クリスマス 前編
遅れましたが、クリスマスの話です。
砂糖のような甘さを目指しているのになかなか甘くならない……、何故だっ!
「うわぁー、お姉ちゃん! ありがとー!!」
私にそう声を掛け、嬉しそうに走り去っていく10歳くらいの男の子。
私も嬉しくなり笑みをこぼしながら手をふる。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんっ! もっと欲しいぃぃ!!」
そう言いながら、私の腕に張り付く7歳くらいの女の子。
張り付かれたままにするわけにもいかず、仕方がないので私は女の子にこれが最後だよ、と念を押してプレゼントを渡す。
「べ、別に、ほ、欲しくなんかないんだから。で、でも、もらってあげないとお姉ちゃんが可哀想だから、そのプレゼントを貰ってあげるっ! さっさと、それを渡しなさい!!」
そう言うと右手の甲を下にし、手を目一杯開いて私に差し出す11歳くらいの女の子。
この子ツンデレ!? しかも、随分上から目線な子だ、などと思いながらもその手にプレゼントをのせる。
「ねぇねぇ、サンタさん。僕と友達の分で2つ貰っていい?」
「うん、いいよ。はい、どうぞ」
「ありがとうっ!」
輝かしい笑顔でお礼を言い、不思議そうな顔をしてる友達であろう男の子のもとに駆けていく、12歳くらいの男の子。
友達の顔からして、さっきの子は私を見て自主的に取りに来たのだろう。
サンタに見えなくもない、かな? という具合の赤い服を着ているだけの私をサンタさんと呼んだのは、これまでもこの先もきっと君だけだよ。きっといい子に育つわ、と思いながら見ていると、友達のもとにたどり着いた男の子はプレゼントを右手に持ち、友達に向かって左手を差しだし、300円と満面の笑みで言っていた。手を差し出された友達は驚愕したような表情をしたが、プレゼントは欲しいらしく渋い顔をしつつも、300円を彼の手にのせる。
み、見てはいけないものを見てしまった! まさか、あの子が腹黒だったなんて!
「あ、あの、私も貰えますか?」
「あ、はい。どうぞ」
プレゼントを手渡そうと、先ほどの男の子たちのやり取りから目を離し、声の方に目を向けると、そこには30歳をゆうに越えているであろうサラリーマン風のおじさんが立っていた。
ええええっ!? おじさんっ!?
どうも、声が子供にしては低いと思ったよ!!
一度肯定してしまったので、やっぱり無理です、とは言いにくい。別に子供限定と言っているわけではないし、子供の年齢も決まっていない。この人のことを子供と言えなくも、……ない、……と言うにはさすがに無理が……、いや、ない。彼は"子供"だ。私が今決めた。
勝手に決めたが、まあ、多分大丈夫だろう。もし何かあったら、ヤツに押し付けよう。
その人のことがあったからか、その後は大きな"子供"たちも混ざっていった。18歳ぐらいの男の人もいたし、80歳を越えたと豪語しているおじいちゃんもいた。
だが、彼らは皆、"子供"なのだと自己暗示をかけてザックザックと配っていった。
一段落ついて、私は色々な"子供"がいるなぁ、としみじみ思いながら、このような状況になった経緯に思いを馳せらせた。
このような事態に巻き込まれたのは、まぁ、予想がつくかもしれないが、行事や祝い事が大好きなヤツのせいだ。
ヤツは、今日はクリスマスだよな! 俺も小さいときはサンタさんに会いたくて一日中起きていたのを覚えてるよ。その時はプレゼントが貰えなくてすっげぇ悲しかった! あぁ、そうだっ!! 子供たちに夢と希望を与えるためにも、クリスマスプレゼントを配ろう! と、のたまった。
資金の問題もあるからどうせ無くなるだろうと、たかをくくっていたのが悪かったのだろうか。その資金を差し出すものが現れたのだ。病院の院長をしているヤツの父親だ。
プレゼントに、病院の名前をいれて配ると宣伝になるし、住民たちの評判も上がる。なにより、自分の息子が好きでやると言っているのだから人件費が少なくてすむ。
一石二鳥ならぬ一石で三鳥も取れるのだ。お金も余裕があるため、資金の援助を二つ返事で引き受けたらしい。
と、言うわけでヤツの戯れ言は決行可能になってしまった。
私は予想通りと言うか、例のごとくと言うか……。クリスマスに何が悲しくて子供たちにプレゼントを配るというボランティアをしなければいけないんだ、と反論したにも関わらず有無を言わさぬ早業で巻き込まれ、なんだか見覚えのあるようなないような公園で、プレゼント配りを強制的にさせられていると言うわけだ。
ヤツはだんだん私を巻き込むことに手慣れてきている気がする。私を巻き込むことに罪悪感ももう抱いてなさそうだ。あー、いや、違うか。ヤツはもとから罪悪感何てものは抱いていなかった。
ちなみに、その発端のヤツは楽しそうに子供たちに囲まれながらプレゼントを配っている。赤いサンタの服に、真っ白な髭を装着しているのだが、サンタに全く見えないのはなぜだろう。それに、よく見ると鼻に真っ赤な丸い鼻を付けていた。
それはトナカイだろう!
ツッコミをいれたいのを必死に抑え、目の前の"子供"たちに笑みをつくってプレゼントを渡す。その時の笑顔がひきつっていたのは仕方がなかったのだと思うことにした。
それから、数時間。私は立ちっぱなしで"子供"たちに囲まれながらプレゼントを配った。
外でやっているため、太陽が沈み始め、空が冬の寒さで透き通った綺麗な夕焼けから徐々に暗くなっていくのが見てとれる。
時間帯的にもそろそろ終わるかな、やっと解放されるのね!
と、つい解放される喜びで気が緩み、笑顔を"子供"たちに振り撒いていると、
「あれ? 何してるの?」
彼に会ってしまったのでした。
さあ、彼とは誰でしょう……?
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