、俺は良いことしかしていない善良なハンター、ガジェットだ。

まだ、ハンターランク4だけどいずれは名を轟かせるハンターになってみせる!


ハンターランクとは、1~10そのうえにS、Gがある。俺の目標はGランクハンターになること!今、Gランクのハンターはたったの4人で俺が必ずや5人目になってみせる!

クエストにもランクがあって、ハンターランクが上がれば上がるほど難易度の高いクエストに挑戦できる。中でもGランクハンターは筆頭ハンターと呼ばれ高難易度の緊急クエストにギルドから出動命令が下る。最近もたしか出動命令が出ていて、そのモンスターを追って各地に飛び回っているという噂を聞いた。ハンターの憧れの存在なのだ。



「どのクエストにするのー?」

隣から間延びした声で訊ねられ、視線を移す。

「ノア、いつの間に隣に居るんだ!」

ここは、ギルド支部のクエストカウンターの隣に設置されたクエストボード。ここに居るものが皆がみなハンターというわけでもないけれど、ノアが居ることはおかしい。

紫色の髪を肩より上で切りそろえられサラリと前髪は同じ紫色の瞳を隠す。緑色の広がっている袖口と膝あたりまでの長さで袖口同様広がった裾のコートをきっちりと着て、すらりと伸びた白い足に黒のショートブーツの美人な彼女。

「ええー、さっきですよー?」

と返答を返して彼女は、クエストボートを真剣な眼差しで見始めた。美人な彼女はどこでだって目立つし、ここはむさ苦しい男達の巣窟と言っても過言ではないほど女ハンターなど少ない、まぁ彼女はハンターではなく商人らしいが。

「ノア、そっちはS級以上のクエストだ。俺はまだそっちは受けられない」

「んー、そんなこと知ってますよー?だって、ハンターランク4じゃ到底無理なクエストですもん。ガジェ、頑張れー」

他人事のように言うノアに若干のイラつきが。まぁ、他人事だけど!彼女と出会ったのはほぼ最近、俺が駆け出しハンターだがとあるキャラバンの団長に気に入られ専属ハンターとなって一緒に旅して回ってる最中に出会った。商売のために立ち寄ったという村に俺たちも立ち寄ったことで前に一度団長は面識があったらしく話が弾む。俺を紹介されて、意気投合、でなんとなしに彼女はこのキャラバンについて来た。


謎なのが、商人なのに共も護衛も付いていないことと、身軽すぎるということだ。しかし、商談をまとめるとどこからともなく商品を持ち出してくるから不思議だ。美人だし、結構注目を浴びるのにどうして護衛をつけないのかと聞いたことがある。

「えー面倒じゃないですかー守ってもらうの」

どこが、面倒だ。どこが!そんな彼女を見かねて団長もキャラバンの一員にならないかと聞いたこともある、しかし、彼女は断った。

「今は目的地が一緒だからついて来たんですー。この後は私は行きたい所あるのでー離れますよー。都合いいかもですけどー」

と言ったこともあってそれからは誰も触れや出来ないようになった。彼女にもなにか事情があるのかもしれない。


「これ、行ってくる。数週間ここに滞在するって言ってたし」

「冬島かー、寒いですよ!ならこれもっていった方がいいですよー」

と、大量に渡してきたのは寒さに強くなれるドリンク剤だ。こういうのも結構するのでありがたいが、いいのか戸惑う。

「あーいいのいいのー。大量にまだありますしー!」

「そうなのか?」

「うん、こういうのよりモンスターの素材とかの方が高く売れますしー、ありすぎて困ってるんですよー」

ほいほい、出してきて逆に俺も困る。もう、いいって!と叫ぶまでどんどん出されたソレの処理に困る。

「こんなにいらねぇし、持てねぇ!返す!」

「あげたので返さないでくださいよー!好きにしてください!」




結局貰う羽目になるが、結構役にたったので後日改めて礼をした。ほんとう、アレも高いのにどうして。



*****


「ガジェット!緊急集令だ、ハンターたちは至急ギルド総本部に向かうようにと令が出回ってる。ギルド支部に飛行船が止まってる早く乗り込め!」

キャラバン団長がそう伝えて来た。いきなりの集令に戸惑いが隠せないが向かう。団長も行くというので、2人で支部へと急いだ。近くのギルド支部はハンターたちでごった返し、混乱していた。


「ハンターの皆様、先日緊急クエストが発令し筆頭ハンターたちが討伐へ向かいました。しかし苦戦し、見かねたギルド総本部が緊急帰還令を出したのですが…戻って来たのは」


「………すまない、2人を見失い私と彼女だけで帰還となった」

「…油断をしていた。」

長身の男と、凛々しい女ハンターがボロボロの姿でそこにいた。ということは、近くにその討伐対象モンスターが居るってことか。ヒヤリと背筋が凍る。

「………今すぐ、戻り討伐を!」

男はボロボロのまま、しばしの休憩をしたとばかりに立ち上がりとびだそうとする。ソレを止めるのは、我がキャラバンの団長だった。

「…そのまま行ってどうする。そのまま犠牲になるのか?意味がないぞ!」

我がキャラバンの団長は顔が広い。広すぎて交友関係がほぼ不明だ。筆頭ハンターとも知り合いだとは、驚きだった。

「…しかし、筆頭ハンターの私たちが行かねばまた被害がでるだけです!」

「…………こほん、えーいいですか?まだ、話は途中です。」

ギルドカウンターの女の子は、ひとつ咳払いをして話を強引に戻した。まだ、話は続いていたらしい。


「緊急事態ということで、特別G級クエストの解・禁です!既にクエストボートに張り出させていただきました。クエストに挑戦できる人数は限られていません、ギルド総本部、各地のギルド支部からGランクハンターでなくともハンターであれば誰でも挑戦できます。クエスト達成したハンターにはギルドより報酬を払います。さぁ、どんどん挑戦してください!」


どうして、緊急事態というのにと周りのハンターたちは戸惑いを浮かべる。そんな中好奇心に負けて、クエストボートをみたハンターたちが騒ぐ。


「人捜しクエスト?それだけで、こんな多額を?!」

人捜しクエストでGランクだというのもおかしいが、金額が驚きだった。俺が一年、二年頑張ってクエストを遂行して得た金額よりもさらに上だ。といってもまだ駆け出しすぎて本当にわけのわからない金額だ。筆頭ハンターたちは、それを見て驚愕した。たぶん、緊急クエストよりも多い報酬だったのではないかと思う。

筆頭ハンターたちは、カウンター嬢に駆け寄り言う。

「なぜ、緊急クエストが人捜しなのだ?行方不明のハンター2人の捜索ならばまだしも、全く違う人物ではないか!」

「……彼らを見捨てるというのか?」

問い詰められたカウンター嬢がおののきながらも口を開く。

「現在、ギルドマスターの命によりモンスター調査員達がモンスター調査を切り上げ捜索しております。調査員たちは捜索の手練れが多いので、任せておいてください。」

「…なら、ハンターも使えばいいだろう?」

「…筆頭ハンターたちで適わぬモンスターと鉢合わせたハンターはどうしますか?ハンターたちは何が何でも立ち向かう人が多いのです、みすみす死に行かせるわけにはいけません」

「………なぜ、なぜだ?!」

全く関わりのないクエストに次々に挑戦していくハンターたち。キャラバンの団長もクエストボートを眺めそして、俺に耳打ちをする。

「ガジェット、お前さんも行ってこい。アイツ等の力になってやってくれ」

なぜ、団長がそういうのか疑問に思いつつもクエストを受けるためカウンター嬢の近くへと行く。

「あのクエストは、Gランクの緊急クエストが発令しギルドマスターが解禁だと令を出した際にクエスト解禁します。探し人は、Aランクハンターです」

「Aランクハンターだと?聞いたことのない私たちGランクが一番…いや、Aランク?」

「知る人ぞ知る、ハンターらしいのです。私たちカウンターをしている者でさえ会ったことのない人がほとんどです。どんな人物かも不明、ギルドマスターいわく数年前に行方知れずとなった我がギルド最強のハンターです。特徴もなにもかもが不明すぎてGランククエストに分類されています。」

「………最強のハンター…」

今まで筆頭ハンターが最強だと言われていたのは実は嘘でAランクハンターが居るってどういうことだ!?

「現在、Aランクハンターはただ1人。その方しか相手が出来ないだろうとギルドマスターの見解です。はい、あなたがた筆頭ハンターたちの調査報告によって十分に調べた結果、Aランクモンスターと認定されました」


ならば、そのAランクハンターを探さねば。

「すみません、俺もこのクエスト受けます」

どこに居るのかも分からないそんな、謎めいたハンターを一目みたいという思いもあって団長に言われたから行くわけではない。自分の意志で行くと決めた。

「はい、承りました。どうぞ、頑張ってください!」

カウンター嬢の後押しに、駆け出した。他のハンターたちのあとを追って。



****


喧騒に包まれていたギルド支部がいつの間にかガランと閑散とした。残っているのは、カウンター嬢と支部長、筆頭ハンターの2人にキャラバンの団長だけだ。

「……もう、回復した。私は行く」

筆頭ハンターの1人が立ち上がる。

「……君は、もう少し休んでいたまえ。あの時、私を庇っただろう?」

「いいや、大丈夫。私も行く」

女ハンターも立ち上がり、武器を装備し始める。

「ダメですよ、そんなボロボロのままいくなんて!せめて、傷とか治して…」

「ギルドマスターよりも重々見張るようにと仰せつかっている。行かせるわけにはいかない」

まだ、若い支部長は鋭い瞳は一段と細めた。

そこへ、

「…あれ、なにこの閑散としてる感…お邪魔でしたー?」

現れたのは、ノアだった。紫色の髪をサラリと揺らし、首を傾げる。

「………行く、止めても無駄だ」 

そう、長身のハンターは彼女が立つ支部の戸へ向かい歩き出した。それに続く女ハンターは慌てて歩き出した。

「…怪我してますねー。使ってくださーい」

回復薬が入った薬瓶を何個か取り出してずいっと渡す。それを払いのけた男ハンターのせいで薬瓶がゴロゴロと転がる。

「あ、もったいないですよー。なに、するんですかー?」

慌てて女ハンターが集めて、「私が使います。すみません、彼気が張ってて…」申しわけなさそうに小さな声でいった。

「いいんです、一番、あなたが怪我してますねー。そういう人が使うと嬉しいのでー大丈夫ですー」

紫色の瞳を細めて、男ハンターの背中をみる。後ろに駆け寄っていく女ハンターの背をみて笑みを浮かべた。

「苦労してる、頑張ってくださいねー」



「………いかせては、ダメですー!」

「…俺が追いかける!君はここにいたまえ!」

支部長は慌ててカウンターから飛び出していった。

「…ノア、どうした?」

「…団長さんが慌ててガジェとでていったのでー皆さん心配してましたよー?」

「…そうか、うむ。一旦戻ろう。ガジェットはクエストに行ったし、報告する為に帰るか」

団長は、頷いてノアに向き直る。「ガジェ、クエストに行ったんですねー。でも、戻ってきたばかりじゃー?」

「そのクエストボート見てみろ、ノア。お前さん、たしかクエストボートのみかた分かるだろう?」

「そりゃー、団長さんってやっぱり元ハンターですよねー?」ノアはにたりと笑み、訊ねた。団長は、図星のようでなんとも言えない顔をする。

「ガジェットには感づかれてないのにな。いずれ、バレるとは思っていたがお前さんが先に気づくとはな」

「…あ、最初から思ってましたよー?ハンターの癖が全面に出てたからですねー」

「お前さんは、やっぱり侮れないな。」

肩をすくめて団長が言うのを横目に、ノアはクエストボートに目を向けた。そして、固まった。

「…え、こんな報酬。まるで、手配書みたいですよー」

「…たしかにな、行方くらますとこうなってしまうのか?いや、Aランク故にか?どちらにしよ、俺達には関係ないけどな」

ハハハハと豪華に笑う団長の横で、苦笑いを浮かべるノア。そして、くるりと踵をかえして戸へと歩き出した。

「……ノア?戻るか?」

「団長さん、私仕事あるので1人で戻ってくださーい」

駆け出したノアは一旦立ち止まり、もう一度クエストボートをみた。手をひらひらと団長に向けて振ると、ポケットに入っていたナニかを投げた。



*****


「閑散としすぎめて、暇。支部長は追いついたのかしら?」

カウンター嬢は机整理をしながら独り言を呟く。もうそろそろ、戻ってもいいはずなのに戻ってこない支部長と筆頭ハンターたちを思い浮かべる。

「ああもう!掃除しよう!掃除!」

騒然としていた支部内を掃除しようとカウンター嬢は掃除道具を持ち出して1人始めた。支部といえども結構広いので大変だが黙々と続ける。そして、クエストボートの所に近づいて漸く気づく。

「…もう、誰ですか。こんな、イタズラをして」

グッサリと刺さったナイフに気づきクエストボートに近づく。ナイフは、特別G級クエストの紙に刺さっておりナイフと共に刺さっているのもを見つける。一枚の小さな紙切れをみて、彼女は驚いた。

「クエスト完了の烙印?どうして……何時の間に?」

クエスト完了をしたら支部の人間が烙印を押す決まりになっており、その烙印が押された紙切れがあった。それは、イタズラにしては難しすぎることだった。

支部内にいる人間に誰にも見つかることなく押すことは不可能に近い。ましてや彼女はずっとその烙印の近くにいたはずなのに。



*****



「あと、もう少しです!先輩!」

青年は怪我を負った先輩に肩を貸しつつせっせと歩みを進める。隣の先輩、引き締まった大きな体を申しわけなさそうに後輩に預けている男は、すまない。と返す。

「……できるだけ、隠れつつ戻りましょう!今、ヤツに鉢合わせでもしたら…」

青い顔で呟き、歩みを止めない。



遠く、空の上から咆哮が聞こえブルリと身を震わす。このままじゃまずいと青年はおもったが先輩は手負いで急げる訳もなく。必死に歩みを進めた。

もう一つ、咆哮が聞こえた。ヤバい、そう思った青年は半ば引きずるように急ぎ足になる。

「すみません、先輩!ちょっと、急ぎましょう」

「ああ、大丈夫だ」


「あ!!」

突然声が聞こえ、2人は聞こえた方をみた。すると、そこには装甲の薄そうな装備を身に纏った青年。

「……もしかして、筆頭ハンターの?」

青年は恐る恐る、訊ねてきたのでこくりと頷く。

「うぉう!はじめまして、俺ガジェットです!って、さっきの咆哮は」

テンション高めだった彼はいきなりダラダラと汗をだしはじめて顔を真っ青に変えてゆく。ああ、気づいたのだなと2人は思った。

「ああ、だから先を急ごう」

それに頷いた彼をみた後、また歩みを進める。


ドン、地を割るような振動に襲われ足がとられた。3人は恐る恐る、振り向いた。その先には、


筆頭ハンターさえも手に負えなかったあのモンスターがそこにいた。ジッとこちらを見ている。

ジリジリと後退する、気づかれたらきっと終わりだ。

真っ黒な体躯、何倍もの大きなその巨体と戦う。無理だ。そう、ガジェットは呟いた。そして、ピクリと反応したそのモンスターはこちらに向かって跳ぶ。3人は踵を返して、すんでの所で逃れる。 


「………ギル、行け。俺をおいて行け」

「なに、言ってんですか?!先輩!ジルド先輩!」

「俺は、足手まといになどなりたくない。」

「お、俺!担ぎます!ええと、ギルさんよりは身軽なんで!」

ギル、と呼ばれた青年は大きな剣を背に装備している為、ジルドという男を担ぐことが出来なかった。武器を捨てるという選択もあったがもし、あのモンスターが襲って来た場合もう手はない。故にしぶしぶと肩をかしていたが、ガジェットは片手剣のために腰に装備した剣と盾のみで背はあいている。

「…煩わせるのは、不毛だ。行け!」

「ええと、ガジェット!俺が気を引いている間にジルド先輩を連れて先に行ってくれ!」

「分かりました!俺、全然戦闘に力貸せそうにないので!」


「…くそっ」


ギルは、気を引くために攻撃を仕掛けた。弾かれ、その大きな爪が襲う…!…「んにゃー!!」

襲われかけて、突如横からの衝撃によろめいた瞬間隣に爪がめり込む。

「…っぶね!って、猫?!」

「…んにゃぁ?」

武器をもった二足歩行の大きな体躯の猫は、ギルをちらりと見た後モンスターに突っ込んでゆく。的確に弱点を狙うその猫は戦闘猫というモンスターであり時たまにハンターを気に入り仲間にしてくれと請う場合がある。つまり、ハンターと共にクエストをしに行ったりと付いて来るのである。その名の通り、戦闘に特化した猫だ。故に、その戦闘能力は凄まじいが野良の戦闘猫が人間を助けるなど有り得ない。襲う、ならまだしも。


ということは、

「…ガジェットのか?!」

「うおぅ!戦闘猫はじめてみた!」

違う?ならば、誰の?

と気がそれている間に、戦闘猫は一匹で戦う。と、モンスターががくりと倒れた。そこを、狙いギルは大剣を振り下ろした。


ブォォオー、戦闘猫はいきなり角笛を吹いた。

立ち上がったモンスターは猫目掛けて尻尾をふりまわした。ぶつかった猫は、ごろりと転げモンスターは猫に襲いかかる。


「シィーカ!おーまーたーせっ!」

突如天が陰る。上から落ちてくるのは、1人の装備を固めたハンターらしき人と 一匹の小さな猫…いいや、戦闘猫だ。

「にゃーにゃー!」「にゃーにゃー!」

合流した二匹の戦闘猫は、掛け合いを交わす。

「ほら、久々の大物だよー!」

その聞こえるのは女の声だった。その小柄からは想像もつかないような大きな得物を振り回しモンスターの頭へ振り下ろした。ガツン、大きな音が響くモンスターは怯む。

その隙を見逃すことなく次々に攻撃を入れてゆく、モンスターは咆哮した。うっとなるほどの鋭い声が頭をつんざく、しかしそのハンターは攻撃をやめることなく続ける。

「カシュゥー、いっけぇー」

すると、クリーム色の毛色の戦闘猫が徐に樽爆弾をモンスターの足元に設置。そして、角笛をもった黒毛の戦闘猫は角笛を放り投げ足につけた小さなポーチから投げナイフを取り出し爆弾へと投げた。トンっと小気味のいい音がし、ドンっと爆発。しかし、モンスターは倒れない。


「…すげぇ、って…違う!俺も手伝わないと!」

ギルは、駆け出してそれをみたジルドは武器を杖にモンスターへと進み出した。それにガジェットもならう。大勢の方が、有利だ。

「あぁぁぁぁぁあ!」

モンスターの上へと落ちてくるのは、先程からモンスターとやり合うハンターだ。先程よりもさらに大きなその武器をモンスターの背に向けて落ちるスピードをさらに上乗せした力で一気に叩き込んだ。


膝ががくりと崩れたモンスターは一気に頭から地に伏せた。


そう、戦闘は目の前で終わりを告げた。


「あぁ…、剥ぎ取りだー。ちゃんとーシィーカもカシュゥーも剥ぎ取ってねー」

のんびりと解体を始めたそのハンターに驚いた3人はがくりと腰を抜かした。先程までは妙な緊張感につつまれて立っていられたのだった。

「?…キミたちも手伝ってくれますかー?」

こちらをちらりと見て、言うそのハンターの声に今更聞き覚えがあることに気づくガジェットはそのハンターの近くに近づいてゆく。膝が思うように行かなくて、苛立ちを覚えるがどうにもきになる。

「ガジェ、いい武器つくれますよー?」

「……………え、嘘だろう?なんで、」



「………私が、ここにいて、…私があのモンスターを倒したのか?ですかー」


頭につけていた兜を外し、サラリと紫色の髪を靡かせた。そう、そこには、彼女、

「ノア」

ガジェットは、名前を呼び一歩進んだ。するとノアは、笑みを浮かべて言った。

「答えは、簡単ですよー。私がハンターで、アレはモンスター。私の討伐対象だからでーす。そして、私には緊急指令がでてましたのでー即座に討伐させていただきました」

辺りはシンと静まり返った。誰もなにも言えず、立ち尽くす。ただ、ノアだけが笑みを浮かべて後ろでは戦闘猫たちが解体を続けておりバサリ、ザシュッと切り刻む音がグロテスクだけれど。

ガサリ、ガサガサと葉が擦れ合う音がしジルドとギル、ガジェットは勢いよく反応した。ノアは、余裕のままに解体を再開した。

「ジルドー!ギルー!…居たぞ!……!!」

現れたのは、筆頭ハンターの中のリーダーと女ハンターだ。

「サム、リエータ…」

「先輩たち!」

「…無事、みたいだな。……あれは、一体どういうことだ?」

リーダーである、サムは先程無碍にした娘が自身たちが手こずったモンスターを解体していることに驚いた。俺より先に現場にたどり着き、尚且つ討伐していることもすべてが。あんなに細い腕で、背に装備された得物を振り回せるのか?いいや、たまたま倒された所にたどり着き解体を1人でしているのか?

「おやー、皆さんお揃いでー。ごめんなさい、私が放浪してたせいでアナタ方に怪我を負わせてしまいました。言い訳をするなら、召集命令が出てたなんて知らなかったんですー。行方探しのクエストまでもが出てたなんて知らなかったんですー」


え?と、誰もが思った。そもそも、どうして彼女がここにいるのか未だに理解出来ていなかったのだ。

「…ノア、もう一度聞くけど。ノアは商人なんじゃないのか?」

ガジェットは、知った仲ということもあり初めて声に出せた。

「…?私、商人だとか言ったことありましたっけー?」

こてり、頭を傾けてハテナを浮かべている。

「…ああ!クエスト報酬が溜まりに貯まってたので片っ端から売り回ってたんですー勘違いしちゃいますよね、うんー」

と、首に下げていた革紐を手繰り寄せその先について小さな笛を吹いた。ピュウイ、天まで届くような音はあたり一面を響き風が凪いだ。ゴォウ、風が唸り天が陰る。辺りは暗闇に包まれたかと思えばドォンと地を割るような衝撃に瞠目する。そして、目の前に佇む竜に一同一様に驚いた。それもそうだ、伝説級のモンスターがそこにはいたから。


数年前まで、人の恐怖の対象だったそのモンスターの名をラオリウス、白金の竜王は頭をもたげてノアに甘える仕草をする。かの竜は誰も討伐不可能のA級モンスターだったがそう突然姿を消したらしいとギルド内での噂だったその竜がノアに懐いていた。

ノアがポンポンと鼻の辺りを撫でる?叩くと竜は大きな箱をドンっと降ろした。ゴソゴソとノアがその箱を漁る間もジッとノアを見つめる。


「あったー、久々にハンター証を見たー!」

アハハハ、と楽しげな笑い声を上げて彼女は小さなソレを片手にこちらへと駆け出した。カシャン、ガシャン、と鉄の擦れ合う音が異質に響く。彼女の背の大きな刃は、ユラユラと動き彼女が走るのを邪魔をする、と立ち止まり徐に装備を外した。

ズドンっと重たい音が響き、地は微かに揺れた。ふぅ、と彼女は一息つくとまた駆けてきた。後ろでは、戦闘猫二匹が一生懸命にその武器を掴み引っ張っているが少しも動く気配もなく二匹は諦めてその場に寝転がる。


「はい、私がハンターだと証明するに必要なものですー!」

ガジェットの手に納められたそのハンター証は、ガジェットのそれと似て非なるモノだった。ガジェットのが茶色でガジェットの顔が貼られその横にハンターランクがデカく分かりやすいように明記され、その下に名前等がかかれているが彼女のは黄金色であとは同じように明記されている。ノアの顔の横には、大きくAとかかれていた。

「…ノアが、最強のハンター?」

「…ううん?最強かは知りませんがー一応、Aランクですよー」

にこり、笑みをうかべていった。自分より遥かに細身で、あんなにも大きなモンスターを数分間で倒してしまったのだ。

「…まぁ結構弱ってたのでーあっさり倒せたので良かったですー。ここ二年、アレ持ってなかったので結構疲れましたー」

そういう、ソレは地面にめり込んでいた。ガジェットは、その高そうな武器を見てこんな所に放置するなんてと持ち上げようとするも


膝から崩れ落ちた。

「んな、こんな重てぇもんよく持てるな!?」

そう叫んだ彼にわらわらと筆頭ハンターたちだ。その中でもギルが一目散に駆け寄り、力ねぇな!などといいながら掴むもプルプルと震えるだけで一向に持ち上がる気配はない。

そして、そんな馬鹿なとつかむはリーダーである、サムだ。


一瞬持ち上がりかけたが、ズドンと地に真っ逆さまに落ちた。

目を見開いたまま、サムは固まった。


「…?ひ弱すぎますよーこんくらい、もてないとー」

ヒョイと軽々と片手で持ち背に装備した。

どこに、それを持てる力があるのだと皆が驚いた所で捜索部隊が漸く捜索対象であるギルとジルドを見つける。そこには、ここには居ないハズの筆頭ハンター2人といかにも駆け出し感のあるハンターと異才を放つ女ハンター。

「……ノア?ノアか!おお、漸く見つかったのか!」

捜索部隊といえどもいつもはモンスター調査やハンターランク調査等を行っている調査員の中の1人が嬉しそうに声をあげた。

ノアは、その男に近づいてゆくと

「マグリオ!久しぶりですねぇー!元気でしたかー、って元気で何よりですー」

「ノア、お前はどこをほっつき歩いてたんだ?お前がいりゃぁすぐ討伐してお終いってクエストが一杯だったんだぞ?この二年」

「そんなぁー次代のハンターが育ちませんよぉ」

「バカ言え、お前さんはまだまだ先へゆける。いや、すでにA級より上かもしれんな。まだ、20だ15でA級ハンターになったんだ、お前さんは」

「はは、モンスターがA級しかいないのにその先ってなにーでしょうねぇ?」

「それも、そうかぁー」

カカカっと笑い声をあげるその男の言葉が驚きを隠せない。15でA級だと?G級になるにも苦労した筆頭ハンターたちは信じられない話にめまいがした。

「………あ、ギルマスに会いに行って土下座しとかないとーですね。二年もほぼ失踪状態になってたみたいだしー怒られますかねー?」

「マスターは、ノアに甘いからなぁ。大丈夫だろう、っといけねぇ残りはギルドが貰っていいか?」

マグリオは、解体されたモンスターの残骸を指差してノアに訊ねた。ノアは、うんと頷く仕草をして手を振った。大きな箱に背に装備していた武器を仕舞い、鎧など防具を脱ぎ去るとガジェットのよく知るいつものノアだ。大きく伸びをしたあと、戦闘猫を撫でてにぼしを与える。

「はい、おやつですよー。カシュゥー、シィーカ」

「…ノア、なんでハンターだって言ってくれなかったんだ?」

「え、聞かれなかったから?」

ケロッと言ってのけたノアに、唖然とする。まぁ、商人だと思い込んでいたし聞くきっかけもなかった。まさか、ハンターだとは、ましてや伝説級のハンターだとは彼女からは全く想像もできない。

「さてと、迷惑かけましたー。私、マスターの所にいきますがどうしますかー?」

筆頭ハンターたちに向けて言った言葉に、彼らは顔を見合わせて頷いた。ガジェットは、俺も行く!と叫ぶとノアはまぁいいですけどーなんでです?と言われうっとつまる。

「いいから!その前に団長に、報告してからでもいいか?」

「ああ、そうですねー。マスターに報告したあと、私は行くとこあるのでー挨拶しておかないとですねー」



****


「……参った。まさか、ノアがハンターだったなんてなぁ」

思いつきもしなかった。団長は珍しいく唖然を隠しきれない表情で零した。誰だってそうだろう、俺だってそうだった。ガジェットは思った。

「団長さんは知ってると思ってましたー」

「いいや、全くだな!」カハハと笑って審美眼があるな、とは思っておったがなぁ!と言った。そう、報告したのはぎギルド支部内であの特別G級クエストが完了したことで呼び戻されたハンターたちでごった返していたのもありノアは多くのハンターから囲まれた。

「すごいです!私、気付きませんでした!あなたがA級ハンターだとは、!わー、すごい握手してください!」

団長の横から、カウンター嬢が割り込み手を差し出してきた。ノアは引きつりながらも握手に応じる。その表情は、なんだこれ。だ。

「…………なぜ、筆頭ハンターが俺よりさきに戻っている!」



漸く戻ってきたらしい支部長は、膝から崩れ落ちた。

冷静になった時、すでにノアたちはマスターのもとへと発っていたことを知ると嘆いた。そんな、A級ハンターと一言も言葉を交わしていない!と。


それほど、A級ハンターは伝説級なのである。



*****


「マスター、ごめんなさいですー」

美しい土下座をかますと、マスターは慌ててノアを立ち上がらせた。

「ノアよ、生きていて何よりだ。生きているとは信じておったが、うむ…それにしても、美しくなったものだ。」

「…マスター、放浪しすぎて本当にごめんなさい。それと、美しくとは全く関係ないと思うのですー」

「そうか、そうか。」

「ああ、勝手に私を探すクエストなんてー出さないでくださいよー。次、はないとは思いますけどー私、怒りますよ?」


一気に気温が下がった気がした。スッと瞳を細めたマスターは、うむ。と頷いた。

「それと…君たちお帰り。と、君も」

座り込むハンターたち、彼らは筆頭ハンターとガジェットだ。

マスターは、ガジェットの顔に見覚えはないもののギルドメンバーである彼も歓迎した。

マスターの隣に座ってノアはくつろぎはじめた。

「マスター、ごめんなさーい。私のラウに乗っちゃったから酔ったみたいですー」

ノアの言う、ラウとはかの伝説級のモンスターだ。

「ラウ?なんだ?」

「そっか、二年前に友だちになったのでしたー!ラウとは、ラウリウス!ドラゴンでーす」

マスターは手に持っていたナニもかもを落としてしまう。

「…ノアよ、君は本当に侮れない」


「ねぇ、マスター?」

「なんだ、ノア」

「緊急クエスト、また出ちゃってるみたいですよぉ?」

「…………む、ノア行ってくれるか?」

「はいはーい!報酬、上乗せありですー?」


「の、ノア!俺も行くー!」

「私も、行かせてくれ!」

ガジェットが言い出した途端に、筆頭ハンターたちも立ち上がった。ノアは、くるりと踵をかえしてキョトンとした。

「すぐ、終わっちゃいますけどー?」


無言の訴えに負けて、ノアはしぶしぶと了承した。

そして、またノアは伝説を生み出していくのである。


伝説のハンター。実は女だとか、美人だとか、知るのは数少ない。それよりも、幻と呼ばれるクエストがあった。今はもう、そのクエストが解禁することはない。


特別G級クエスト、A級ハンターを探せ!


「さあ、ラウ!一気に行きますよー」

大きなドラゴンの背に細身で背に大きな武器を装備した、女ハンター。彼女こそが、A級ハンターだからである。



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