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親友と『断罪』


「__ニコラ・サマセット子爵令嬢。王家に背いたその咎により、貴様を断罪する!」

 それは、プラム・アプリシアにとって、紛れもない「最悪」だった。

豪奢なシャンデリアから降り注ぐ魔石の光が、王城の大広間を白々と照らし出す。



 この国の王太子__アルバーン・エストレイアによる断罪劇は、夜会の場で突如始まった。

 凍てつくような王太子の視線に動じずまっすぐに立っている、赤毛に栗色の瞳をした、いかにも下位貴族といった風貌の少女__この断罪劇の敵役であるニコラ・サマセットは、プラムの学友であり、親友である。尤も、仮にも侯爵令嬢のプラムとよく連れ立っている様子を、周囲は「取り巻き」だと思っていたようだが。



「聖女の再来にして我が婚約者、アメリア・モルガン男爵令嬢の侍女フローラを洗脳し、事実無根の悪評を捏造、さらには怪文書を流布しようとした罪。ニコラ嬢、なにか申し開きはあるか」



 声を張り上げる王太子の後ろで、アメリアが悲しげに目を伏せる。波紋のように、ヒソヒソとニコラを糾弾する声が広がると同時に、いかにも気まずげな視線がちらちらとプラムのほうへも向けられる。プラムは扇子で隠した口元から、小さく溜息を吐きだした。

 ニコラは微動だにしない。その真っ直ぐな瞳は、ただ一点、プラムの隣で肩を震わせている男を射抜いていた。

 __ニコラが私に、いや誰に対しても、爵位や年齢の差しときで媚びへつらい、取り巻きになんてなるものですか。ましてや、そのような陰湿な策略で、他人を陥れようなど。



 否。ニコラでなくとも、そんな乱雑な計画で「未来の国母」に真っ向から刃向えるような愚か者がそうそういるとも思えない。

 加えて、『聖女』に関する怪文書などという代物を、プラムは一度も耳にしたことがなかった。そんなものが実在し、悪意を持って流布されているのなら、噂話しか楽しみのないこの社交界で知れ渡らないはずがない。それを今、この夜会に参加している面々が初耳であるというのは、あまりに不自然だ。

違和感に気付いているものも多いはずだ__その証拠に、ニコラを非難する若者とは対照的に、老獪な宿老たちは壁際で目を伏せ、我関せずといった態度を貫いている。



 プラムは、貴族たちのこうした__自らの損得にのみ腐心し、明らかにおかしなことに対しても誰も声を上げず、生まれ持った地位や名誉を保身のためにしか使わない性質を、反吐が出るほど嫌っていた。 

「証拠は__ニコラがやったという、確たる証拠を見せなさい!」

 プラムの義憤による叫びは、アルバーンの冷たい視線に遮られた。

「プラム・アプリシアよ。貴女の友情は尊いが、事実は揺るがない。__トリスタン、前へ」

 


 プラムの隣から、一人の男が怯えた様子で進み出た。トリスタン・イグレイン伯爵令息。プラムの婚約者であり、王太子直属の騎士である。プラムの驚愕に満ちた表情に怯えた態度を見せながらも、彼は王太子に向かっておずおずと進言した。



「証言します……。僕は、ニコラ嬢が侍女フローラに、何かを書きつけて命令をしているのを目撃しました。僕は偶然その場に居合わせ、ふたりが去った後、その場でアメリア様に関する事実無根の怪文書を発見したのです。……それが、これです」

 プラムは気を確かに持たねばと自分に言い聞かせる。そうでなければその場で崩れ落ちてしまいそうだった。わけがわからなかった。

 トリスタンこそ、プラムがそういった(はかりごと)を行うような性格ではないと、よく知っているはずだった。むしろ、アメリアの苛烈な性格について、プラムやニコラに愚痴を吐いては困らせていたのは彼の方だったというのに。



 しかし、トリスタンが両手で広げた文書には、確かにニコラの筆跡で「アメリアは魔女、侍女に虐待をしている」といった内容が記されていた。

 ニコラは、震える手でそのままその文書を高く掲げるトリスタンを蔑むことさえせず、ただ小さく、溜息をついた。それは「信じる相手を間違えた」という諦観の表情だ。



 直後、アメリアがおずおずと前に出て、空中に指で魔法陣を描く。魔法陣は光を放ち、聖女の権能__『真実の鏡』の姿になった。



「ニコラ様……本当のことを教えてくださいまし。フローラは立場こそ侍女でしたが、同時に私の大切な友でもあった。それがあなたに洗脳されて、最終的には行方不明に……。きっと、あの文書に騙されてしまったのね。……これは、あなたが書いたの?」

 『真実の鏡』。鏡に映した相手にいっさいの嘘を許さぬ、強制自白の術だ。

 鏡の魔力がニコラに向けられる。意識が遠のくほどの圧力がかかっているはずなのに、彼女は凛と立ったままアメリアを真っ向から見据え__そして、満面の笑みを浮かべた。



 「ええ、私が書きました!それが何か?」

 いつも通りの、明るくさっぱりとした声。

 プラムは悟った。恐らく、何か退っ引きならない事情があったのだろう。それでもニコラは、それを語ることはしなかった。全て話して情を乞うくらいなら、自らの考える正しさに殉じる。それがニコラの__プラムの不器用な親友の生き様だった。

「自白したな、ニコラ・サマセット。貴様を反逆罪で捕らえ、塔へ幽閉する。即刻、連行せよ!」

 騎士たちがニコラの腕を掴む。彼女は乱暴に引きずられながらも、一度だけ私を振り返り、悪戯っぽく微笑んでみせた。



 広間に、張り詰めた静寂が広がる。この空間に残ったのは、保身のために婚約者の友すら売る卑怯者と、盲目の王太子、そして醜悪な『聖女』に、彼らを称賛するか、見て見ぬふりの愚か者ども。

 __ふざけるな。

 この馬鹿げた断罪劇には裏がある。プラムは貴族の保身と同じぐらい、理不尽__とくに、誠実に生きてきたものが他者の虚栄心や保身の食いものにされる類の理不尽が、大嫌いだった。


 

「……メアリー」

 背後に控えていた侍女に命じる。

「はい、お嬢様」

「アメリアと、トリスタンの身辺を、洗いざらい調べて頂戴」

 沸騰しそうな怒りに対して、プラムの声は氷のように冷えきっていた。

 血気盛んなのはアプリシア侯爵家の、文字通り貴族としての、誇り高き血統。

「鏡で真実を暴くのがお望みなら、目にもの見せてあげるわよ」

プラム様は親友がモデルです

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