表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワスレナグサ  作者: 柳井飛鳥
相田守の場合
2/3

相田守の場合その2

一軒のボロアパートの前でたくまが立ち止まった。

『くちなし荘』と達筆で書かれている木の板がドアの横にかけられていた。

ボロアパートと同様、その木の板も年期が入っていた。


「ここが、まもるの生活する家だ。」


たくまがドアを押すと、ギィと古臭い音を立てた。

続いて、俺もボロアパートに足を踏み入れる。

意外なことに、ログハウスのようなウッド調のおしゃれな壁の廊下が目の前に現れた。

玄関で下駄を脱いで、靴箱の『相田守』と書かれたプレートが貼られている上の段に置いた。

その他にも、何人かが住んでいるようだ。

プレートの数は俺の分も合わせて6つだった。

『山田拓真』は、こういう字を書くのか。401号室のプレートを確認した。


どたどたどた、と大きな足音をたてて廊下を走ってきたのは

小学校高学年くらいの男子だった。走るたびにぴょんぴょんとはねる癖っ毛。

その子は大きな瞳で俺を下から上へ、上から下へ、視線を一往復させた。

それから、俺の太ももをばしばしと叩いて、


「期待していた通り、筋肉バカそうだな!」


頬を上げて白い歯を見せ、にんまりと笑った。


「稔、失礼なこと言うんじゃない。」


「いいやつそうじゃん。仲良くしてやらんこともないぞ。」


俺は屈んで、稔と呼ばれた男の子の目線に合わせた。


「えっと、稔君は・・・」


ビターンと大きな音をたてて鳴ったのは自分の頬だった。

両頬を勢いよく両側から抑えられるようにして叩かれたのだ。

理解をし始めてから、じんじんと頬の痛みを感じた。


「俺は、こんななりしてても、昭和58年生まれだぞ。

 稔先輩と呼べ。」


「現世でも言うだろう?『人は見かけによらない』って。」


おそらく、これはここに招かれた人たちが受ける洗礼なのだろう。

驚いた表情も見せず、拓真はさらりと言ってのけた。

現世とこっちの世界では、『人は見かけによらない』という言葉の

使い方がどうも違うような気がする。

じんじんと痛む頬を撫でながら拓真の後に続いて、廊下を進んだ。



通された部屋の壁は打ちっぱなしのコンクリートで、

配管が壁にむき出しに張り巡らされていた。

リビングとダイニングとアイランドキッチンが一つの空間にある、広い部屋だった。

その壁には2つの小さな観葉植物の鉢がつるされて飾られている。

外から見たボロアパートからは全く想像がつかない内装だ。

部屋の片隅には、暖炉があった。火はついていない。

本物は初めて見たような気がする。


「適当に座っていてくれ。」


拓真はそう言うと、カウンターキッチンの方へと向かった。

適当に、と言われたが、ダイニングの椅子に座るか、

カウンターキッチンの横にある座る位置がやたら高いおしゃれな椅子に座るか、

はたまた、座りごこちのよさそうなソファーに腰を深く下すか、

悩んで、その場に立ち尽くしてしまった。


稔先輩は深いグリーンのソファーに勢いよくダイブして、

横になってテレビの電源を入れた。

少し昔のアイドルが映し出された。

かなり最新型のテレビだと思われるのに、画像が悪かった。

おそらく、テレビ局が昔の映像を流しているのだろう。

番組内容は、差し詰め、懐かしの80年代アイドルの特集か。


「まあまあ、座りたまえよ。」


なんて言って、自分の寝転がるソファーを指さした。

俺はそれに従い、稔先輩の足元に腰を深く沈めた。

思った以上の心地よさだった。

相当高い代物なんじゃないだろうか。


「コーヒーでよかったか?」


小さな丸い盆にお揃いのコーヒーの入ったカップと、ソーサー、

スプーン、砂糖とミルクの入った小さな籠をのせて拓真が聞いてきた。


「ああ」


短く頷くと目の前の低いテーブルにそれらが並べられた。

それぞれ、2つずつだった。

その並べられた位置からして、稔先輩は飲まないようだ。

拓真はひとり掛け用のソファに浅く座って話を切り出した。


「まず、話しておかなければならないことがある。」


稔先輩が、相変わらず古い映像を映し出すテレビを消して起き上がり、

首を回しながらソファに行儀よく座りなおした。

拓真は俺から見て右上をホッチキスで留められた

プリント用紙数枚の裏側を俺の目の前に差し出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ