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ツイン・エッグ・アンハッピー

たぶん初の純粋なノンフィクションになります。

私はとあるファーストフード店でアルバイトをしている。

三年ぐらいやっていると、意外と何でもできるようになってきたし、順番に先輩が辞めていった結果、頼るより頼られる存在になりつつあった。


私も、それに応えようと必死になって頑張るし、注意だってできる。


今日も、接客をやりながら調理の新人の子を手伝っていた。


そして、仕事ができる子がもう一人。


その三人で仕事を回していた。


客が急に増えてきたので、新人の子が慌てだした。


でも、そんな事で私はイライラしない。


冷静に対処するコツさえ知っていればやれないことはない。


手早く卵を割って窪みに入れて蒸気で焼く作業を手伝う。


新人の子が、手間取る所はよく分かった。私も、同じ所で何度も失敗してきたのだから。


「カナ。悪いんだけどカウンター(接客)お願い。私、調理手伝うから。」


洗い物をやっていてくれたカナを呼ぶ。



私が卵を割ると、中から二つの小さな黄身が現れた。


私は、少し嬉しくなった。

けれど…小さな喜びなんだけれど、誰にも話せなかった。


私は冷静で、表面上は堅い感じに見られている。


的確に指示をするし、いつも仕事に関しては手を抜かないからだ。


それが理由で疎ましく思われたり、嫌煙されたりもする。


そんな私が、黄身が二つだったからって、それを楽しそうに話すだろうか。

違和感もあるし、自分の本当の姿を見せる気がして恥ずかしい。


こんな小さな幸せすら私は共有できないのだろうか。

それはとても寂しくて、気にしないようにしてきた事だった。


頭の中では、そんな事を考えて、それでも手に染み付いた仕事は素早く正確に終わらせていく。


この職場に居場所がないことは気付いていた。


前の私なら、迷わずに驚喜していたのに、なんだか無理矢理に自分を演じている気がする。


ねぇねぇ、見て見て。



いつから私は大人ぶった嫌なヤツになったんだろう。


小さな幸せが共有できないことで静かに収縮していく。


顔の筋肉をこわばらして、仮面を被り直す。


これが正常。これが私。


そう、いい聞かせる。


まだ二十歳にもなっていないのに、大人扱いされる事。


それに慣れる事。


辛いとか寂しいとかいう感情はなかったはずだ。


二つの黄身という、でき事のせいで仮面が少し破れてしまった。


素の姿を一瞬だけ出してしまった。


とても惨めで切ない気持ちでいっぱいになる。


仕事は相変わらず続いていいく。


「いらっしゃいませ。ここでお召し上がりになられますか?」


「それとも、お持ち帰りですか?」


私は誰ですか?


私は大人ですか?


私は嫌なヤツですか?



二つの卵黄みたいに、二人の私が反発しあう。


黄身が二つだった。


たったそれだけの事で、私はとても惨めで寂しくて、悲しい想いをしている。


自分が不幸だなんて思わないけど、小さな幸せが誰にも気付かれずにヒッソリと消えた。



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― 新着の感想 ―
[一言] ノンフィクションは書いたことがないんですが、事実を"小説"にするのが難しそうだな、と思ってます。その点、この小説はしっかりと"小説"らしくなっていて良いと思います。単純にノンフィクションとか…
[一言] 卵から、ここまで哲学っぽく思考を広げるって、スゴいですねo(^-^)o 私もこの物語のように、相反する二つの自分が中にいる人間ですね(いや二重人格とかの意味じゃなくて)私の場合は、現実と理想…
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